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メキシコへのまなざし 戦後日本とメキシコの美術交流

埼玉県立近代美術館で2025年2月1日から開催している『メキシコへのまなざし 戦後日本とメキシコの美術交流』展を観てきました。

先日『空想旅行案内人 ジャン=ミシェル・フォロン』展のために訪れた名古屋市美術館で見た、メキシコの絵画が気になって。ネットサーチしていたら、この企画展に辿り着いたので。


きっかけは70年前の『メキシコ美術展』

この展覧会、タイトル通り、戦後日本がメキシコ美術をどう見て、日本人アーティストがどう受け止めたかということを示すという企画で、国内のギャラリーや美術館・教育機関から集められた約120点の作品・資料が展示されています。

興味深いのは、その最初のきっかけを1955年に東京国立博物館で開催された『メキシコ美術展』として位置付けている点です。

そのため、まず当時紹介されたメキシコ人画家の作品紹介に始まり、メキシコとメキシコ美術に魅せられ、その影響を受けた20世紀後半に活躍した日本人アーティストの作品を紹介するという流れになっています。

メキシコ壁画運動

その1955年の展覧会で紹介されたアーティストというのが、私が名古屋市美術館で気になったディエゴ・リベラ(Diego Rivera)を含む、メキシコ壁画運動を牽引した人々です。

メキシコ壁画運動とは、メキシコ革命下の1920年代に革命の意義や民族アイデンティティーを民衆に伝えるために盛んになった芸術運動のことで、媒体として公共建築の壁画が多く選ばれたことでこういう名前がついているそうです。

ホセ・クレメンテ・オロスコ『示威行動』より

上に挙げたホセ・クレメンテ・オロスコ(José Clemente Orozco)のリトグラフ『示威行動(Manifestation)』とか、確かに旧ソ連とか東ドイツで描かれたような社会主義リアリズムっぽい雰囲気なんですが、ただヨーロッパのそれと大きく違うのは、メキシコの歴史・風俗の色が濃いこと。残念ながら、載せた絵じゃ分からないんですけど。

西洋絵画をずーっと見ていると、やっぱりこのフォルムとか文化の違いってインパクトが強いです。

展覧会で紹介されたのはリトグラフが多くて、油彩が少なかったのが残念ですが、先日から気になっていたディエゴ・リベラについては、彼のヨーロッパ滞在期の『スペイン風景(トレド)』といういかにもキュビズムな作品を見て、メキシコ帰国後の濃いメキシコ色との違いに驚かされました。

鑑賞中にリベラのことwikipediaで調べていて、彼がフリーダ・カーロの夫だったと知ったのも、それ以上に驚きでしたね。展覧会とは関係ないけど。

メキシコに触発された五人の日本人芸術家

メキシコの影響を受けた日本人として紹介されていたのは、岡本太郎、福沢一郎、芥川(間所)沙織、利根山光人、河原温の五人のアーティスト。

正直なところ、私、普段あまり日本人が描く洋画を積極的に見る人間ではなく、洋画家のことはなおのこと詳しくありません。

なので、福沢一郎の作品よりも「東京駅のステンドガラスの絵の人だったのか」とか、「芥川沙織って芥川也寸志の奥さんなんだ」といったことの方がむしろ気になってしまい。

そんな中、作品に好感が持てたのが利根山光人。1921年生まれで、大学卒業後当時国語教師だった利根山は、例の『メキシコ美術展』でメキシコに触発され、実際に渡航、以来メキシコを題材として作品と作り続けました。

展示室では絵画だけでなく、古代マヤ遺跡の拓本から著作まで、いろいろ展示されており、そのメキシコ愛をひしひしと感じました。

『カーニバル66』とか、これだけフォルムが簡素化されていても、特別なお祭りの夜だってわかりますから。

利根山光人『カーニバル66』より

なぜここで、この展覧会か

この企画展、私がもう一つ良かったと思った点は、なぜ埼玉県立美術館でメキシコに注目する日本人画家の展覧会を開催したか、ということが最後にきちんと説明されていた点です。

もちろんその説明に、これまで美術館が収集してきたルフィーノ・タマヨ(Rufino Tamayo)やフランシスコ・トレド(Francisco Toledo)といった、20世紀に活躍したメキシコ人アーティストの作品も加わります。

クロージングが弱い企画展が多い中、こういう締め方ができるのって、本当に素晴らしいです。










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