![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/172800790/rectangle_large_type_2_6fa70ca17e4bcb092983d6f997ca220c.jpeg?width=1200)
空想旅行案内人 ジャン=ミシェル・フォロン
1月11日から3月23日まで名古屋市美術館で開催されている『空想旅行案内人 ジャン=ミシェル・フォロン』展に行ってきました。
夏に東京ステーションギャラリーで開催されていたんですが、その頃仕事で消耗していたせいで、余暇に観に行く気力が出ず、気づいたら終了してしまっていたのを残念に思っていたんです。
だからこれが巡回展で、次は名古屋市美術館で開催すると知り、これはラッキー、と思いました。で、平日に仕事をサボって、朝イチで東京から新幹線で名古屋まで向かった次第です。
アーティストの創作世界への旅
ジャン=ミシェル・フォロン(Jean-Michel Folon)は1934年、ベルギー生まれのアーティスト。アメリカの著名雑誌の表紙で水彩イラストが採用されたことで有名になり、後にイラストの世界ではポスターや本の挿絵、その他にも絵画や舞台美術・彫刻を残しています。
この展覧会は2005年に亡くなった彼の回顧展で、ドローイングから彫刻・映像到まで、約230点の多様な作品を紹介しています。
タイトルの「空想旅行案内人(Agence de Voyages Imaginaires)」は、本当にフォロン自身が名刺の肩書きに使っていたようで、プロローグの展示でも紹介されています。そんなフォロンが作り上げた世界を旅していく、というコンセプトで構成されています。
モノクロで際立つモチーフ
リトル・ハット・マン
その名刺も展示されている「プロローグ 旅のはじまり」でも、黒いインクで描かれたドローイングは、彼がイラストレーターとして名が知れる前から取り組んでいた作品とありましたが、イラストのアイデアが面白いんですよね。
ドアとか水道の蛇口が目と鼻、あるいは目と口に見えるといった、素直な視点がイラストの元になっているのも写真からわかります。このシンプルな顔が、その後の彼の作品に頻繁に現れる「リトル・ハット・マン」(フォロン財団のサイトには、単にLittle Manと説明されています)という、つば付き帽にコートを羽織ったような一人の男のキャラクターになっていくのがわかります。
混迷する矢印
この企画展で、私が一番響いたのが、矢印の作品群です。本来は目的・方向を指し示すものであるはずなのに、都市生活の中ではあまりにその数が多すぎて、逆に人を戸惑わせるという思いから製作されたとのこと。
確かにそうですよねぇ。
矢印が描かれた作品には、綺麗な彩色のイラストやポスターも多かったんですけど、お気に入りは景が墨で黒塗りされた1967年作の『無題』。小さな人間の頭から延びた矢印がいくつもの方向に分岐している作品です。版画チックだから、気に入ったのかも。
![](https://assets.st-note.com/img/1738587614-6uMnSAINLq7x2b1sZtcajkiz.jpg?width=1200)
シャープなメッセージにソフトな色調
彼のイラストやポスターを見ているときに、ちょうど同時期に活躍していた私のお気に入りであるレイモン・サヴィニャックの作品を思い返していて、同じポスターでも、明るいユーモアを感じるサヴィニャックに対して、このフォロンの作品って、何らかの問題提起があって、展示の説明が示すとおり”不穏”だな、とは思いました。このあたり、『The New Yorker』とか『Time』といった雑誌が彼の作品をカバーに採用した理由なんでしょう。その後も、それを期待したポスターやイラストの依頼が来るから更に助長されるんだとは思いますが、反戦や自然保護、人権擁護といったユニバーサル且つシリアスなテーマも多いです。
それでも観る人に拒否されるほど重くならないのは、淡いパステルカラーの色調によるものかと思われます。例えば『たくさんの森が(Tant de forêts)』のように、きれいな色だなぁと思ってよく見ると、切り倒されて切り株だけになった森だったりします。
![](https://assets.st-note.com/img/1738587777-IM1VcwC5R3j27YUOZAkbJQ0x.jpg?width=1200)
展示室で水彩画の製作風景を録画した映像が流れていたんですけれど、「あぁ、水彩ってこうやって描くと素敵な絵が描けるんだ」ということを、この年にして再認識させられました。自分が小中学生の頃の厚塗りの水彩画を思い出して、ちょっと恥ずかしくなったくらいです。
フォロン自身の旅志向
最初、企画展では見る私たちが旅に誘われますが、最後まで見ると、フォロン自身がどこかへの移動や、自身の居場所でない場所へ志向していたことも感じます。
展覧会ポスターにも使われている『月世界旅行』もそうですが、スーツケースを持って歩くリトル・ハット・マンは、地上だけでなく、空や宇宙を移動もしますし、水平線や地平線の先に続く道やその先にある船は、いくつも作品のモチーフになっています。現実逃避の旅が好きな私としては、どれも心に響きます。
彼が滞在先(日本からのもあります)から知人に送ったイラスト入りのポストカードも数点展示されていたのですが、写実的なイラストではなくて、あくまでもフォロンの心を通した旅先の景色…こんなハガキ、誰かから受け取りたいものです。
そういう私も、今回は旅先での展覧会鑑賞でした。名古屋から新幹線で、ちょうど東京に着く頃が日没で、窓越しに雲一つない空の夕暮れを見ていたら、「フォロンの色だなー」って思ったんです。昼と夜とか、現実と空想とか、狭間の世界の色ってこういうのなんですかね。