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写真にはドラマがある ~松本路子の撮影ノオト~

世界各地のアーティストの肖像を撮影する中で、忘れられないエピソード、写真のこと、自宅マンションのバルコニーから、60鉢のバラ・果樹の季節の便りなどを綴ってみたいと思います。本・映…
人やものとの出会いの物語りを、一緒に楽しんでもらえたら、嬉しいです。
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2020年9月の記事一覧

イーヴォ・ポゴレリッチ  ~撮影ノオト~

イーヴォ・ポゴレリッチ ~撮影ノオト~

クラシック音楽界の反逆児衝動的なショパンを聴いた。ピアノ協奏曲第2番。瑞々しく詩情あふれる調べなのに、大きな音の波が絶え間なくこちらの身体に押し寄せ、響きわたる。1983年、イーヴォ・ポゴレリッチの東京でのピアノリサイタル会場でのこと。

当時彼は24歳。その名には「天才そしてクラシック音楽界の反逆児」という言葉が常に添えられていた。

第10回ショパン国際コンクールで最終選考に残らず、それに異を

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鳥養潮  ~撮影ノオト~

鳥養潮  ~撮影ノオト~

声明への誘い僧侶たちの合唱曲ともいえる仏教音楽、声明(しょうみょう)を初めてライブで聴いたのは、鳥養潮作曲の「阿吽の音(こえ)」だった。

鍛え抜かれた声が幾重にも連なり、会場に響き渡った時、波動が空間を揺らしてゆく。リズムに身を任せていると、全身の細胞が醒め、壮大な宇宙の中をたゆとうような心地良さに包まれた。

それは千余年の時を経て今在る声の魔力と、鳥養潮の現代音楽家としての稀有な才能が融合し

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ニコラ・ル・リッシュ ~撮影ノオト~

ニコラ・ル・リッシュ ~撮影ノオト~

パリ、オペラ座各所で撮影パリ、オペラ座の屋根の上でバレエ・ダンサーを撮影してみたい、そんな夢を持っていた。フランスの雑誌で、オペラ座のかつてのトップダンサーが屋根に立つ、ドラマチックな写真を見た記憶があったのだ。

その夢が或る時実現した。バレエ団のエトワールのひとり、ニコラ・ル・リッシュをオペラ座内で自由に撮影してよい、という許可がおりた。撮影場所には屋根の上が含まれていた。1997 年のこと。

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シャーリー・マクレーン ~撮影ノオト~

シャーリー・マクレーン ~撮影ノオト~

ロサンゼルスのホテルにて。雑誌の仕事でロサンゼルスにシャーリー・マクレーンを訪ねた。インタヴュー、撮影は市内の瀟洒なホテルの一室で行われた。取材が終わった後、私は持参した自著の写真集を広げ「あらためて自宅で撮影させてほしい」と申し込んだ。1989年の夏のこと。

異例の申し入れにも関わらず「それでは週末に自宅で」と、何の躊躇もない返答には少なからず驚かされた。ホテルのプールに浮かびながら週末を待ち

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