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Cö shu Nieの純情

来たる2019年12月11日、Cö shu Nieのニューアルバムとなる『PURE』が満を持して発売された。アルバムにはアニメタイアップで話題となった4曲を含む全12曲から構成されており、そのどれもが違う表情を魅せる。収録曲である『asphyxia』『絶体絶命』『Lamp』『bullet』は人気アニメのエンディングテーマとして非日常的な世界観に華を添えた。その生命の一瞬、1秒を切なく衝動的に切り取り額縁に飾る彼らの楽曲達は、生きとし生ける全ての者に贈られる花束に等しい。
透明標本のような強さと美しさをメロディーに組み込む中村未来(Vo,Gt,Key,Mani.)、音楽を楽しむことを忘れない藤田亮介(Dr.)、そして自由自在な音遊びを繰り広げる松本駿介(Ba.)。そんな3人が生み出した12種の花々をここにレビューする。

who are you?
自らを遮る硝子を砕き割り、暗闇を怖がりながら歩いた後に現れる彼らの幻想世界はあまりにも美しい。ヴォーカルの高音はまるで深海で哀しみを歌うプリンセスのように優しく、ここから先に進むことを案じ、護ってくれる。少し安堵し、ゆっくりと前進すると美しいCö shu Nieの花々が野を覆っていた。

asphyxia
『東京喰種トーキョーグール:re』のopに抜擢され話題になった今楽曲は、聴く度に純情な花の蕾がその花弁をゆっくりと開き、蜜壺を自ら暴くかのような錯覚に襲われる。コンスタントに伝わる飾らないフレーズは、ヴォーカルの透き通る声の表情により本性を現し、色鮮やかに光る。「自由とは?」という純粋な疑問はゆっくりと闇帯びる。今楽曲はyoutubeにライブ映像が投稿されており、ベーシストが暴れ、ドラマーが満面の笑みを浮かべ嬉しさを噛み締めながら演奏しているのがとても印象的だった。

bullet
タイトルに弾丸の意味を持つ今楽曲は、TVアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス 3』のEDテーマに抜擢されている。エンジンのように弾かれるベースから始まるインストは、ギターサウンドにディレイを上手く効かせており、疾走感を感じさせながらも残響が木霊する。また、語尾に吐息をたっぷりと残した妖艶な歌声は前向きで挑発的な歌詞と相性が良く、意識せずとも色気を感じざるを得ない。

scapegoat
雨粒がリズミカルに傘を彈くようなメロディラインから始まる物語はページを1行1行なぞり進めるような感覚に陥る。アップテンポで丁寧な音作りはつい目を閉じて聴きいってしまうがそこに添えられた物語は決して享楽ではなく、愛する人からのDVなど深刻な社会問題の中で生きるプアガールを描く。絶望が終わってもまだしばらくすれば新たな絶望が来るという恐怖の如く、奇々怪々なチューンを繰り出し続ける。次に来るシーンをイメージすることが出来ない今楽曲は中毒性を産み、物事の第三者としての歯がゆさを強烈に感じる。

character
閉塞された鳥籠の中で壊れてしまった感情を鮮烈に描いており、絶望と諦めが入り交じった少女の号哭は苦しいほど色鮮やかに響き渡る。また、不条理な日常を抜け出したいと攻防を繰り返す刃は糸のように脆く儚い。そんな彼女を味方する激しいビートと心を護るベースラインはほろ苦くも優しい騎士としてそっと寄り添う。

CREAM
闇を感じられるサウンドが特徴的な彼らだが、この曲はとにかくヴォーカルの"女の子"が垣間見れる可愛らしい楽曲だ。キメの細かいインストにたっぷりと載せられた蕩けるクリームのように甘いケロケロボイスは振り回されたい男心を擽り、様々な方向に飛躍するフレーズは自由奔放で、つい微笑んでしまう。少し毒づいたフレーズもご愛嬌、と言わんばかりの魔性は留まることを知らない。

サイコプール≒レゴプール
7月31日に配信限定でリリースされた楽曲が今回見事にアルバム入りを果たした。幻想的なピアノサウンドから始まり、ゆっくりと語られる感情は憂鬱で怠惰した日常に閉じ込められた少女の警鐘だ。穏やかな世界観に載せられる狂気は次第に嗚咽のような震えを帯びる。同じフレーズを繰り返す事で次第に狂気じみた香りを纏う構成は感情表現に長けた彼らだからこそ成せる技であり、心にじわじわとくる恐怖はやがて憂いとなる。

iB
大人の男女の関係を軽やかなタッチで描いた楽曲。吐息をたっぷりと含んだウィスパーボイスは是非イヤホンで聴くことをオススメする。ヴォーカルの包み込むような歌声は歌、と言うよりかは語りに近い。そこに重なる柔い吐息混じりのコーラスはかなり広がりを感じられ、純粋な歌の上手さと表現力の高さを実感する。また女性目線で書かれた歌詞はパートナーを独占したい、という気持ちが強く現れており優しい仮面の裏側には杞憂が色濃く移る。

絶体絶命
TVアニメ『約束のネバーランド』のEDテーマとして注目を浴びるのは、絶大なる表現力が際立つこの楽曲だ。アニメの世界観に合わせ、メンバーをそっくりそのまま小さくしたような子供たちがMVではメンバーと共に出演している。抑制された空間の中で鮮やかに咲く生命はやがてその灯火を轟々と燃やす。小さな彼らの持ち合わす、善に隠された悪を見透かすような真紅の心は現代社会の白に染まる人々との対比を描き、疾走感のあるメロディーは心に横たえていた"意志"を引きだす。潔い諦めを覚えた大人達は白の靴を脱ぎ捨て、未来の希望へとゆっくり歩みを進めた。

Lamp
「何度踏みにじられても、大事なもののために進むことはやめられない」
そんな思いで作られた今楽曲は『絶体絶命』とに続き、TVアニメ『約束のネバーランド』のedテーマに起用され、今年3月にダブルA面シングルとして『絶体絶命』と共に発売された。
自由に生きたい、と言う人間らしい純粋な願望を、か細く小さな手で強く深く描いている。また閉塞から抜け出す勇気を持ち、『絶体絶命』の「愛してくれなんて」という悲観的な詩とリンクした「もう甘えたくない」という歌詞がぐっと心を掴む。そんな酸いも甘いも知り大人へと成長してゆく主人公の瞳には眩い程の光が灯っている。『絶体絶命』と共に聴くとストーリー性を掴みやすい。

inertia
こちらは2020年公開の映画「シライサン」の主題歌に抜擢されている。秒針が淡々と時を指し進める中、複雑な恋愛感情に葛藤する大人の女性をエモーショナルに描いた今楽曲。素朴な疑問から始まる悲しげなフレーズはつい自分の恋愛に重ね合わせてしまう方も居るのではないか。柔らかな旋律をゆっくり叩く鍵盤は優しく、音のシーツはベースラインによってゆっくりと波を打つ。記憶の奥底の楽しい事柄をゆっくり呼び覚ますようなエコーは今の悲しみをぐっと堪える鎮静剤となる。恋をしている貴方にしっかりと聴いて欲しい1曲。

gray
色鮮やかなアルバムのラストを飾るのは灰色の意味をもつタイトル。闇をじっくりと見据えると、そこにゆっくりと現れるのは東へ登る希望の光だ。「振り返っても今欲しいものはそこにない。」とはっきり断言出来る強い心と、決して「現実を受け止めろ、だから諦めろ」という弱い意志とは違う、決して希望を諦めずに体を委ねさせる愛情を併せ持つこの楽曲は、守るべき愛しい日常を求める小さな手をそっと握る。楽曲序盤はキーボードのみで始まる物語が、曲が進むに連れて次第に壮大感を増し、ストリングスを効果的に使うことにより心の移り変わりをうまく表現している。

Cö shu Nieの魅力がたっぷりと詰まった『PURE』な花束は私たちに沢山の感情を与えてくれた。綺麗事だけではなく差し迫る現実や絶望を鮮明に歌い、強く生きたいと藻掻く人々にそっと寄り添う微笑みは沢山の人々を魅了し、彼らが考えるありのままの自由を"白い"世間に問いかける。来年1月から全国11箇所を巡るライブツアーを開催するCö shu Nie。未来へと飛躍する彼らの今後に目が離せない。

(writer:momosuke)

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