自分に正直でありたい book review
『ウソがいっぱい』
丘修三・作
ささめやゆき・画
くもん出版
「自分にウソをつかない、ってどういうこと?」
もし誰かにそう訊かれたら、私は迷わずこの本を差し出そうと思っている。今後、どれほど年齢を重ねても、こんな難しい質問に私はこたえられないし、またこの本以上に上手く伝える自信もないからだ。
ぼく(リュウ)は、毎日、ついウソをついてお母さんに怒られている。「ウソつきはドロボーのはじまり」とお母さんはよくいうけれど、それが本当なら、ぼくはもうとっくにドロボーになっているはずだ。
だけど気になる。五年生になるまで、一体どれだけウソをついたのか。一日に一度もウソをつかない日なんてなかった…。本当にドロボーになってしまうのか?
公園でサッカーをおしえてくれるオカマのバブちゃんは世の中、ウソだらけで、本当のことの方が少ないくらいだと言う。本当は男なのに女になって生きているから、ウソを生きているようなものだとも。だけど「自分にウソをついちゃいけない」って。
それって、どういうこと?
お母さんもウソをつく。お父さんの大切なトロフィーを壊したのに、ごまかした。なんだかホッとするけど、同時にすごく腹も立つ。いつもぼくにはウソをついたらいけないと言っているくせに!
学校で同じクラスの京子は、一言もしゃべらない。みんなからムシされ嫌われている。だけど豆腐屋のおっちゃんたちは、明るくていい子だと言う。どっちが本当の京子なのか。学校にいる京子はすべてがウソなのか。
『ウソ』を通して、ぼくは親やクラスメイト、世間の見方が変わっていく。
オカマだと言うだけで、バブちゃんはお母さん連中から、毛虫みたいに嫌われている。「もうつきあっちゃダメよ」とお母さんに言われ、最後には面倒くさくなって「うん」とこたえた後、ぼくは気づく。…あ、自分にウソついてる。
自分にウソをつかない。即ち、自分に正直であることは、とにかく難しい。怖いツヨシ君には、ウソをついてでも逆らえない。リュウに限ったことではない。クラスのみんなだってそうだ。悪くないと知りながら、京子のことをかばえないし、先生にも逆らえない。
大人だって同じだと思う。正直に生きれば、時として社会から孤立し、失うモノも多い。とにかく、心身ともにタフでなければ…。
今、私は自分の人生を振り返ることはしないけれど、自分に正直でありたいと、ずっと思ってきた。だからかもしれない。「それでいいんだよ」と言われた気がして泣いてしまった。今までを、肯定されたようで…。
だけど、リュウには一言いいたい。
「あんたは、お母さんの言うことをききすぎる。何も言えないのなら、せめてホースで水でもかけてやれ。あっさりかわされたって、いいじゃないか」と。
情けないけど、リュウはいい奴だとも思う。バブちゃんのウソを、悲しいけど、あったかいと、ちゃんとわかるのだから。
バブちゃんは自分に正直に生きている。最後まで、自分にウソはついてないよ。
同人誌『季節風』掲載
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