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続きの始まり book review
『12歳で死んだあの子は』
西田俊也・作
徳間書店 2019
普段は忘れている。でも何かの拍子に思い出し、妙に落ち着かなくなる。こんな気持ちは確かにある。なかったことに出来ない。
小学校六年生の時、同じクラスの鈴元は卒業を待たず死んでしまった。白血病だった。
二年後の同窓会で、洋詩は彼を思い出す。五、六年生のクラスに特に仲のいい友達はいなかった。理由があって一人でいることが多かった。今も特定の友達は作らず、誰とも同じような距離で付き合うことにしている。
同窓会に行く前は、どこか引け目を感じていた。洋詩は中学受験に失敗して公立中に進学した。附属の小学校は抽選で入れたけれど、中学は受験があった。クラスの中には附属中よりハイレベルの私立校に進学した子もいた。公立中に不満があるわけではないけれど、わだかまりが消えなかった。
それでも行ってみると、それなりに楽しかった。密かに思いを抱いていた夏野さんとも話せた。でも帰ってから一人になると、なぜかモヤっとした気持ちが湧き上がっきた。鈴元のこと、誰も話さなかった…。
その場にいなかった同級生は何度も話題に出た。どこの中学で、クラブは何とか。でも鈴元のことは誰も話さない。洋詩も忘れていた。みんなは? もう忘れているのか? そう考えると落ち着かなくなった。
同窓会から少し経って、偶然、駅のホームで同級生に会った。そのうちの一人、篠原さんと二人になった時、不意に鈴元の話が出た。同窓会では話が出なかったけど、彼女はずっと気にしていたのだ。卒業してからも眠る前に、毎日思い出すと言う。洋詩も同窓会以来、彼のことが何度も頭をよぎっていた。でも、そのことが言えなくて、逃げるように電車を降りた。「僕もそうなんだ」と、たったひと言、言えば良かったのに…。
その後も篠原さんと同じ制服の子を見かけるとドキッとした。
再び駅で篠原さんに会った。洋詩は友達の杉原と一緒で、彼女は杉原を知らない。でも彼女は思い切って話しかけてきた。鈴元のことが気になるのだ。彼が死んでから、ずっと考えているという。その気持ちを誰かに聞いて欲しかったと。
自分でいいのか? 自問しながら洋詩も気付く。彼も誰かと鈴元の話をしたかったのだ。彼が死んだ後、クラスでは彼のことを話さなかった。身近すぎる人の死は周りを困惑させる。鈴元がいなくなった現実を、受け止めきれない。何かできるのか?
二人は鈴元の墓を訪ねる計画を立て始めた。墓に行くことに果たして意味なんてあるのか? 洋詩はイメージできなかった。行った方がいいと、背中を押してくれたのは、鈴元を知らない杉原だった。
墓の場所を聞くため、洋詩は鈴元と親しかった小野田を訪ねてみた。最初、怪訝な態度の彼も心を開いてくれた。彼にもまた想いがあった。後悔も…。
ここから物語は一気に動き始める。同級生に連絡を取り、みんなで墓に行こう、鈴元に会いに行こうと呼びかける。
反応はさまざまだった。死との向き合い方は人それぞれだ。個々が持つ杉元の思い出を知ると、彼の新たな像が浮かび上がる。ぷつりと切れてしまった物語には続きがあった。一人では何もできなかった。人が人を呼び、想いを知りつないでゆく。これは新たな出会いの物語でもある。
『ぼくは、友達を作るよ』墓前で洋詩が語りかけたとき、私は胸がいっぱいになった。彼らのこれからは、まだ続きがある。
同人誌『季節風』2024 春 掲載