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それぞれが好き勝手に生きていく book review
『シカゴより好きな町』
リチャード・ペック・作
斎藤倫子・訳
東京創元社
これほどまでに続編を心待ちにしたのは、久しぶりかもしれない。本書の発行を朝刊の広告欄で見たときは「やった!」と、思わずテーブルを叩いてしまった。
前作の「シカゴよりこわい町」を読んだのは二年以上前だった。それから続編が出るのを、どれほど楽しみにしていたことか。
本屋で実際、手に取ると値段のわりにえらく薄い。なんだかすぐ読み終わりそうで残念な気さえした。それほどにこの本は、すごくおもしろい。
舞台はアメリカ中部、イリノイ州の田舎町。一九三七年、シカゴは不況のど真ん中。物語の語り手、メアリ・アリスの父は失業し家族はアパートを失う。新居は両親が二人暮らすのにやっとの広さ。兄のジョーイは市民保全部隊に雇われ、西部で植林をしている。居場所のないメアリ・アリスは一人田舎で暮らす祖母のもとへ…と書くと、なんだか暗い話のようだが、不況、貧困なんて吹き飛ばしてしまうほど、この物語は人の逞しさや日常生活の確かさ、豊かさを描きだしている。
二年前までメアリ・アリスは兄と二人、毎年、夏休みの一週間を祖母の家で過ごしていた。今回初めて行くわけではない。けれど、彼女は気が重い。あの祖母と暮らす、町いちばんの猛者と。
景気後退で田舎の町はシカゴよりも打撃をうけている。祖母も裕福な暮らしはしていない。現金収入のためキツネを捕り毛皮を仲買人に売ったり、下宿人をおいたりする。ハロウィンのパイに入れる木の実をよその庭で拾い、カボチャもよその農場で失敬してきたり。クリスマスの髪飾りは、針金とブリキで一日がかりで作ったりもする。
十五歳、年頃のメアリ・アリスでさえ、きつくなった靴を履き、スカートの下には寒さをしのぐため亡き祖父のズボンをはいたりして暮らしている。彼女に限ったことではない。けれど、ここで暮らす人々は誰もが好き勝手に生きている。貧しい人もいれば金持ちもいる。どこにでもいるような家柄を鼻にかける奴もいる。その双方が関わり、時には協力らしきことをしあい、ケンカをして嫌味を言いあい、同じ町でそれぞれが、それぞれの場所で生きている。
その代表とも言えるであろう、メアリ・アリスの祖母からは、たとえパイ作りの名手であっても、古きよきアメリカなんて言葉は、まったく浮かんではこない。
「落ちているのは持っていっていい」と言われれば、トラクターで木に激突し木の実の雨を降らせたりできる彼女は、すごいなんて言葉ではとても言い表せない。
土肝を抜かれてしまう。自分のモラルになんら迷いのない行動は、回りを納得させないにしても、文句は言わせない。次は何がおきるのかと、とにかく目がはなせない。この物語そのものである。
前作から二年後を書いた本書でも、この祖母の健在ぶりは本当に嬉しかった。そして、メアリ・アリスの成長も。
兄の語りで書かれた前作で、私には彼女は兄よりもかなりしっかり者に思えた。そのせいか本書では、祖母と対等にはりあう彼女をどこかで見たかったのかもしれない。けれど十五歳になった彼女は、私が思っていたよりも、もっと大人に近づいていた。
同人誌『季節風』掲載