私のめがねです。
読み書きができることを『私のめがね』と書いた人がいた。
金奇粉さん(きむきふん)。享年97。
彼女ことが、朝刊の短いコラムに掲載されていた。
80年程前、朝鮮半島から来て、様々な仕事をしながら5人の子どもを育てた。
読み書きは、出来ないままだった。
74歳のときから『よみかき教室』に通い始め、読み書きが出来るようになった。
彼女はそれを『私のめがね』と作文に書いた。
読解を『めがね』と表現した人を、私はかつて知らない。
その表現がすごいと思う。その通りだとも思う。
『この先行き止まり』
近所のよく通る道の看板を、彼女は毎日行って何度も読んだそうだ。
めがね越しの世界は、どう見えたんだろう‥。
そこに立つ彼女が、はっきりと見えた。
記事:朝日新聞『窓』2021年12月19日