アニエス・ヴァルダ 『冬の旅』を観る
平日の映画館はとても空いていた。
10人に満たない観客は、なんとなく映画を観にきた人たちではなく、私と同じようにこの作品を観るために、ここに来た人たちだと思う。
制作は1985年。
30年以上前の作品なんて、信じられないほどリアルだった。
今も世界のどこかに、モナのような女性がいるような気がする。
どこかのハイウエイの脇に立ち、手を突き出しているかも知れない。
ヒッチハイクの場面が何度も出てきた。
行き先や目的があるわけではなく、彼女は路上で漂流しながら生きている。
モナは人が少ないから冬の旅が好きだという。
ある時はテントの中で夜を明かす。
空家に忍び込んで寝ることもあれば、農家の家畜小屋やビニールハウスの片隅で眠ることもある。
その日、偶然出会った男の部屋に泊めてもらうことも。
モナはなぜ旅をしているのか?
エンドロールが流れるまで、私はスクリーンから目が離せなかった。
何に惹きつけられているのか?
この映画が語りかけてくるものは何なんだろう?
上手く説明できないけれど、自分にとっての何かと重なっているのは確かだった。どこにも属さない、属せないことへの孤独だろうか?
『ノマランド』のクロエ・ジャオ監督が語っていた。
人生の中で常に部外者だと感じてきたと。
その言葉は、私にとって映画そのものよりもインパクトがあった。
物心付いた時からずっと感じていたことを、代弁してくれたように感じたからだ。
モナも常に部外者だった。
『冬の旅』に惹かれるのはそのせいかも知れない。