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知っている本 book review

『ジェリコの夏』
文・ジョハナ・ハーウィッツ
絵・メアリー・アゼアリアン
訳・千葉茂樹
BL出版 2001

 なつかしい、という言葉はあまり好きではないけれど、この本はまさにそんな印象で、私のよく知っている「本」だった。最近、なんだか本らしくないなと思うモノが多い気がする。
「これって、本なの?」そう感じることが、度々ある。(見た目は確かに本なんだけど…)本じゃなきゃ、何なの? って言われると、ちょっと困るけれどマンガとかアニメとか、そんな言い方が近いのかもしれないと思ったりする。
 この物語の舞台は1910年のアメリカ、バーモント州の田舎町ジェリコ。もうすぐ十三歳になる女の子ドーシが主人公。彼女はニューヨークに姉と二人で暮らしている。両親はすでに亡く、六歳上の姉は、工場で針子の仕事をしながら、生計を支えている。
 夏休み、ドーシは姉のすすめで田舎町ジェリコの農家で二週間を過をすことになる。これは、フレッシュ・エア基金と言われるプログラムで、日本で言えば山村留学のようなものだと思う。都会の子どもを田舎の家で生活させてくれる、ボランティアの一種。
 ドーシはみんなの書いてくれた寄せ書き帳、先生が中学一年生の成績最優秀者へ記念品としてくれた白い本、そして図書館から借りた「赤毛のアン」と「若草物語」を荷物のなかに入れていく。
「今度はこの本に、あなた自身の物語を書いてごらんなさい」
 ドーシは先生の言葉にしたがって、白い本のページにジェリコでの日々を綴っていく。
 都会の子どもが田舎で過ごす、夏のひとときの物語だ。それほどめずらしい物語ではない。特別な行事や事件があるわけではない。けれど、そこには確かな出会いと日常が、語られている。たとえば、一冊の本が雨に濡れたことは、おそろしい出来事であり、絶望と不安、不信感と様々な感情を生み、考え、協力しあうことを通して、友情が生まれ、未来へとつながっていく。
 毎日、同じスカートをはいていても、ここで語られる世界は、とても豊かだ。子ども時代夢中で、今も本棚に姿を変えて並んでいる本が、私には沢山ある。初めて読んだ本なのに、ずっと前から知っている、この本はそんな一冊だった。
 そして、気になる人物も登場する。彼は、雪の恋人ベントレーと呼ばれ、ドーシの滞在する農家の近所に暮らしている。雪の結晶に夢中で、雪の写真ばかりを撮っている。著者のあとがきによれば、実在した人物で、彼の雪の写真集も出版されているそうだ。
 本を閉じた後、なんだかうれしくなってくる。なつかしい友達に会ったみたいな気分で。次に出会うのは、雪の写真集になるだろうなと思ったりしながら…

同人誌『季節風』掲載

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