井上尚弥vs.代理韓国人選手
直感——感想。
井上尚弥は、やはり落胆しているように見える。
みんなが心配しているように、モチベーションの低下からくる油断の目はある。
ただ、あくまで世界ランキングに依拠するなら、“油断”したとしても負けない。
キム・イェジュンの試合を観ての感想ではない。
又聞きだ。
ある人によれば、パワーもスピードも普通——世界ランキング11位(WBO)相当。どちらかと言えば、技術寄りの選手。
スイッチ—―右構えも左構えも可——とする選手であることは、ある程度メディアの情報を擦り合わせてみるに、間違いなさそうではある。この事実(としてしまおう)からすると、やはり身体能力系、または野性味あふれるタイプというよりは、テクニカルな選手なのだろう。
油断したとしても“負ける系統”の選手ではない。やはり。
さらに、推測を進めるなら、今回キムはサウスポーに特化して戦うのではないかという気がする。極端なサウスポーで構え「L字ガード」を駆使する。
井上と対戦するまでのキムが、「L字ガード」の使い手だったのか――それこそ“達人”であったのか——は知らない。ただ、想像するに違うだろう。
対井上に向け、井上の過去の試合を観るにあたり、“L字で極端なサウスポーに構える”というのが、キムが唯一可能性を感じた戦法だということではないだろうか—―?
だとするなら、元々「L字ガード」の使い手だった、達人だった、ということではないように思う。
おそらく、参考にしたのは井上の「対マーロン・タパレス」なのではないか。後傾に構えたTJ・ドヘニー戦も、井上が手こずったと解釈するのなら、やはり参考として、同様にまずは“打たれない”というアプローチから、井上と対峙するのだと思う。
つまり、目標は“勝利”という前提でこれを見るなら、キムは井上を相手にポイントアウト(判定勝利)をしようとしているのだが、これは厳しい。
井上が、現在のSバンタム級から階級を上げ、フェザーやさらにはSフェザーでも通用するのではないかとされている根拠が、井上こそがポイントアウト――アウトボクシング――の達人だと目されているからだ。
人によっては、世界ランキング1位(IBF,WBO)で本来の挑戦者であったサム・グッドマンでさえ、「井上には99%勝てない」と言い放たれていたのだが、そのグッドマンとの対戦を仮定したとしても、「9対1」で不利が予測されるのがキムになる。
さらに言えば、井上を除いたとしても、世界ランキングの6位(WBC,IBF)には下町俊貴、世界ランキングの8位(WBA)には村田昴という二人の日本人ホープが、キムの上にはいる。彼ら日本のホープも、対キムにおいて優位が予想されるだろう。
つまり、外形的な根拠を重ねていくならば、井上との間には、これほどの隔たりがある。
このような状況において、概して、圧倒的な劣勢を予測されている側は、“おんなじ人間なのだから”という言葉で、心を慰める—―鼓舞する。
一理ある。
対戦が決まった以上、目指すのは勝ちだ。
元々の井上の性格もあるだろうし、さらに言えば“同調圧力”が強い日本民族は、周囲の目が気になり“サボる”ということをあまりしない。正確にこれを言うなら、地位が高かろうと、低かろうと、“周囲の目”がある限り、サボらない民族だということになるだろう。対して海外の人は、地位が高くなった時点で、おそらく周囲の目があろうとなかろうと、「俺(私)は偉いのだから」と居直ることが出来る。堂々。
今回の試合に話を戻すなら、グッドマンを想定して仕上げてきた井上に、準備段階での油断はない。鍛え抜かれた肉体を、SNSで誇示している。
つまり、“おんなじ人間”として不安があるとするならば、当日リングの上で、ということになろうかと思うが、これを一言で言うのなら、“はっきりさせずにリングに上がること”が、これにあたるのではないかと思う。
はっきりさせない—―。
具体的にこれを言うと、“たとえ誰が相手でも全力を尽くすと気を引き締めてリングに上がったにもかかわらず、リング上で「ああ、こんなもんか……」と油断してしまう”ということになる。
つまり、「はっきりさせる」ということは、油断するなら油断するで、最初から油断していた方がいい。
油断していても勝てる。
だから、“リング上で初めて油断する”くらいなのならば、油断しっ放しの方が、間違いが起こる可能性は小さい。
油断とは“迷い”であり、気持ちが切り替わる瞬間こそが「油断」である。
個人的には、上手く気持ちが作れないのであれば、最初から“サウスポーだけで戦う”とか、人知れず身勝手に「縛りプレー」で遊んだとしてもいいと思う(すぐバレるだろうが)。
相手に敬意を払い、「舐めないように、舐めないように」という思考性の方が、身は固くなりがちだ。縮こまる。
であるならば、最初から“へらへら”笑いながら戦うべき。集中しようとして、し切れないならば、遊び――リラックス—―で臨んだ方が、のびやかなパフォーマンスが発揮される。
さらには、「集中→落胆」より「油断→集中」の方がポジティブマインドになる。
二人の力関係を考えた時、「おっ!思ったよりやるな!!」というマインドチェンジの方が、井上にとっては前向きな感情をもたらす。「集中→落胆」——「ああ、こんなもんか……」——の方が、本当の意味での“隙”が生じるネガティブギャップになる。
しかし、それでも、あえて“サウスポーだけで戦う”とか、オーソドックス(右構え)に構えた上で試験的に“左ジャブのみでコントロールを企ててみる”とか、油断するなら油断したまま戦う――集中出来ないなら無理に集中しようとはしない――ということを、井上はやらないだろう。
「日本人」だから。
おそらく、いや十中八九、「世間」から批判される。
「対キム」ではなく、「対世間」になる。
「喝!」とか言われるかもしれない。
それらを踏まえた上で、試合展開を予想——。
井上の1Rテクニカルノックアウト(TKO)。
サウスポーで極端な半身に構えるキムに対し、井上は油断せず様子見から入る。
キムは、到底当たる距離ではない距離から、右をジャブで伸ばす。
すぐに戦力を見切った井上が、左ジャブを打つ――体のどこかには当たる。
パンチの衝撃に、キムはさらに重心が後ろに傾く。
その気持ちを読み取った井上が攻勢を強める。
体にパンチがぶつけられるとともにロープに詰まるキム。当初「L字ガード」だったブロックが、亀のように固まったものになる。
井上が、そんなキムを相手にラッシュを仕掛ける—―または仕掛ける以前に、代理挑戦者であるという事前情報を得ているレフェリーが、挑戦者を救い出す。
井上のTKO勝利。
おそらく3分間も必要としないと思う。
油断せず、様子見から入った上で、1Rで終わる。
イメージとしては、バンタム級の王座を獲得したジェイミー・マクドネル戦のようなイメージ。――1分52秒TKO勝利。
もし、キムが勝つことがあったならば、それこそ「奇跡」という言葉を当て嵌める以外の表現は出来ないのではないかと思える。
ちなみに。
キムの身体能力や技術を、全く大したことがないと評価した上で、顎だけは異常なほど頑丈だという人もいる。人間離れした「打たれ強さ」だ、と。
それを根拠に、一方的に打ちまくられたとしても、キムが立ち続けるのではないかという仮定——。予想というよりも、ある一つの仮定。
しかし、それでも、やはり、どこかでレフェリーが止めに入るのではないか。
どう足掻いてみたところで、勝敗が引っ繰り返ることなどあり得ないとレフェリーが感じたならば、それがやや自己主張の強いものだとしても、レフェリーは止めるべきだろう。
そもそも「ミスマッチメイク」であることが踏まえられる以上、“安全性”が優先される形であっていい。「暴力(性)」を前提にこそしているが、“スポーツはスポーツ”なのだから。
以下、直前会見。
昔は試合直前にして、会見をすることはなかった。これも一つの時代と言えるかもしれない。