亀田和毅vs.レラト・ドラミニ Ⅱ (24.08.24)
ボクシング。
世界王者が居るか居ないか――つまり0人だった時代もファンだった――を知る者からすれば、現在、何人の世界王者が在在するか名前を挙げていっても正確な人数を当てられないのではないかという中で、世界前哨戦を取り上げる。
一頃、世間を賑わせた「亀田家」――三男である和毅の試合である。
先に結果を述べるのなら、2-1のスプリットデシジョンでの和毅の判定勝ち。
世界前哨戦であることを考えれば、結果は何よりも重要だ。悪い結果だとは言えない。
ただ、ドラミニは以前に不覚を取った相手。亀田陣営は圧勝を目論んでいただけに、物足りなさも残ってしまった。以後、試合の感想について触れる。
和毅は相変わらず手が速い。ハンドスピードだけで言えば、井上尚弥を凌駕していると言っても不思議ではない。
しかし、結果もそうだが、ノックアウトはおろか、相手を圧倒し切れない。理由は簡単。
相手にパンチが当たらないからだ。
強打者ではないという側面もあるのだが、それ以前に、パンチがしっかりとヒットしないのだ。
では、何故、井上以上にさえ見えるパンチの速度を誇りながら、クリーンヒットが奪えないのか――?
“避けて打つ”感覚がないからだと思う。
この試合、和毅がカウンターを狙った局面は、誇張なく一度もなかったのではないかとさえ思える。
少し前に、「RIZIN」(総合格闘技)における、朝倉未来対平本蓮の試合を観たが、この試合の中で朝倉は、平本のプレッシャーに晒されて、逆にカウンターでしか手が出せなくなっていた。が、和毅はその逆。
世界有数のハンドスピードを持っていながら、カウンターを取る意思が皆無。距離を開けてのポイントゲームで負けた一度目の対戦からスタイルチェンジをはかり、距離を詰めて戦うファイタースタイルに変貌していてなお、パンチの打ち合いの中で、相手のパンチを浴びることを恐れている。
ただ、これ自体は、必ずしも悪いことではない。30代を迎えてなおフレッシュな肉体を維持出来ているのは、パンチを被弾してこなかったからだ。
だが、相手にダメージを与え切るということを“本質”とすれば、結局スタイルチェンジし切れていなかったという評価にもなる。
ヒヤヒヤの判定勝利にもかかわらず、試合が終わるとコーヒーポストに駆け上がった和毅。
気持ちはわかる。
前に出ているのは、常に自分。
手数の少なさが改善されたという自信もあったろう。
ダウンも5Rに奪う。
そして、何より、ドラミニのパンチを全く効かされていない。
にもかかわらず、さらに日本という地元の試合で、この乖離。
亀田和毅はいいボクサーだ。
だが、いつまで経っても自分の手応えほどには、手応えが周囲に伝わらない。
まだ突き抜けなければならない。
前に出て、手数を出し、ダウンを奪い、相手のパンチを防いでいてなお、「負けた」というジャッジがいるというのは、“自分自身が課題をクリアした”という文脈などどうでもいいと言わんばかりに、「クリーンヒットしてないよね?」という見方をする人もいるということ。
それを、現実として受け止めなければならないということ。
パンチ力に関しては、この先、どこまでいったとしても、獲得することはないと思う。
しかし、本来(アウト)ボクサースタイルだったにもかかわらず、ベテランの域に来てファイターとしても戦える幅の広さを見せた姿や、それを可能にする体幹の強さ、そしてパンチの速さなどは、やはり素晴らしい。
だからこそ、“矛盾”とも言えるこの乖離を思うと、「スパーリング」――対人練習――が、圧倒的に足りていないのではないかという気がしてしまう。
幼少期からボクシング一本の人生を生きてきたことを踏まえると、それ程までに“避けて打つ”感覚がない。
――シャドーボクシングやミット打ちなど、想像でしか「対人」をシミュレーション出来ていないのか?!
世界的な名手になる可能性を持ちながら、“自身の手応え”と“周囲の見え方”が埋まらない。
その原因が練習環境の貧しさにあり、その環境が「亀田家」だからで済まされてしまうと言うのであれば、一ボクシングファンとしてどこか淋しいような気がしてしまう。
細かなヒットが見えない状態による個人的採点――。
3,7,9Rがドラミニの10-9。
6Rは10-10。
5Rは和毅がダウンを奪い10-8。
他ラウンドは、和毅の10-9。
トータル、117-111で和毅。
実際は、113-114、114-113、116-111の2-1で和毅。自分の採点は、「116-111」に近かったのだが、間近で観れば観るほど和毅に対して厳しい印象になるのだろう。
ダウンを奪った次の6Rの優劣を、自分は判断せずに「10-10」としたが、和毅の感覚からすれば5Rの打ち疲れを癒やしながらも、ポイントは抑えていたつもりであったと思う。
だが、あえてポイントを割り振るのであれば、自分ならばドラミニの「10-9」。相手にダメージを負わせた次のラウンドで、確実にポイントを抑え切ったとは言えないという現実。