植物とのコミュニケーションツール「枯苔生 Kare Koke Mu」
ご覧いただき、誠にありがとうございます!
修士研究で自然観の再考を目的とした植物との
コミュニケーションツール「枯苔生 Kare Koke Mu」を制作しました。
展示会場ではお見せできる内容や時間に限りがあるので、この場を借りてゆるーく解説していきたいと思います。
背景と目的
日本はもともと自然を愛する国だとよく言われますが、
最近は装飾として植物を入れたり、モノや資源のように扱うこともしばしば見られます。
こうして支配的な関係図ができてしまうと、
そのうち破綻して環境問題のような弊害が出てくるわけです。
私の研究は人と植物の関係性を改めて考え直し、
スペキュラティブデザイン(いわゆる問いのデザイン)として
あるべき方向性を示そうというものでした。
最終的に、苔玉を対象とした栽培ツールの提案を目指して研究が本格的にはじまりました。
分析
関係再構築のために
人間と植物の関係性を改めて考えるとなった時に最初に思いついたのが「環世界」でした。
環世界とは、全ての生き物は異なる世界を生きているということ。それぞれの世界は閉じていて、互いを完全に理解することはできない。
ということは、
互いの不理解こそが「枯らす」原因なんじゃないか、と考えました。
この環世界論をもとに、私は2つの研究軸を決めました。
❶苔玉を枯らさないための栽培装置として、苔玉に表情(的なモノ)をつけ、状態が直感的に分かるようにする。
❷苔玉の視点になる(環世界に触れる)ためのアートとして、人間にもギリギリ理解できる範囲にチューニングする。
分かりそうで分からない、ここが研究のミソになるわけです!
どうやって表現しよう、、?
ぼんやり方向性を決めたところで、具体案に落とさなければいけません。
そこで思いついたのが、枯山水でした。
枯山水は山水(=自然)を水を使わずに石や砂を使って象徴的に表現する日本庭園の一つです。
「分かりそうで分からない」表現にぴったりだ、、!
苔玉の機嫌が悪くなると波が立つ、みたいな動きのある表現ができたら面白いな〜と思い、砂紋アートを作ることにしました。
実装
どうやって実現する、、?
動く枯山水を作ろうと意気込んだところで、さてどうやって実装しましょう。
もともと私は電子工作の経験がなかったので、
同じ学科内で専門的に学んでいる研究室に弟子入りしました。
最終的に、砂紋を作る方法として電磁石を使うことにしました。
中学校で勉強した「右ねじの法則」覚えてますか?原理はあれです。
今思えば、お世話になっている三澤遥さんの動紙に影響を受けたんだろうな〜と思います。
実験!検証!制作!
原理は簡単とはいえ、電磁石はかなり奥が深いモノでした。
個人の限界を感じて、最終的にコイル製造専門の企業の方に試作してもらいました。
そこからArduinoという小さなコンピュータを使って、試作した電磁石と苔玉を観測するセンサーを制御する回路を作っていきました。
詳しくは後日改めて書きます。
完成!
タイトルの「枯苔生(かれこけむ)」は枯山水を捩ったものですが、
「苔生す」に含まれる「苔が生えること」と「悠久の時」の2つの意味がこめられています。
装置の仕組みをざっくり説明すると、
育てている環境をセンサーが読み取り、その結果に連動して電磁石がつくる磁界が強くなったり弱くなったりする
というモノです。
単なる栽培ツールでもなく、植物を使ったアートでもない。
苔玉のゆっくりした時間に合わせて、少しずつ変化していく砂紋を鑑賞する、という新しい栽培体験を提供できたのではないでしょうか?
終わりに
最後までご覧いただきありがとうございました!
引き続き、2年間の研究を通して自分が考えたことや、実装に至るまでの過程を備忘録として残していこうと思います。
実際の作品をご覧になりたい方はぜひ東京都美術館(3月1-7日)まで〜