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あるのはロックと、愛と平和。|奈良美智 The Beggining Place ここから
奈良美智って、ナラヨシトモって読むんだ。
私ずっと、ナラミチって読んでた。
勘違いに気づいたのは、今年に入って青森に引っ越してきて、あの有名なよく見る少女の絵を描く画家が青森県弘前市の出身だと知った時だった。
可愛くてポップな絵柄だし、勝手に女性画家だと勘違いして、そう読んでしまっていた。ああ恥ずかしい。誰か私を殴ってくれ。
そんなアホ丸出しの私が、青森県立美術館にて開催されていた奈良美智さんの個展にお邪魔してまいりました。その感想レポを記します。
写真は全て、撮影可の部分のみ撮影しています。
はじまりの場所
この個展のタイトルにもある、はじまりの場所とは、奈良自身の故郷である青森を示すと同時に、彼の作品との出会いが生み出す「はじまり」をも意味するそう。
この個展によって出会った作品が、我々にどのようなはじまりをもたらしてくれるのかワクワクしながら、展示室に足を踏み入れた。
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積層の時空
奈良の代表的な作風の一つが、真正面を向いて描かれる少女の半身像だ。
何かを訴えるようにこちらをじっと見つめる少女は、怒っているようにも、悲しんでいるようにも、不貞腐れているようにも見える。
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大きなキャンバスに描かれた少女と正対して立つ。
硬くきゅっと一文字に結ばれた口元を見ると、思わずこちらも口元に力が入る。
じっと見つめていると、少女がこちらに肉薄してくるかのようで、気圧されるような、はたまた、私、この子に何か悪いことしてしまったかな…?というような感覚に襲われる。
少女が次に口を開くとき、我々に何を訴えかけてくるのだろうか?などと考えながら、次の作品の正面に立つ。
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こちらの少女は、目を怪我してしまったのか、片目にガーゼを当てている。
片目が覆われていることによって、もう片方の瞳の輝きや色の重なりがよりはっきりと感じられる。
瞳だけではない。少女自身が、数々の色で鮮やかに描き出されており、肌の奥を流れる血の色や、柔らかい光を浴びて輝く髪の毛の様子も見てとれる。
この展示室が「積層の時空」と題されているように、何層にも塗り重ねられた絵具からは、測り知れない色彩の力を感じることができる。
近年の絵画にはまた、線や色彩に対する意識の変化も見ることができます。「線を絵画につなげることをやめて、色を絵画につなげようとしたのが最近の作品」と語る奈良。あえて荒い筆触を残し、対象の輪郭線を曖昧にしながら、言葉を超えて知覚に直接訴える色彩の力を最大限に活かそうとしています。
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解説を読んだ後に、改めて作品たちを作成年順に眺める。
なるほど、言っていることが何となくわかるような気がしてくる。さすが解説。
最も新しい作品の一つであるMidnight Tearsは、確かに先の作品よりも輪郭線がぼやけ、より鮮やかで奥行きのある色使いとなっている。
背景の暗い空間からも、虹色に輝く瞳からも、何層にもわたって塗り込められたであろう絵具の折り重なりを感じることができる。
暗い空間の中に鮮やかな色彩で描かれる少女は、じっとしているように見えるのに、迫力がすごい。圧倒されてしまう。
この少女たちはどれも構図が同じであるため、作風の変化がわかりやすくて、絵を年代別に見比べるという楽しみ方をすることができた。
No War
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奈良美智は、戦争反対や、平和を願うメッセージを強く押し出した作品を数多く制作している。奈良が生まれたのは1959年。終戦後とはいえ、彼の故郷の弘前市内にはまだ戦争の記憶が色濃く残っていたという。
彼は1988年から2000年までの期間、ドイツで生活していたそうだ。そこでドイツと日本を同じ敗戦国家として比べた際の違いに気付いたという。
「ドイツに行ってびっくりしたのは、かつてあった過去からのタイムラインの延長上に自分たちがいるという意識が当たり前だったこと。日常でくだらない会話をしていても、歴史の話が自然に出てくる。戦争を否定肯定する以前にそういうことがある。そして客観的に戦争否定を語り出す。街を歩いていても、すごくわかりやすいところに、いろいろな記念碑が建てられているんです。第二次世界大戦だけじゃなくて、第一次世界大戦であるとか、ローマ帝国がここまで来たよとか。」
「現在という時間軸が歴史の延長上にあって、そして、その先には未来があり、今、何か間違ったとしたら未来がおかしくなる。過去から現在、未来へ一貫して考える、そういう思考が一般的な日本人とは比べ物にならないほどできてるんです。結構、ショックでした。日本も、勉強ができる人たちがいたり、科学や産業が進んでいたりするけど、歴史に向き合う考え方がまったく違ってました。」
確かに、私自身も歴史を歴史としてしか捉えられていないのではないか、と気付かされた。戦争の映像やドキュメンタリー番組などを見ても、どこか映画の中の出来事かのような感覚でいる。過去は過去、今は今、と切り離してしまっている節があった。歴史は全て一続きになっているはずなのに。
それどころか、今もウクライナや中東で戦争が起こっているというのに、それすらも、ニュースで流れる悲惨な有様に心を痛めるくらいで、対岸の火事かのように考えてしまっている。
過去から未来へと続く歴史の中で生きる者の1人として、その歴史に当事者意識をもっていかねばならないな、と感じさせられた展示であった。
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ロック喫茶「33 1/3」と小さな共同体
青森県三沢市には、在日米軍基地がある。奈良は、そこで暮らすアメリカの軍人向けラジオにチューニングを合わせ、そこから流れてくるロックミュージックの魅力に引き込まれていった。
ボブ・ディランやニール・ヤングなど、ベトナム戦争が激しさを増す最中、「爆弾や大砲の音に、ロックの轟音や心に響く歌詞で対抗するミュージシャンたち」*から、暴力に対抗する手段としての音楽の大きな可能性を教えられています。
先の、戦争に対する問題意識も、こうしたロックミュージックに込められた強いメッセージを受け取る中で芽生えたものだという。
そうした奈良が、地元のライブハウスで出会った仲間に誘われ、手作りで作り上げたのが、ロック喫茶「33 1/3」である。サーティースリーと呼ばれ、親しまれたこの喫茶店に集う人々との関わりも、その後に国際的な現代美術家として活躍することになる奈良の原点となっている。
展示室の最後には、当時を知る人の証言などをもとに再現されたその喫茶店が建てられていた。
仲間たちで手作業で喫茶店を作って営業するなんて、なんて楽しそうなんだろう。
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私はここから何をはじめるのか
冒頭、私は奈良美智の作品を「かわいくてポップな絵柄」と表現した。実際に作品を鑑賞する中で、そのポップな絵柄には、決して可愛いものではない、激しく力強いロックンロールの魂のもとで叫ばれる、平和への願いが渦巻いていることが伝わった。
絵を純粋に楽しむだけではなく、そこに込められた強い思いが、ずっしりと重みを伴って見る人に投げられているような感覚をおぼえた。
確かに、私の好きなパンクバンドも政治に対する不信感を歌にして発表しているし、彼らは自分の信じる正義をいつも大切にしている。
ロックって、何も知らない人からすると一瞬暴力的に見えるかもしれないけれど、実際はそうではなくて、必死に世の中に自分たちの思いを届けるために声を大にして発信し続けてくれているのだな、と思った。
また、ここから先は完全に私の妄想だが、真正面を向いて描かれる少女の半身像、あれはもしかして、社会の動き、戦争の動向に注意深く意識を向け続けている奈良自身の内面を投影したものとも考えられるのではないだろうか。
我々も、あの少女たちの鋭い眼差しを、身近な政治から社会の動向に向け続けなければならない。
まずは世界で今、何が起こっているのかを知るところから。
これが私のはじまりなのかもしれない。
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展覧会概要
♦︎展覧会名♦︎奈良美智:The Begginning Place ここから
♦︎開催場所♦︎青森県立美術館
♦︎開催期間♦︎2024年2月25日まで
♦︎観覧料金♦︎
一般 1,500円 (1,300円)
高大生 1,000円 (800円)
小中学生 無料 ()内は団体料金
その他、休館日などは公式HPよりご確認ください。
芸術の秋、美術館に足を運ぶ理由にはもってこいです◎
気になった方はぜひどうぞ。
それでは!ころもでした!