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90マイル前後の速球を投げながら好成績を収める3人のリリーフ投手たちと活躍の秘訣に迫る

リリーフ投手といえばどのようなイメージがあるでしょうか。人によってイメージは異なると思いますが、ヤンキースのアロルディス・チャップマンのような球速の速いタイプの選手を思い浮かべる人は多いかと思います。実際MLBでもリリーフは先発より平均球速は速い訳ですが、中には90マイル前後の速球を投げながら抜群の成績を残している選手もいます。今回はそんな投手を3人取り上げ、彼らの好投の秘訣に迫りたいと思います。
 

1人目:カイル・ネルソン(Dバックス)


防御率1.23/FIP1.57/14.2イニング/16三振/2四死球/速球の平均球速91.5マイル(MLB下位17%)
 
2021年に防御率9.31を記録した投手が2022年に成績をここまで改善するとは、昨年の11月にネルソンの獲得を決めた担当者も予想外だったかもしれない。ネルソンは2017年にインディアンスからドラフト15巡目(全体462位)で指名されてプロ入りを果たした。その後マイナーの階段を駆け上がり2020年にMLBデビュー。2021年は10試合に登板するも前述のとおり防御率9.31ほか散々なスタッツで、11月にガーディアンズからDFAされてDバックスに移籍した。
 
好調の秘訣:スラッターを投げ始めた
ネルソン好調の秘訣はスラッターだ。彼は昨年スライダーとカッターを使い分けていた。しかし今季はカッターをゼロにしてスライダーしか投げていない。そしてこのスライダーは球種分類でこそスライダーになるが、実質はスライダーとカッターの中間であるスラッターである。
 
下は昨年と今季の球種ごとの変化を示したものであるが、水平方向では昨年のスライダーとカッターのほぼ中間に今季のスライダーが位置している。また球速、回転数などでも昨年のスライダーとカッターの間に今季のスライダーが入ってくる。
 
2021年カッター   球速:88.9マイル、回転数:2454rpm、水平方向の変化量:4.7インチ
2021年スライダー  球速:82.5マイル、回転数:2670rpm、水平方向の変化量:11.1インチ
2022年スラッター  球速:84.2マイル、回転数:2523rpm、水平方向の変化量:6.6インチ
 
ではスライダーとカッターをスラッターに変えて何が良くなったのか。まずカッターをスラッターに変えた効果としては、空振り率の向上(23.7%→40.2%)がある。カッターはゴロを奪うのには定評がある球種である一方で空振りを奪うのには必ずしも向いていない。そこにスライダーの要素を取り入れることで、空振りを奪えるようになった。
 
またスライダーをスラッターに変えた効果としては、四死球率の改善(16.3%→3.8%)がある。スライダーは横方向に変化量が多く空振りを奪う球種としては優秀である一方で、打者に見極められるとボールが増えていき投球が苦しくなる。しかしスラッターに変更して変化量をスライダーより小さくすることでストライクを奪いやすくなった。
 

2人目:スコット・エフロス(カブス)


防御率3.20/FIP1.92/19.2イニング/23三振/3四死球/速球の平均球速90.0マイル(MLB下位7%)
 
おそらく今回取り上げる3選手の中で一番知名度がある選手がエフロスだ(それでも他のメジャーリーガーと比較して高いとは言えないだろうが)。エフロスは2015年にカブスからドラフト15巡目(全体443位)で指名されてプロ入りを果たした(大学時代のチームメイトにカイル・シュワーバーがいる)。その後マイナーで実績を積み2021年にMLBデビュー。2021年は14試合に登板してK/BB18.00を記録して良いシーズンとなった。今季も好調を維持している。
 
好調の秘訣:4球種の投げ分け
エフロス好調の秘訣は自身の投球レパートリーをうまく活用している点だ。2球種しか投げない選手も多くいるリリーフ投手の中で、スライダー・シンカー・チェンジアップ・4シームをいずれも10%以上投げているエフロスは珍しい存在だ。そしてその多種多様な球種の活用の仕方も非常に上手い。
 
まず特徴的なのは投球比率が最も多いスライダー(38%)とシンカー(37.7%)である。ミラーリングとは2つの球種が真逆の方向に変化することである。イメージは下記のツイートが参考になるが、途中まで同じように動きながら最後は真逆に動くので打者にとっては厄介極まりない。エフロスのスライダーは回転方向が9時15分の方向であり、シンカーが3時30分の方向に変化するのでかなり精度が高くミラーリングが出来ている。

シンカーとスライダーのミラーリング


さらなるエフロスの強みはシンカー・4シーム・チェンジアップの水平方向の変化量の近さにある。下の写真はエフロスとリーグ平均(ギザギザ)の各球種の変化量を描いたものである。エフロスは4シームの水平方向の変化量がリーグ平均と比べて明らかにシンカーとチェンジアップに近い。シンカーにヤマを張った打者に4シームやチェンジアップを投げることで相手の裏をかけると言える。シンカーの被打率が.351と高い点を改善すればさらなる飛躍もあり得るのではないかと思う。


4シーム(赤)・シンカー(オレンジ)・チェンジアップ(緑)の水平方向の変化量が近い


3人目:コディ・スタシャック(ツインズ)


防御率3.86/FIP2.10/16.1イニング/15三振/0四死球/速球の平均球速90.6マイル(MLB下位10%)
 
エフロスと対照的に今回取り上げる選手の中で最も知名度が低い選手と思われるのがスタシャックだ。スタシャックは2015年にツインズからドラフト13巡目(全体380位)で指名されてプロ入りを果たした。その後マイナーで実績を積み2019年にMLBデビュー。デビューまでは順調だったが、昨年は15試合の登板に終わるなど若干の伸び悩み感もあった。
 
好調の秘訣: リリース時と打席到達時のスライダーの回転の違い
スタシャックは昨年までと比較して主な指標で今季大きく変化したものはない(それゆえに彼の好調の理由を探るのは難しかった)。しかし彼は右投手の中で最もスライダーのSpin-Based MovementとObserved Movementの差が多い選手であり、これこそが彼の武器である。
 
まずSpin-Based MovementやObserved Movementの説明を簡単にすると、前者は投手がボールをリリースする時の回転を示したものであり後者は打席に到着した時の回転を表したものである。スタシャックのSpin-Based Movementは打者から見て3時15分を指していて横方向への変化が大きく見える。

リリース時と打席に到達時で回転が異なる

 しかし実際に打者の手元に来た時の回転であるObserved Movementは1時45分を指していて横方向への変化量はリリース時に比べて少ない。これこそが厄介な点で打者にはリリース時に横方向への変化量が大きいスライダーが来るように見えるにも関わらず、実際はそれほど曲がらないスライダーがやってくる。このギャップに戸惑い多くの打者は空振りを喫してしまう(空振り率は36.2%)。
 
スタシャックも4シームの被打率が.370と高いのでスライダーの割合をマット・ウィスラー(レイズ)のように減らしてスライダーの割合を増やせばさらに成績が向上するかもしれない。
 
今回は現時点では知名度が低いものの好調なリリーフ投手3人を取り上げました。彼らの今後の活躍にも期待したいと思います。

Photo BY:bradleypjohnson