サブカル大蔵経70袖井林二郎『拝啓マッカーサー元帥様』(岩波現代文庫)
この一年で一番びっくりした本でもあります。日本人が、ここまで変わるのか。
終戦直後、マッカーサー元帥に、君に届けとばかり、全国から送られた手紙の数々。
アナーキーで論理的、切実かつ大らかな、これらの手紙を読んだマッカーサーはどう思ったのか。
日本人の知らない日本人がここにいる。この人たちこそ真の愛国者か?
「昔は私たちは、朝な夕なに天皇陛下の御真影を神様のように崇め奉ったものですが、今はマッカーサー元帥のお姿に向かってそういたしております。」p.302
結局、天皇崇拝がマ元帥崇拝に代わっただけか?
「日本の将来及び子孫のため、日本を米国の属国となし被下度お願い申し上げ候。私の考えでは如何なる人物が大臣となり何人が政府を定めましても国民の事を考えてくれず。日本人は全部自己の為のみ考えます。」p.22
属国はこちらからお願いしていました!心底政治家に愛想を尽かした人の、今の国体を捨ててでも、よりよき統治者に統治してほしいという想い。
「貴国と合併し貴国の命のままに動くことに於いてのみ日本は救われるのみならず、世界の平和を維持することができるのであると信ずるのでございます。」p.28
まさに今の日本そのもの。今の日本は、当時の人たちの願いだったのでしょうか。50年前からPKO。こちらからの提案。
追伸が面白い。もしアメリカが日本を救ってくれないなら「日本は共産主義制度へと進んでゆくべく余儀なくされるであろう」というのである。この弱者の恫喝とでもいうべき戦術。p.31
カイジ的日本。
「毎日川へ出漁して鮎と鰻を獲って暮らしております。敗戦国民である私達がこうして平和に生活してゆけるのは、偏に理解ある連合国、並びに、閣下のご寛容と賢明なるご指導宜しきゆえと拝察しか歓んでおります。」1948.7.28(この後、鮎の旬なので食べに来てくださいと続く。)p.54
食べに来てください!漁民。
「日本人は非常に卑怯である。今現在天皇を検挙しても決して日本は乱れない。国体護持論者はもともと自己保護から言っているのであるから、又甘く主張を枉げて追随豹変しますよ。戦争中あんなに米英撃滅を叫んで今日よくも民主主義を唱えているかと不思議な変化をする信念のない国民です。生まれ落ちると天皇天皇とただ現神として教えこまれ少しも科学性のない歴史を教え無意識に考えているだけでこれを科学的に違反すれば利己的な日本一の人間が天皇ですよ。都合の良い時には陛下の赤子として国民を欺き都合の悪い事は東条に押し付け自分は免れようと焦る。この戦に勝てば1番儲かる野郎は現天皇である。負ければ平素自分の紅子である人民を戦犯者として自分は逃れ様と焦っている。英国の君主と日本の君主は絶対異なる。日本の天皇はヒットラー以上の権力と指導力を以って日本を戦わせた者でこの奴を只単なる日本統治の道具のために戦犯の罪を免れしめるならば法の真理は地に落ちすべての戦犯裁判は何のためか意義を喪失する。何卒枝葉のみに走らず幹を切って下さい。世界人類のために法の神聖のために、呉々も御願いする。」p.113
日本の大手術。
「天皇は廃止すべきです。日本人の国民性として天皇は民主主義の邪魔になるからです。天皇制が存続する限り民主主義は行われないと信じます。人民の目標を取り除けば初めて新しい平和民主主義に転向します。中略 日本を永久に占領すべし。なるべくならば植民地にしてください。貴国兵が引揚げれば再び悪者達が人民を苦しめます。徹底的に各界の首脳部をやっつけてください。日本人は敗戦を心から喜ぶ。知事・市町村長・町会長・ブロック会長・警察官吏…戦争中人民を強制的に苦しめました。」p.117
究極のお雇い外国人、マッカーサー。
「天皇はやはり吾々と同じ人間です。神様でも猿でもありません。中略 もともと天皇はこの島国日本の原住民を征服した異民族の親玉の子孫に過ぎません。あるいは正しい子孫でないかもしれません。そしてまた我々の祖先は(東北地方出身)征服された民族の一員であったと言う根拠が相当に濃厚です」(1945.12.16)p.125
猿!異民族の親玉!
「私は、天皇をそのままにして閣下が日本国を去られることを恐れるのです。中略 日本における最大の罪悪人そして世界平和の撹乱者たる天皇をこの日本から永久に追い出す事は、今の日本人には絶対に不可能といってもいい位です。閣下は天皇が世界平和を撹乱することができなくなればそれで満足でしょうが、けれども日本人は救われません。もし閣下がこの愚なる日本人を真に愛してくださるならどうぞ閣下の手によって3千年年来日本土民を瞞着し来たれる天皇及びその一族を処罰してください。そして永遠にこの日本へは帰れないようにしてください。中略 最大の悪人が神として崇められるというこんな馬鹿な話が世界のどこにありますか。重ねて申し上げます。閣下がこの愚かなる日本民衆を愛してくだされそして日本人を奴隷的存在から救って下さる意思がおありでしたら、何卒この悪の元凶天皇を日本から永遠に追い出してください。中略 こう申しましても彼らも人間です。人間として彼らを見る時、如何に悪人とはいえ彼らがこの日本を去る日を考えると、一抹の哀れさを催さずにはいられません。どうぞその日には日本の津々浦々に弔旗を掲げること、最後の君が代を歌うことをお許しください。」最後の君が代を許せとは日本人のやさしさであろうか、民族の美意識か、センチメンタリズムか、いずれにせよ、ここからは革命は生まれない。p.133〜136
永久追放
マッカーサーを推し立てて日本を共和国とする「日本大和国建設運動」を展開する覚悟だと言う大本教信者。p.211
さすがの大本教
「義勇軍は危機に際しては日本を守るための軍事組織となります。このような危機がなければ、軍は必要な公共施設の整備と安全な運営の確保に当たることになります。義勇軍はやはり米軍の指揮下で日本の国内の秩序維持に役立つでありましょう。1950年7月28日衆議院議員世耕弘一」p.320
世耕の父ちゃんか。
征服者に捧げた日本人の敬意には、もっと厄介な論争の場に我々を引き出すさらにもう一つの問題がある。それは人種と言う問題だ。第二次大戦に続く敗戦日本の占領が、アメリカ人でなく中国人によって行われと考えてみたらいい。確かに中国人民には、日本を占領する権利があった。中略 中国人の総司令官または中国人でなくともアジア人の占領軍総司令官が、マッカーサーにこぞって捧げられた畏敬と賞賛と紛れもない尊敬の念を、獲ち得ることができたであろうか。答えは明らかにノーである。p.425
著者のもっともな推理。中国でも韓国でもロシアでもヨーロッパでもない、米国というおさまりのよい存在。
本を買って読みます。