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サブカル大蔵経14赤坂真理『箱の中の天皇』(河出書房新社)

 以前、赤坂真理『東京プリズン』を読んだ余韻はまだ残っている。テーマも、台詞も、物語の展開も、奇跡感が溢れていた。読んではいけないものを読んだような、すぐ身近なのに、最果てへ、連れて行ってくれた。全ての日本人とそして、アメリカ人に読んでもらうのを待っていたような小説という名の爆弾。

 その続編とも言えるような今作を少しおっかなびっくり手にとった。前作はアメリカ合衆国でのアウェイでの闘いだったが、今作は日本で日本を掘る。見えなくなっていた歴史の層があぶり出されていく。

 山下公園は関東大震災の瓦礫で海を埋め立ててできたの。だから、潰れた銀行やら、商店やら、紙くずになった紙幣やら、少なからぬ犬猫の骨、人の骨、そんなものでできてる。p.40 

 前作同様ガラス細工のような言葉の解釈をたったひとつの武器に。昭和の霊達との交流。時間と場所の交差。

 逆に言うと、「国際問題」にならないからこそ、日本に原爆を落とせたわけだった。中略 日本はそういう夢のようなキャンパスだった。実験の土地だった。原爆から平和憲法まで、極から極のすべてができた。p.80

 あなたこそ、盗人。天皇霊を盗んだ。でも半分よ。p.94

「よう、ヒロヒトの息子よ」p.99

 マッカーサーを相方に、あのビデオメッセージを視ながら、漫才のような、大喜利のような会話が続く。そのやり取りは、どんな芸人よりも振り切っている。マリも巻き込まれながら、私たちも巻き込んで、そうやって日本人が目を伏せてきた日本史に私たちを引き戻してくれる。

 え⁈わたしは思わず声を出してしまった。あの…、象徴の務めをはたしていく、って、それが、陛下が『全身全霊』で行うことなのですか?p.100

 他人事ではなく、再び日本人を代表していくマリは、矢面に立たされ、背負わされていく。天皇制撤廃に言及しながら、実は一番天皇に寄り添っているマリ。アメリカという男子に、女性化した日本が、のまれていったのだろうか。だからこそ、マリ、赤坂真理は鋭敏に、愚直に、闘う。

 60年以上、実質上、一党独裁で、それはもとを辿れば、アメリカの、独裁なのだ。p.126
 原発はやっぱ原爆つくった国じゃなきゃー。p.182

 箱は空だ、と。日本の中心にある空虚は皇居。別な箱の存在は、もうひとつの日本がそこにあったということなのか。本物と偽物の違いがよくわからなくなってきた。

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本を買って読みます。