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本町文化堂・シネマ203に行ってきました【和歌山一人旅】

みなさま、新年あけましておめでとうございます。
今年もnote更新を頑張っていきますので、何卒よろしくお願いします。

さて、実はこの年の瀬に、念願の和歌山一人旅をしてきました。きっかけは贔屓にしているポッドキャスト番組「本町文化堂からこんにちは」で、気になる和歌山ローカルスポットがたくさん紹介されていて、そういえば一度も和歌山市に降り立った事がないな?と気がついたこと。

本や映画や音楽のこと、政治や社会のこと、はたまたローカルな和歌山のお店のことなど、わいわい楽しくお喋りしてくれている番組です。

今は東北に住んでいますが、実家が大阪にあり、しかも南の方なので、実は和歌山へは1時間くらいで行けてしまう。
白浜は何度も行ってるし、幼い時に高野山も行ってるらしいけど、家族に聞いても、和歌山市内に足を踏み入れた人はまだ居ませんでした。

なら帰省する機会に行っちゃおう!と思って、ひと足先に仕事を納めてシティホテルを抑えたのでした。

伊丹空港についてから分かったのですが、伊丹-和歌山間のシャトルバス、廃線になってたんですね。これが分かっていたら和歌山市駅側にホテルを取っていたのに……。
仕方なく、いったん天王寺まで出て、紀州路快速で終点・和歌山駅へ。途中なかなか風情のある景色が広がっていたり、夕焼けに和歌山市の街が浮かび上がっていたり、なかなか旅情あふれる電車旅でした。

ちなみに、今回和歌山を旅するにあたって、以下の本を参考にさせていただきました。
これも「本町文化堂からこんにちは」で紹介されていた本です。

和歌山のフードと土産物が詰まった1冊で、想像の2倍は分厚い。普通に読んでも面白い。


1日目

晩御飯は、さっそく本で紹介されていたメキシコ料理屋「メシカ」さんにしました。

駅から徒歩15分くらい。大通りから1本奥に入った路地にひっそりたたずむレストラン。

メニューにはズラリとメキシコ料理の聞き慣れない名前があり、お店の方にお聞きしながら、「ポソレ」と「タコス」をいただきました。

お通しは豆のディップ。塩加減が絶妙で、これだけでビールが進みました。

メキシコ版豚骨スープ「ポソレ」

ポソレ、運ばれてきた時は韓国の参鶏湯をイメージしていましたが、あにはからんや、少し酸味が効いていてどちらかというと東南アジアのスープに近いかも。肉の味がジワッと染み出していて、ダシが効きまくって、スプーンが止まらない!

薬味にライムとパクチーと乾燥オレガノが出てきましたが、特にオレガノを入れるとガラッと味が変わって更に美味しくなります!
ほんと美味い…!

メキシコ牛とサボテンのタコス

2品目はタコスにしましたが、想像とは違う形で運ばれてきました。
これにライムを搾って、手で丸めて食べます。

中に入っている牛肉がとっても柔らかく、いろんなハーブやスパイスの香りが鼻を駆け抜けて、これも大変な美味。
初サボテンでしたが、複雑な味わいの中に「あ、これがサボテンかな?」と探すのも楽しかったです。

メキシコの作家といえば、私にとってはフアン・ルルフォ。
『ペドロ・パラモ』に出てきた多種多様な亡霊達のごった煮状態の町コマラ。厳しい環境と家庭の温かさ。少しの哀愁。なんだかそういったものまで感じられてくるような、素晴らしいディナーでした。

奇しくも、翌日書店で購入した『翻訳文学紀行Ⅲ』の冒頭に、エゴン・エルヴィン・キッシュ『メキシコ発見』という作品が収録されていて、ここにトウモロコシを使ったいろんなメキシコ料理が紹介されていました。
トウモロコシを使った代表的な屋台フードは四種あるらしく、タコスはその一つだそうです。

一.タマル:外側もトウモロコシ、内側もトウモロコシ。薄皮ごと荒くすり潰したトウモロコシの塊をトウモロコシの葉に包んで、蒸気で蒸したもの。しばしば肉が添えられ、お好みに合わせてーーもちろんお好みでないことなどありえないがーーチリペッパーをかける。
二.エンチラーダ:七面鳥などの肉や野菜、白チーズを巻いたトルティージャをトマトソースで蒸し焼きにし、玉ねぎをたっぷりのせたもの。お好みに合わせてーーもちろんお好みでないことなどありえないがーーチリペッパーをかける。
三.タコス:メキシコ風サンドウィッチ。フリホレス(インゲン豆)や野菜、肉などをパリパリのトルティージャで包み、お好みに合わせてーーもちろんお好みでないことなどありえないがーーチリペッパーをかける。
四.ケサディージャ:トルティージャに肉やソーセージ、チーズやフロール・デ・カラバサ(カボチャの花)を包んで、熱した油で焼いたもの。お好みに合わせてーーもちろんお好みでないことなどありえないがーーチリペッパーをかける。

p.16-17

また、「ポソレ」は乾燥トウモロコシと豚の頭とを一緒に煮込んだスープで、ひよこ豆をたっぷり添えて食べるのだそう。

俄然、メキシコ料理に興味が湧いてきた!2025年は積極的にメキシコ料理屋を見つけて行きたいです。


2日目

旅先で純喫茶を見つけるのも趣味なので、探してみると、ローカルな商店街の一角にさっそく発見。喫茶「マリンナ」さんです。

昭和の趣を感じさせる外観と内装、特に通りに面した大きなピクチャーウィンドウが素敵でした。もう今ではこんな規格の窓は作れないかもしれないな、なんて思ったり。
モーニングは珈琲の価格+200円。トーストかサンドイッチか選べて、サンドイッチを選びましたが、挟まっている卵焼きに塩が効いてておいしかったです。

常連さんもひっきりなしに入れ替わり立ち代わりしていました。
まだ営業時間前の商店街の、静かな朝の純喫茶。素敵でした。


初めて訪れる土地では、可能な限り公営の博物館に行って、地域の歴史や風俗などを知るようにしています。和歌山県立博物館は割とこじんまりしていて、30分くらいで見ることができました。

和歌山と言えば、紀伊徳川家。近現代史に興味があるので、そのあたりはじっくり見ましたが、面白いことに幕末・戊辰戦争あたりの展示がほとんどありませんでした。御三家でありながら新政府軍に協力したというジレンマがあるから?興味深いです。


和歌山城は時間がなくて行けませんでしたが、敷地内の廊下橋だけは渡ってきました。土足厳禁だそう。良い足つぼマッサージになりました。

すごく立派、本丸御殿残ってる?さすが徳川御三家の居城。
結構な急勾配でした。滑ります、注意。

藩主と御付きの者だけが通れたそうです。やはり紀伊国の権威と財力を感じます。


さて、2回目のモーニング。
『おいしい和歌山』にも掲載されていたカフェ「ぼへみあん」さんに突撃しました。

ちょっと遅い時間に行ったにも関わらず、ほとんど満席でした。

オムレツもサラダもスープも全部全部美味しかったのですが、特に珈琲とパンが驚愕の美味しさでした。
既に1回モーニング食べているのに、食べる手が止まりませんでした。

とにかく珈琲が美味しすぎたので、帰りに豆も購入。珈琲の香りが充満する静かな店内で読書する時間は至福でした。


お次は映画鑑賞。
「シネマ203」さんは、ぶらくり丁にある個人経営のミニシアターです。

アパートの一室が改造されて映画館になっており、席は10席ほど。椅子は市販のものですが、クッションやひざかけ、オットマンなどがふんだんに用意されていて、膝も伸ばすことができて非常に快適でした。

鑑賞したのはフレデリック・ワイズマン監督のデビュー作「チチカット・フォーリーズ」。1960年代アメリカの精神病院の内部を映したドキュメンタリーです。
はじめにシネマ203をひとりで運営されている方から上映作品の説明があり、いくつかの映画予告の後におもむろに上映が始まるのですが、
作中に説明のようなもの(ここはどこで、何を映そうとしていて、彼らは誰か、等)は一切ないのです。

学校の学芸会みたいな雰囲気のステージの上で、収容患者と思しき男性たちが唄を歌っているシーンから始まります。

しかし次の瞬間、場面が変わり、列に並ばされた男性たちが、看守のような人たちに服を脱ぐよう指示され、全裸でボディチェックを受けているシーンに移り変わる。

それから様々な患者(彼らを患者と言っていいのかも若干迷う部分があります)が登場します。
ずっと意味をなさない言葉を演説めいた口調で怒鳴っている高齢者もいれば、発達障害や身体障害を抱えている人もいるし、11歳の娘を強姦して逮捕された後ここに連れてこられたペドフィリアもいる。ひたすらサックスを吹いてる人もいれば、薬物治療を拒否して「自分は正常だ」と訴え続ける人もいる。

なんと独房も存在し、素行が悪ければ全裸で投獄されます。独房の中で3日間食事を拒否し続けた一人の男性が、両手両足を拘束され、鼻からチューブで栄養を流し込まれる映像は、おぞましくて直視するのが困難でした。

この映画はのちに裁判となり、舞台となった精神病院は運営改善を行なっていると明示することが義務付けられた……とスタッフロールのあとに表示されました。社会への告発として、大きな反響があったことがわかります。

こういうシネコンではやらなそうな作品をバンバン上映してくれる新進気鋭のミニシアターが近くにあるって、本当に豊かですよね。
わざわざ遠方から観に来る方も多いそうです。
他にもみたい映画がたくさんありましたが、時間の関係で断念。次は3作品くらい連続で観てみたいものです。


その後、同じぶらくり丁にある「本町文化堂」さんにお邪魔しました。いわゆる独立系書店です。

店先に野菜が売ってて大変良かった。

すでに扉を開ける手前のアプローチにも本が山と並べられており、その一冊一冊がまた素晴らしいラインナップ。店に入らずしばらく棚を物色していました。外は中古の本が中心、新刊は店内です。

店内は思ったよりも広く、所狭しと本が並べられていました。かなりの蔵書数。お客さんも2~3人いて、静かにエアコンとページのめくる音だけがしているような知的な空間でした。
入ってすぐ右側の壁棚が海外文学、奥の浮島が韓国文学……となんとなくジャンル分けがありましたが、きっぱり分けられているのではなく、本同士の緩いつながりに従って置かれている感じ。
パレスチナ問題、ナチス、台湾、地域コミュニティ、韓国、映画、音楽……と、それぞれの棚にテーマがあるのですが、そのチョイスも凄く良い。
最近はほとんど海外文学にしか食指が動かなくなっていたのですが、見ているうちにもっと幅広い読書がしたくなりました。それくらい素晴らしいラインナップでした。

とか言いながら、結局購入した3冊全部海外文学なのですが。
気づけばジャック・ロンドンの『ザ・ロード』も、ことたびさんの『翻訳文学紀行Ⅲ』も、『ナボコフの1ダース』も、全部ポッドキャスト番組「翻訳文学試食会」で紹介されていた作品でした。

特に『ナボコフの一ダース』は、何軒か書店を回ってもなかなか見つからなかっただけに、出会えた喜びはひとしおでした。さすが「本町文化堂」、選書眼が見事。

店主であり、ポッドキャスト番組「本町文化堂からこんにちは」のパーソナリティでもある島田さんにもご挨拶できて良かったです。多分、ご自分がお客さんの視界に入らないようにして、じっくり選書や立ち読みに集中できる環境を作っているのだな、と思いました。なんだか優しいですね。

本当は帰りにタイ料理屋さんに寄りたかったのですが、時間が足りなくてあえなく断念。
次は何泊かして、紀南の方にも足を伸ばしてみたいなと思います。

和歌山市、程よくレトロで程よく文化的で、なかなか掘りがいのある楽しいところじゃないですか。白浜や高野山や那智勝浦のような観光地ではない、普通の街の魅力を堪能した旅でした。

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