中國で最初の建築 |曼荼羅
中国で沢山の建築を設計してきたのだがそのほとんどが実現してない。しかし、僕の中では大切な一歩として次の建築のスタートラインになっている。そう、一つずつの作品が次のスタートラインなのだ。
深圳の深圳大学でシンポジウムがあって僕はヨーロッパからの若い建築家たちと一緒に講演したのだが、その懇親会の会食の席に変な中国人のおじさんが現れた。いきなりテーブルに図面を広げてここに別荘を設計してほしいというのだ。
その後、敷地を見たりして契約をとり、提案したのがこの作品である。依頼は音楽家のための別荘が欲しいという。そこで演奏会などできるように広々とした開放的なホールとそれに続くパティオを持っている。しかも、室内は半楕円で屋外もまったく同じ大きさの半楕円になっている。ミラーガラスで仕切られていて、夜、庭の照明を消し、室内の照明を点灯するとミラーガラスに反射して広大な楕円形のホールが出現する。そんな仕掛けの建築である。
ちょっとしたはげ山の頂上付近の、広い空間が見渡せる場所であえて閉鎖的にしたこの計画は依頼者である開発会社の気持ちにそぐわなかったらしく、返事もないままに中止になっている。僕もつぎつぎと仕事があるのでずっと放置していたのだが中国ではこんな感じでプロジェクトが消えていくことが多い。
後に、会った時、海南島に黒川兄弟の美術館をつくりたい、展示物の収集をしてくれたらこの建築を実現したい・・・と虫のいい申し出があったのだが、そんな無理なことはできないとお断りしている。
その後、このプロジェクトをなんとか実現したいと思っていたのだが、天津のパートナーである李雲飛さんの計画に関連してwater barとして実現したいとプロデュースしてくれた。しかしこれも、実施設計が完了した段階で中止になっている。この場合は天津市の市長が汚職で逮捕されて、この湿地公園全体の計画が中止になっている。この他にも二つのプロジェクトが政争に関係して中止になったり完成しても解体されている。
とにかく、政府関係の設計では当たり前のようにこのようなことが起こる。
それにしてもこの計画はいつか実現したい。
虚実という空間の錯視をテーマにしていて、それが建築の「生命を刺激し、再起動する仕掛け」とイメージしている。人間は「慣れと飽き」という日常的意識に戻ってしまう性質を持っている。それが哀しさや苦しさを忘れるという、人を助ける仕掛けにもなっているのだが、人を怠惰にもしてしまう。建築の空間は、その人の意識を再起動する仕掛けを持っていなくてはならないと思っているのである。
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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。
〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。
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