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軽い建築| 美和ロック玉城工場 1990

これほど鉄骨造で軽量化に成功した建築はないと思っている。構想のアイディアも構造設計も佐々木睦朗によるもので、後に、松井源吾賞を受賞している。佐々木睦朗さんはいまでは世界で突出する構造家で、多くの世界的な建築家に協力している。建築の構造設計とは法律に基づいて、大きな地震や強風に襲われてもそれに対応できるという力学的な問題や、構造コストの低減だけではなく、その構造自体が建築の主要な美意識に直接的に関係してくるのだ。
樹木が美しいのはその構造が美しいからであるし、美しい吊橋なども構造の美しさである。建築は外壁がついて構造が見えなくなることが多いから構造美が見えにくいのだが、構造と建築の外観の設計が美しい調和を保っている名建築も多い。佐々木睦朗さんはそんな創造的な構造家なのである。

この工場は建築のハンドルやロックを製造する美和ロックの玉城工場である。結局、基本的には同じ設計図が用いられて二棟建っている。無柱の大空間なのはハンドルやロックの製造過程は小さいラインが多様に入り組んでおり、また改善のために様々な変化する必要があったからだった。広大な面積を釣り構造で構築し、そのテンションワイヤーを支持するコアを光庭にして深く巨大な内部空間に自然光を取り入れて照明のエネルギーを最小限に抑えている。

そのために、非常に少ない鉄骨のトン数でこの建築を構築することができた。工場建築は合理性だけが主張されがちなのだが、この合理性を実現しながら同時にドラマティックな空間が内部に生まれてもいる。

建築は実に多面的な視座で発想することが重要である。この工場建築のように生産性と経済性などの視座とは別にそこで働く人々のメンタルなテーマもある。年数が経過しての自由は工程の配置換えが可能な設計であることも大きい。建築は地域に視覚的な影響を与えるし、人々の動員によって交通渋滞を起こしかねないことから都市問題もある。歴史の視点、美学的視点なども常に考慮してもいる。従業員の労働意欲にも関係するし、経営者の誇りや夢も、建築が左右することになる。

僕は建築家なのにプロダクト製品の設計もしている。この美和ロックのための多くの製品もデザインしている。製品に表現する企業思想も工場の建築に同じように表現されている。そして同時に、美和ロックの商品設計に要求される設計思想、合理性や美意識が工場の設計に際しても同じ姿勢でつながっている。建築家でありプロダクトデザイナーでもあり、都市設計家でもあると自称していることが、こうして一つの企業のために反映できたことはなかなか得難いものだろうと思っている。あの時代の夢中した仕事ぶりと興奮を思い出す。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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