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コンクリートの箱|CASA VITA2012

九州の福岡で、CASA CUBEという建築システムを生み出した元気な事業家と出会うことになった。彼は縦長の窓があるだけの現代建築の常套手段である連続窓を否定する箱型の家を主張して、設計から工事、部品の販売までビジネスを積極的に展開していた。それが気に入って、僕は彼に接近する。僕はこのように挑戦する人が大好きなのだ。僕自身もそうなのだから当然のことなのだろう。

付き合いながら僕は長い間温めてきた一つのアイディアを彼にぶつけることになった。それはPACK-IN SYSTEMと称した開放的な内装システムの提案だったが、それを核として「新しい住宅の発想」を提出しようとしたのである。それはこんな構想である。

地下一階、地上二階の、合計三階分のRC造で規格化した箱をつくって、その中を多様に構成する部品のシステムを準備する、そんな住宅システムである。まず、地下室は騒音問題を起こさないし地中の温度は一定だから夏に涼しく冬に温かい。地震の多い日本でも揺れるのはほんの少しだけである。住宅の中の「必要最小限の機能」を外れた「遊び」の空間がここで展開できる。
一階はエントランスとリビングキッチンなのだが地下への吹き抜けをつくるとドラマティックになる。自転車やバイクを置く場所もつくれる。二階は寝室が三つほどつくることができる。

それらが規格化された部材で簡単に組み立てられるのだ。しかも基本的な部材はすべて木製である。自分でつくることもできるのだから、安全な外郭となるRC造の構造体の中でそれぞれの家族が自分の家を自分の手で、その時の家族構成に合わせて展開できるのである。

残念なのだが、このようなアイディアの実現は事業家との出会いがすべてを決める。CASA CUBEの彼はいろいろ展開を発想してくれたのだが、うまくいかないまま咲きかけた花がしぼむように終息してしまった。今でもあきらめてはいないのだが・・・と悔しさが蘇る。
僕にはそんなアイディアがいろいろある。夢に心躍らせたのに実現しなかったり、実現させたのだがしぼんでしまったりしている。失敗は成功の元なのだから、ガンガン生まれるいろいろなアイディアのいくつかは思い出になってしまうのだろう。それでいいのだろう。

海の上に浮かぶハウスボート。海上に巨大な風船のように膨らませてつくる浮上港。風で屋根が揺れる休憩所。工場生産された箱型の建築を牽引して敷地で斜めに立て起こしてつくるTILTED BOXという住宅。それらは実現しないままなのだが、プラスティックの建築「パンドラ」やアルミニュームの建築SYSTEM-CUBEはそれぞれ100個ほど生産している。そうそう、フィリッピンのスラム建築は夢のままだ・・・。

まだまだ、実験的な建築を提案していきたい。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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