組み立て式建築| システムキューブ
友人たちに誘われて山中湖湖畔にある讃美が丘別荘地を購入することになった。敷地分割で残った鋭角の三角形の土地である。別荘地は敷地境界をはっきりさせないから、隣の土地も自分の庭だと感じていられるのだが、建築できる敷地は狭い。風景だけは広大で山中湖も富士山も見える。
僕らしく建築実験をすることになる。新しい工法を開発する。部品の製造は友人の鉄工所を借りて鉄のアングルの切断や溶接を自分たちでやっている。
スタッフと日大芸術学部の学生たちが一緒である。部品化建築ともいうべきもので素人でも組み立てられるように工夫したシステムだから骨組と外壁、内壁のパネルを立て込んで大体の形を自分たちでつくるのだが、屋根の防水と2400ミリの正方形のガラスを自分たちでは設置できない。設備関係も専門家が必要だ。
いろいろなことを学んだ。鉄の重さやコンクリートの冷たさを身体で感じもした。部品の精度が悪くてボルト穴にボルトが入らないときでも無理をするとなんとかなる。鉄がこんなに柔らかいことを知ったのもこの作業を通じてである。たくさんの建築関係の業界にいる友人たちも協力をしてくれている。カーペットは安く、作り付けの家具も特別な値段だ。コーラオブコーラの便器やバスタブも特別値段である。すべてが実験でありすべてが雨漏りの可能性を含んでいるのだが、なんとかクリアして完成することができた。2400ミリの正方形モデュールが6つの室内と同じモデュール二つのバルコニーが付いている。面積は35㎡、バルコニーが12㎡程度になる。10坪の別荘である。
建築にはダイニングテーブルとキッチンを固定した家具だけで、その他にベッドがあるだけでソファも椅子もない。ダイニングの椅子は床が落ち込んでいて床に座るテーブルである。リビングルームは床が落ち込んでいてソファが不要な設計である。クッションだけでいいのだ。暖房は電気式でこれも床一面に入っている。スピーカーも床版が共鳴するように床自体が音響装置である。
日本の建築は世界では珍しい「床の発見」で始まっている。それに、まるで林のような柱の群れだけがあって壁がない。室内の空間はそのまま外の庭に連続している。僕が試みたのはこの床と柱だったのである。鉄のアングル四つでできる十字の柱とすべての機能を盛り込んだ床がテーマだった。実に快適な家だった。いまは消えてこの世にないのだが僕の脳裏に焼き付いている。
このアイディアを特許申請して、新日鉄に売り込んでいる。子会社の日鉄カーテンウォールがそれを受けてアルミニュームの建築システムとして再開発することになった。数件建築している。面白いのは僕の別荘で使った数百万円の建築費をこのシステム開発で取り戻したことである。
工業化建築と伝統建築を融合したようなこの建築は、僕の一つの時代をつくっている。
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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。
〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。
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