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曼荼羅のショールーム |タンカ美術館 2013
POLO ARTSの王翔さんが訪ねてきた。誰の紹介だったかは忘れたのだが、いずれにしても誰かが誰かを頼りに中国社会はネットワークが仕事を持ってくる。みんないい人ばかりだからネットワークが広がることはそれ自体、実に楽しい。
北京に798という地域がある。昔、工場だった地域をそもそもは日本人の画廊がギャラリーを設けたのだと聞いている。ニューヨークでもSOHOはそんな風に開発されたのだが、北京でも家賃の安いこの地域にアーティストが集ってアトリエができギャラリーができて人が沢山集まるエリアになった。そして今では観光地になってもいる。
僕の友人たちも多くここに会社を開いたりギャラリーを持ったりしている。ホワイトボックスの孫さんも798では一二を争う大型のギャラリーを持っている。僕もそこで家具の展覧会を開いたことがあるし、ホワイトボックスのミュージアムショップは僕の設計だ。
O – GALLERY(オー・ギャラリー)の宋さんもそこに家具の展示場をもっている。最近では上海にギャラリーを開いたりしているから成功しているのだろう。若者たちを指導したり支援している。若者たちにいろいろなチャンスをつくったりしながら彼のギャラリーに作品を展示して販売してもいる。僕にとっても恩人の一人だ。
そんな798の一角に王翔さんはタンカのショールームを開きたいという。ショールームというより「チベット仏教の体験空間」と言うべきかもしれない。不思議なエレベーターがあって、それはヨーロッパの建築家が設計したのだというのだが、それまで高級家具を展示販売していた広大な倉庫のような空間を再開発したいという。
色々相談をして、チベット仏教の密教的虚構をつくることになった。エレベーターから降りると狭い空間があって、そこから入る。セレモニーとして、履物を脱いで手を洗って、暗い空間をたどって最初の小さな仏像に出会う。廊下にでるとすぐに大きな空間にでる。曼荼羅は世界を表現するのだから丸い池をつくり、池の底に曼荼羅をプロジェクションするのだが丸を描くほどの大きさはない。そこで半円の池にして、鏡面の壁で反射させて虚像として丸い曼荼羅に見えるようにしている。
そのホールを出てすぐの隣がタンカの店になっている。その上に階段を上がると茶房があって、曼荼羅の池を見下ろすことができる。ショップをでると長い廊下なのだが、突き当りに鏡面の壁があるから廊下の長さが無限大になる。左右の壁にはタンカが並び、チベット仏教の宗教的空間もあって充分楽しむことができる小さなテーマパークのような内容になっている。
今はもう、このタンカ・ミュージアムはない。王翔さんはその後、飛騨の家具会社と契約をして中国で販売を始めたから、また家具のビジネスに戻ったのだろう。僕が天津で開発したオフィス用の木製家具を扱いたいと言っていたがコラボレーションは実現しないままになっている。僕たちの家具が生産体制をつくることが難しくて頓挫しているからコラボレーションは中止状態である。
中国のテンポの速さは今でも変わらない。計画性のなさでもあるのだが、資金力があり気分でビジネスがどんどん変わっていく、これは民族性なのだろうか?家具の製造は先進国の精度感覚と合わないからトラブルが多い。図面を提出しても図面通りに作らないで平気でいる。見た目が同じならいいだろう、という感覚である。
同じアジアでも、民族の相違、文化の相違、政治制度の相違、習慣の相違などで面白いと同時に振り回されたりもする。でも笑顔を見るといい友人だ。虚構の空間をつくって、ふっとこの国自体が虚構なのではないかと思ったりする。
出典(上図2点):Wikipedia
出典:The Factory 798 Art District
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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。
〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。
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