建築を裏返す|アトリエオンダ 1987
都市を考え、建築を考え、プロダクトを考えていると一つの大きな思想が見えてくる。人がここにいて、人とそれらの関係は都市も建築もプロダクトも同じものに見えている。それは単純に「物」としての存在と「空間」としての存在の2つである。物は僕の外にあって僕はそれを対象化している。外にあるから壊すこともできるし捨てることもできる。空間は僕を取り巻いている。取り巻いているから壊せないし捨てることもできない。空間は求心的にエネルギーを僕に放射しているのだが、物は僕とは関係なく物自体がエネルギーを放射している。それは遠心的なのだ。物が出すこのエネルギーを「気」というのだろう。物は気を放射して他の物と気を交わしている。これが「間」なのだろう。
実は日本人の意識に本当の「空間」は見えにくい。書院造やその流れである木造建築では柱が物として気を放射している。民家にそれが見えやすい。民家の屋根裏を見上げるとそれは森を見上げている感覚に似ている。森や林に取り囲まれている感覚は空間であるより環境だと思う。物が群れをなして僕を取り囲む時、それを環境という。教会のような大きな空間は空間であって環境ではない。環境を変えたい時には環境を形成している物を排除したり手直しするしか方法がない。物をいじることで環境が変わる。空間は空間自体を変更するしかない。だから森林は環境なのだ。
建築も自動車も外から見ると物である。中に入ると空間になる。都市は外からは環境であり空間ではない。都市環境は建築やそれをつくっている要素を変更すれば変わる。都市を物としてつくることは不可能ではない。ピーター・クックの動く都市はそれだし、小さい規模ではあるがコルビジェのユニテ・ダビタシオンは物としての都市と言える。これは壊すことができる。物だからである。しかし同時に中にいれば空間だから壊せない。
自動車に乗ったまま、ルーフにナイフを突き立てて切り裂き、ぐるっと反転すれば自動車はモーターバイクのようになって自分はその上に乗っている。自動車を反転すればモーターバイクになるのだ。空間は反転すれば物になる。物に切り目を入れて裏返せば空間になるのだ。
建築を裏返せば家具になるのではないか・・・そう考えてこのアトリエオンダはできている。
僕は大学院生の頃から「物」の概念を考え続けてきた。それが僕を建築家であるだけではなくプロダクトデザイナーにしたのだろう。僕の意識はもう数十年、この物と空間を考えてきた。そして、一つの結論が見えてきた。物とは魂のことだ。原初人が自然という言葉を知らないとき、自然の意味を「魂」としてつかめていた。それが「鬼」になり「河童」になった。生まれたばかりの人間は世界を物の群れとして理解する。一つずつ、物を見つけてまるで星の宇宙のように物の宇宙を描いてきたのだろう。物が群れをなすから物と物の間に「間/ま」が生まれる。間の美意識は物の美意識とつながっている。そんな考えを「原初思想」と言っている。
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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。
〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。
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