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記憶の原点 |ホワイトボックス、ギャラリーショップ 2013

O-Galleryの宋さんのことは会う前から知っていた。北京にそんなギャラリーがあり、ショップを持っているから僕の作品を展示してもらえないかなと、ふと思ったことがある。まだ、中国は上海の友人たちとの楽しい遊びだけだった時代に中国を仕事の場にしてみようと思い立って、その気で中国を見回した時、思い出したのが宋さんだった。
経済産業省のプロジェクトに絡んで上海の展示会に出品し、上海の友人たちに手伝ってもらっていたときに、宋さんが展示場に訪ねてきた。彼からの申し出で僕は僕の作品の販売を任すことになった。いよいよ、中国を仕事の場にしようという僕の方針転換が具体化した時だった。

宋さんから僕の人脈は爆発的に広がっていく。どんどん、いろいろな人を紹介してくれる。色々なプロジェクトを繋ごうとする。いつもにこやかで痩せっぽちで、芸術家のような、デザイナーのような、でもむしろギャラリーのオーナーで、若手のデザイナーを育成してもいる。顔が広くていろいろな人たちが周りにいる。中国の第二期とも言うべき時代が彼によって始まったように思う。

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そんな彼がつないだ仕事の一つに北京、798の大型ギャラリー、ホワイトボックスがある。巨大な天井の高いギャラリーなのだが、その入り口付近にギャラリーショップを持っている。その全体の改装計画をやったのだが、その中のギャラリーショップが実現している。

僕の仕事は先ず、きれいにできているギャラリーショップの内装を全部破壊することからはじめた。光天井で都会的なインテリアを壊して、この建築が最初にどんな姿だったかを裸にすることが大切だと考えたのである。原点に戻そう、この空間の記憶を露出させよう。それが工場だったのならその痕跡を視覚化しよう、そう考えたのである。

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中国には民間信仰の一つなのだが、「天地人」という思想がある。非常に中国らしいのだが、初めに世界は混沌だった。混沌はその聖なるものが上って「天」になり、汚濁したものが「地」となったというのだ。その間に「人」がいる。すっくと立った人とそれを支える地と上に広がる天という壮大な世界観が僕のお気に入りだった。この寓話は日本書紀にもあるというからはるか中国から日本にも渡ってきたのだろう。
この天地人の壮大で、シンプルな世界観をヒントに僕はこのギャラリー構想していたのである。まずは天地人に戻そう。この空間のエネルギーは空間がはじめから持っている祖型ともいうべき工場の鉄骨などの骨組みなのだ。これを裸にしてエネルギーを取り戻そうとしたのである。小綺麗に仕上がった内装に覆い隠されていた「場の記憶」が現れてくる。そこに白いペンキを塗り、ガタガタの天井にアッパーライトを照射して誇張する。壁も粗雑なイメージが露出して強いエネルギーを発している。それに負けない「地」をつくるために粗雑な床を仕上げる。

完成したホワイトボックスの天地人に、様々な機能を「テーブル」や「箱」や「棚」という「装置」を散らす。壁にはあたかもそこに止まっているかのように「棚の装置」が後ろから照明のはいった装置としてそっと壁に取り付いている。展示台の「箱」はやはり後ろから照明が漏れ出した「床と一体ではないよ」と主張するかのように置かれている。
テーブルもそうなのだが、すべての装置は天地人の一部ではない、人と物が「天地」の世界に挟まれて世界を完成させているという表現なのだ。

この発想はその後設計するCYBER STUDIOでも踏襲されている。天地人と家具の群れが流動的な世界を実現するのだ。群の発想はこのサイバースタジオから意識されてはいるのだが、それ以前に、無意識にこの群の発想はここから始まっていたのだろう。

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中国 北京 798

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中国 北京 798

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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タイトル作品写真:調査中

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