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初めてのクラブハウス|大金ゴルフクラブ 1988

ゴルフを始めたのは建築家の中ではかなり早い方だった。クライアントで友人だったシングルプレイヤーが僕をサイパンだのシンガポールだのと連れ出して特訓してくれたのが始まりだった。スポーツはしないものの運動神経はいいほうだと思っていたのだが、やはり身体を使いこなすことに慣れない僕はなかなか上達しなかった。しかし、建築家だから根源から考えることに慣れている。その上、構造力学だのの基礎知識があるのだから勢い理論が先走る。理論的にはシングルプレーヤーだと豪語して笑われていた。ハワイの別荘で毎年過ごすようになるとますます磨きがかかる。でも、ゴルフは深い。簡単ではない。

そんな僕がクラブハウスの設計を頼まれる。小躍りして喜んだのは当然だろう。その後、複数のクラブハウスの設計を手掛けるのだが、大金は思い出が深い。ゴルフライフの一日のストーリーから考え始める。到着してクラブハウスに入るときのときめきをエントランスからの風景に焼き付ける。まともにみるとなんでもないおじさんたちが、逆光で詩的に見えるように・・・その背後にはキラキラと朝の太陽を反射する池がある・・・。ロッカーでの思い、午前中のハーフラウンドが終わってクラブハウスに戻るときの思いをイメージする。レストランは一階がいい。興奮して帰ってくるゴルファーを
見ながらランチをする。

池の上に建つクラブハウスを考える。ガラスはサッシがまったくない、風景を横切るもののないガラス窓は気持ちがいい。ちょっとだけ高いところから見下ろすように建つレストランに戻ってくると、人々が池を背景にして見える。屋根は勾配のある屋根がいい。池に反射している。コルテン鋼という、表面が錆びることによってサビがそれ以上進まない鉄板を屋根にする。錆仕上げの屋根である。

プロゴルファーの青木さんがコース設計を担当している。ときに誘われて彼のヘリコプターで現場に行くことがある。空の上から数々のゴルフコースを眺めながらの彼の話は驚異的である。このコースはどっちから風が吹くとか上空の風の性格をすべて知ってプレーをしているらしいのだ。上から見ただけで、これはどこのコースかもすぐに分かる。コースのすべてを知り尽くしている。プロの凄さを思い知らされたものだ。

完成してから一緒に回ったりもしたのだが、天才だから教えるのは下手だ。下半身は動かすな!というのだがそれができないのだ。休憩のとき、彼のズボンを捲し上げてそのふくらはぎの凄さに仰天したものだ、ほとんど僕の胴と同じなのだ。これだけのふくらはぎなら下半身を止めるのは簡単だろう。3番ウッドでコースを低空飛行するあの凄まじい飛球を思い出す。

沢山の人達との交流が思い出になっている。もうこの世にいない人たちも多い。

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

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