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HEREという会社|食器・茶器・酒器をデザインして販売する会社のデザイン

自分自身の設計事務所も会社なのだが、新しい企画が始まってその組織をつくるとなるとその在り方をはっきりさせなくてはならない。設計事務所は設計を進めやすくするための組織なのだから、ほんとんど身体感覚で自分の手足を増やし、頭を複数にして深い成果が生まれるように、色々現実的な問題を考えながら少しずつ改変させていくことで済む。ほとんど組織とは自分の身体という感じなのだ。

しかし、僕は自分自身の主要なテーマである「デザインをする」という目的を拡大するために色々な手を打ってきた。その一つにデザインの発注を僕にする会社、デザインしたものを製造し、販売する会社をつくることでよりデザインのチャンスを増やしていくことを発想する。HEREはそんな僕の思いにつながるチャンスだった。

デザインはそもそも新しい領域だから欠落するものが大きい。職人のように素材に触れることが難しい。職人は素材に触れながら世界と会話しているのだが、それができない。販売する現場から遠いから、使用する市場からの情報を受け取りにくい。環境が産業寄りだから芸術や思想の現場からも距離がある。デザインは総合的なのだが、同時にそのことが宙に浮いていることにもつながっている。

ものをつくる、ということを大きく実現することのできる状況を作り上げたい。そこからHEREの会社の設計が始まる。
人がどう生きるべきかを考えるように、会社だって何のためにあるか、何のために生きているかを明確にしなくてはならない。人の人生には目的がないのだが、会社をそのような状況に育てるまで紆余曲折がある。

自分の人生を感動的にするのと同様に、会社も感動的な人生にしなくてはならない。生きている、仕事をしていることが、それ自体が歓びである、そんな日々が前提とならなくてはならない。一人の人間として生きていくためには稼がなくてはならない。それも稼ぐために生きているのではなく、生きていることで気づけば収入が発生しているのでなくてはならない。会社も人なのだ。

デザインすることが生きていることと同義であるようにはなった。お金のために働いている感覚はすっかりなくなった。HEREの仕事が同じようになるのが、目指す目標である。かつての職人たちのように素材に触れ、使用する人たちと接触して、芸術や思想の一つとしても創作している感覚があるようにありたいと行動している。美しいものを生み出すように、美しいことも生み出せるといい。

新人デザイナーのように何もかも初めてなのだが、同時にHEREの活動はデザインする建築家の活動と全く同じでもある。物学研究会にしろ、大学での教授の仕事にしろ、目的は自分だけでいいデザインを生み出すのではなく、みんなといいデザインを生み出したいということである。自分のデザインした製品を製造販売する会社とは、以前は一人だった職人を組織化したようなものである。ここでも自分がより広く深くデザインを進めること、それが大きな広がりになることを目指している事になる。そこで大切なのは、どう生きるかという自分の人生と同じことを、この会社はどう生きるといいのかを考えることなのだろう。

HEREが運営するWebサイト:EATALK

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《黒川 雅之》
愛知県名古屋市生まれの建築家・プロダクトデザイナー。
早稲田大学理工科大学院修士課程卒業、博士課程修了。
卒業後、黒川雅之建築設計事務所を設立。
建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインと広い領域を総合的に考える立場を一貫してとり続け、現在は日本と中国を拠点に活動する。
日本のデザイン企業のリーダーが集う交流と研究の場 物学研究会 主宰。

〈主な受賞歴〉1976年インテリアデザイン協会賞。1979年GOMシリーズがニューヨーク近代美術館永久コレクションに選定。1986年毎日デザイン賞。他、グッドデザイン賞、IFFT賞など多数。

クレジット

タイトル写真:株式会社ひあ

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