見出し画像

健康診断に行く男【妄想物語】

会社に行く途中、前からスーツ姿で歩いてきた男性がいた。
スーツ姿の男性はたくさんいるけど、その男性、
指先でピンク色の角2封筒(A4が折らずに入る大きさ)持って、プランプラン揺らしながら歩いている。

あの封筒、見覚えある!
あれは、健康診断センターの封筒だ。
ということは、彼は今から健康診断?

ここから又私の妄想が始まった。

彼は去年40歳になった。
と言っても、誰もが彼のことをもう40代半ばだと思っている。
規定値を大幅に超えている腹囲と、早くも危うい気配が漂う前頭が、彼をそう見せているようだった。

しかし彼は、全く気にしていない。
頭の中は、健康診断が終わったら何食べよう♪
昨日の夜は、早い時間に軽めに食べたから、腹ペコだ。
カツ丼にしようか…カツカレーもいいな。
あ、胃カメラの後はダメかな?
ラーメンくらいならいいか?
うどんとかがいいのかなあ…
でも肉食べたいなあ
肉うどんならいいだろう。
頭の中は、食べ物のことでいっぱいだった。

健康診断センターにつき、検査着に着替え、胃カメラ、腹部超音波、心電図など、順に済ませていく。
それから身長体重を測るところで、腹部の測定があった。
検査員さんが、めいっぱい手を伸ばして、腹部にメジャーを回した。
110センチですね。

え?去年より10センチもデカくなってる!

男は青ざめた。

そ、そんなに…?

検診が終わり、男は項垂れて検診センターを出た。
お腹はすいているはずなのに、食欲が出ない。

考えてみたら、20代の頃はマラソンをしたり、友達とフットサルをやっていて、スリムだった。
しかし、結婚して、子供が生まれ、いつしか子供とまったり過ごす休日が増えて行った。
体は動かさないのに毎晩ビールを飲みながら、妻の作る美味しい料理をたらふく食べていた。
これじゃ、去年はB判定だった脂質も、どうなっていることやら…
肝臓や腎臓は大丈夫だろうか…

男は、コンビニに寄って野菜ジュースとおにぎり1個を買って、公園のベンチで食べた。

検診の後、午後から出勤するつもりでスーツで来たが、仕事に行く気にもならず、休みの連絡を入れ、街をぶらぶら歩いた。

ふと、ショーウィンドウに映る自分の姿に目がいった。
いつからこんなおじさん体型になってしまっとのだろう…
男性のマネキンが来ているかっこいい服には目もくれずに、今日まで来てしまった。
まだ間に合うだろうか…
娘がもう少し大きくなったら、やっぱりかっこいいお父さんでないと、一緒に歩いてくれないかもしれない。

男は、フィットネスクラブの前で看板を眺めたり、本屋で「痩せる」とか「体を作る」なんて本を捲ったりして、頭の中で自分が再び痩せてかっこいい姿になることを想像した。

夕方いつもの時間より少し早く帰宅した。

待っていたのは、愛する妻の笑顔と
大量の唐揚げと、ハンバーグと、フライドポテトにピザ、
そして冷えたビールだった。

お腹空いたでしょ
あなたの好きなものばっかりよ❤️

男はぼうぜんとした。


終わり


その後彼がどうしたのか、
食べたのか?食べなかったのか?
あなたならどうする?
私なら…

いいなと思ったら応援しよう!