最後のマスから
う〜ん…
先ほどから、一人の男が、薄くなった頭頂部から噴き出す汗を何度も拭きながら、しきりに唸っている。
彼の前では、一人の男の子が、ニコニコして、その男を眺めていた。
もう数十分前から、男がやっとアクションを起こすと、男の子が一瞬で動き、またしばらく男が考えて、ようやくアクションを起こすと男の子が即反応する、と言うことを繰り返している。
おじさん、早くしてよ
男はそう言われても、
う〜ん、と言うだけで、なかなか動かない。
おじさんの番だよ。
もう、他にやりようがないじゃん。
男は、仕方なく、手に持った黒いコマを置き、横の白いコマを一つひっくり返した。
男の子は、男の顔をチラッと見て、ニヤッと笑った。
もう空いているマスは一つしかない。
男の子は黒が多いその場所に、白いコマを置いた。
最後のマスから碁盤の上の黒いコマが一気にひっくり返され、気付くとほぼ白で埋め尽くされていた。
男は
また負けたか…
お前にはかなわんなあ
と言ってワハハと笑った。
ここまで本文411文字
これはたらはかにさんの
♯毎週ショートショートnote
に参加したものです。
お題は
「最後のマスカラ」
マスカラ→マスから
に変換してしまいました。
この二人はあるゲームをしていたのですが、お分かりになりましたか?