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垂乳根のイチョウ

ねえねえ、あんなところにツララみたいのがあるよ!変なの!

ミコちゃんが、散歩に来た神社の脇の銀杏の木を指差した。
お母さんが、ミコちゃんの指さす方を見ると、青々とした銀杏の木の枝下から地面に向かって、枝の一部が垂れ下がっていた。

これは…
ミコちゃんのお母さんは、子供の頃おばあちゃんに聞いた話を思い出した。

昔食べ物も満足に食べられない貧乏な家のお母さんが、赤ん坊を産んだけれど、満足に乳が出ない。
そのお母さんは、裏山の神社に
どうか乳が出ますように
この子が無事に育つように
とお祈りをした。
すると、神社脇の銀杏の木の上から声が聞こえた。
私の乳を飲ますがいい。
見ると、銀杏の木はふくよかな女神様の姿となりその乳房から乳が滴り落ちていた。
お母さんは、その下に駆け寄り、女神の乳房から滴る乳を、赤ん坊の口に含ませた。
赤ん坊は、美味しそうにグクゴクと乳を飲み、すやすやと眠った。
お腹が空いていたお母さんも、その乳をお腹いっぱい飲んだ。
すると、翌日から、お母さんの乳がよく出るようになったという。

おばあちゃんは言っていた。
乳がある銀杏の木は、女神様なんじゃ。


お母さんはミコちゃんに言った。
あの木は女神様で、あそこに垂れ下がっているのは、女神様のおっぱいなのよ。

ミコちゃんは、銀杏の木をしげしげと見て言った。
でも三つあるよ、

本当ね。たくさんに人におっぱいをあげるために、たくさんあるのかもしれないわね。

それに固そう!
ママのおっぱいの方がいいや。

ミコちゃんは、お母さんの胸に顔を埋めた。

あらあら…
お母さんは、笑いながらミコちゃんをヨシヨシした。

お母さんも、ミコちゃんが生まれる前に、この神社に
お乳がいっぱい出ますように
ってお祈りしたのよ。
でも、この銀杏に乳があることには気が付かなかったわ。
お母さんは、しげしげと銀杏の木を眺め、

ありがとうございます。
おかげさまでミコちゃんは、元気に育っています!

と、木に向かってつぶやいた。

 終わり

よく行く神社の銀杏に、謎のツララのようなものを発見し、これはなんだろうと調べてみた。
すると、これは「乳」と呼ばれるもので、樹齢が古い銀杏の木に見られるものだという。

雄の木でも雌の木でも出ることはあるようですが、全ての銀杏に出るわけではないそうです。

乳がある古木は、古来から信仰の対象になることが多く、乳イチョウとか、垂乳根たらちねのイチョウなどと言われ、乳のでない母親たちがお参りすると、乳がよくでるとされる言い伝えがあるそうです。

なぜそのようなものができるのか、正確にはわかっていないようですが、イチョウは大変古くから地球にある植物で、古い時代の植物の特性を残しているのではないかという説があります。

これは根でも茎でもないのですが、伸びた先端が根っこにもえだにも変化するという不思議な物体なんだそうです。
さすが、生命力が強いイチョウです。

イチョウは中国原産で、日本には平安時代にすでに知られていたようです。
生命力が強く、樹形は美しく、葉が独特な扇形をするということで、当時から神格木として扱われ、神社、仏閣に多く植栽されてきた。

また、イチョウは葉や枝の水分がとても多くて燃えにくいため、火災の防御の意味もあったようです。

そのようなことから、神社仏閣には、古い銀杏の木が多く、乳があるイチョウも多いのだそうです。

ところどころで、イチョウが少しづつ黄色になりつつあります。
今年これらのイチョウが、美しく真っ黄色になるのはいつ頃になるだろう…
今年は紅葉遅そうな気配です。

秋の紅葉の季節、皆さんも垂乳根のイチョウを探してみてはいかがでしょうか。

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