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日本酒を飲むたびに思い出す、二十歳の夜のできごと。

私は、お酒が好きだ。

ビールもウィスキーも、焼酎でも、なんでも飲む。ワインはちょっと苦手だけど。

「お酒が好き」というと「強いんだね!」と言われがちだが、まったくそんなことはない。
たった1杯で顔は真っ赤になるし、飲み放題では全然元を取れないタイプだ。

飲みすぎた翌朝には「もうお酒は飲まないから!!!」といいながらも、夜になるとまたしっかり晩酌を楽しんでいる。
この歳になるとハメを外すことはそうないが、お酒を飲まない夜はほとんどない。
それくらい、私の日常の中に、お酒は自然にあるものなのだ。


数あるお酒の中でも、とりわけ好きなのが日本酒。


今では日本酒コミュニティ「酒小町」のメンバーになり、飲み会を楽しんだり、お酒にまつわるお仕事にも関わらせてもらったりしている。

味が好きなのもそうだけど、私にとって日本酒は、ちょっと特別なお酒なのだ。

今夜は私と日本酒の出会いについて、ちょっくら語ってみようと思う。


ー初めて覚えた、日本酒の話。

私が初めて日本酒を飲んだのは、大学2年生の冬。

当時、音楽大学でトロンボーンという楽器を専攻し、クラシック音楽を学んでいた私は、宮城県名取市で行われたワークショップに参加していた。
海外で活躍する著名なトロンボーン奏者が来日し、3日間みっちりレッスンを受けられる、贅沢なワークショップだ。


そこで、とある女の子に出会った。
青森出身の、私と同い年の女の子だ。

彼女はお世辞抜きにめちゃめちゃ美人で、とっても明るくて、笑うとさらに可愛い。

最初は方言を隠して話していたが、ある瞬間から


「あれ?標準語分かんなくなっちゃった!!」
「もうコレでいいよね?!」


と、途端にバリバリの津軽弁で話しはじめ、でもちょっと恥ずかしそうにしているのが、同性の私から見ても、はちゃめちゃに可愛かった。


ワークショップ初日、スパルタなレッスンを受けてクタクタになった私たちは、「せっかく宮城にいるんだから、美味しいもの食べにいようよ」という話になり。
もちろん土地勘はないので、ワークショップ会場のスタッフにおすすめのお店を聞き、近くの焼肉屋さんへ向かった。


二十歳の女子が七輪を囲み、メニューを眺める。


「とりあえず、生」と飲み会の決まり文句を唱えようとしたところ、津軽弁の彼女が声を上げた。


「私の好きな日本酒がある!」
「めっちゃくちゃ美味しいから、飲んでみてほしい!」



にににに、日本酒?!?!?!


日本酒ってアレでしょ、めちゃくちゃアルコール度数の強いやつ。
ゴリゴリの呑兵衛が飲むやつ。
お酒が死ぬほど強い人しか飲めないやつ。


当時の私が日本酒に対して抱くイメージは、そんな感じだ。

「私、お酒めちゃくちゃ弱いし、日本酒なんて飲んだら死ぬのでは……?」「明日もレッスンあるし」と戸惑った。

でも、こんな可愛い女の子が勧める日本酒って一体どんなものなのだろう。

純粋に興味が湧き、彼女と同じ日本酒を注文した。


それが、青森県の酒蔵・西田酒造店が造る銘酒「田酒」だ。

当時、それほど日本酒に詳しくなかった私は(というか、今も別に詳しくはないのだけど)、このお酒の価値もなにも分からずに口にした。

「日本酒は辛い、飲みにくい」というイメージがあったけど、まったくそんなことない。
しっかりと旨みがあって、酒臭さとか辛さとかは感じなくて、とにかく美味しかった。

私が田酒を気に入った様子を見て、津軽弁の彼女は「美味しいでしょ?」と、とても嬉しそうに笑ってくれた。


そんな彼女は、ワークショップの最終日の打ち上げでは、講師である海外プレイヤーたちに「This is SAKE!!!」と日本酒を教えながら、それはそれは楽しそうにバカスカ酒を飲んでいたのを、今でも鮮明に覚えている。


ー東京に帰って始めた、田酒縛り飲み。

3日間のワークショップを終えて東京に帰ったあとも、私は田酒の味が忘れられなくて。
日本酒そのものというよりは、完全に田酒にハマってしまったのだ。

ところが、居酒屋に入って日本酒のメニューを見ても、なかなか田酒に出会えない。

それもそのはず、田酒はいわゆる「いい酒」というヤツらしいが、当時の私はそんなこと知らなかった。
学生が行くようなやっすい居酒屋では、田酒には出会えないのだ。

それ以来、飲み屋の前を歩くたびにメニューをチェックし、田酒があれば入ってみるという、セルフ田酒縛り状態を楽しんでいたことがある。

その後「田酒が好き」と話していると、日本酒好きな年配の方たちが「これも美味しいよ」と色々なお酒を教えてくれ、私は少しずつ日本酒の魅力にハマっていった。

昨年末にはついに日本酒コミュニティに入会し、今では酒蔵さんとのお仕事までお手伝いさせてもらっているのだから驚きだ。


ー日本酒を飲むたびに、あの子を思い出す。

私に日本酒を教えてくれた、青森の可愛い女の子。
あのワークショップのあと1回だけ会う機会があったけど、その後もう何年も会っていない。

SNSヅテに入ってきた情報によると、今はヨーロッパに留学して、クラシック音楽の道をさらに極めているようだ。

今でも田酒を見るたびに、いや、日本酒を飲むたびに、あの子のことを思い出す。

今もヨーロッパの仲間たちと一緒に、バカスカお酒を飲んでいるのだろうか。

私にとって日本酒を飲む時間は、二十歳の素敵な夜を思い出す、ちょっと特別なひとときなのだ。

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