ストーリー・オブ・ザ・イヤー 2021
そういうものをやる記事です。規定は緩く、創作物として発表された物であれば何でもあり。範囲は前年分の翌日2020年12月30日から記事投稿の前日2021年12月30日までに、私自身が触れた作品とします。よろしくお願いします。
ストーリー・オブ・ザ・イヤー2021
ベイビーわるきゅーれ
(映画/監督:阪元裕吾/劇場鑑賞)
まず明記しておきますが、本稿の半分は映画の話です。興味を向けることが習慣化しているというか、基本姿勢として映画館で見る行為が好きなんだと思います。仕方ないですね。
ベイビーわるきゅーれが描くものは殺し屋少女二人組の不器用な同棲と暴力です。ランキング形式ではないという前提は前提として、本作を今年一番の作品として推したい。推します。オールタイムベスト。ちゃんと話題になった作品なので早めに配信などありそうですが、地域によってはまだ上映しているようなので、是非。
何を置いても格闘戦が凄まじく、それでいて大部分を占める緩い会話は愛着が湧くほど楽しい。全てを実現したキャストの素晴らしさを称えると同時に、完全なものはどこにも無いけど補い合ってやっていけると良いよね……みたいなことを考えたりしました。本作自体そういうストーリーでもあるのですが、「ダウナーでポップな日常会話と邦画史に残る格闘戦のメリハリ」「アクション経験の少ない俳優と演技経験の少ないスタントマンの二人が主役」「殺伐・異常で明るい作風に定評のある主監督と異常な格闘速度を実現してきたアクション監督の両立」など背景要素も色が濃い。規模の大きい映画であれば監督の分業はごく一般的なことなので、本作を見てしまった以上、阪元監督作品にはその域のクオリティを求めたくなります。嬉しいことに続編の制作が決定したそうです。スタッフの座組から注目していきたいですね。
ノマドランド
(映画/監督:クロエ・ジャオ/劇場鑑賞/原題:Nomadland)
有無を言えないオールタイムベスト。光に溢れた雄大な風景、本物のノマドを起用した存在の演技、新鮮で説得力のある展開……何もかも、あまりに良かった。ファーン、あなたは……。
"ノマド"でなく"ノマドランド"というタイトルの通りデカい空とデカい大地、朝焼けとマジックアワーがスクリーンに映える風景の映画ですが、だからこそなのか、夜の観光地で恐竜のオブジェと写真を撮るという見えづらいシーンでうっかり泣いたりしました。アメリカ大陸は広い。一人でいるには広すぎる。ファーン……。
2021年、特に上半期は本作を含め「去る者と残るもの」の映画が多かったように思います(『ヤクザと家族 The Family』『佐々木、イン、マイマイン』『くれなずめ』『砕け散るところを見せてあげる』)。もちろん私の見た範囲では、という話でしかないのですが、近いテーマの作品を勝手に相対化することで個々の特色を際立たせるというのも映画を見る遊び方の一つではあります。本作で言えばやはり圧倒的なロケーションと完璧以上を実現したキャスティング、その説得力が素晴らしかった。映画を見る大きな喜びと一人に寄り添う小さな温かさ。時が過ぎて2021年を振り返ることがあれば、この映画を見た年として思い出すのでしょう。
エターナルズ
(映画/監督:クロエ・ジャオ/劇場鑑賞/原題:Eternals)
かの有名なマーベル・シネマティック・ユニバースの一作にして、ノマドランドと同じくクロエ・ジャオ監督作品です。鑑賞時期もこちらが後となったため見るまでは今年一番の期待と不安がありました。
ノマドランドは確かに素晴らしい。とはいえ描いた物はあくまで人間ドラマであって、スーパーヒーローが世界の危機と戦う王道アクションエンタメとは方向が違う。しかも登場人物の一人は韓国の愛されアクションスター、マ・ドンソク(アメリカでの名義はドン・リー)。クロエ・ジャオ×MCU×マ・ドンソク……夢があるというより浮かされた妄想のよう。面白そうだけど大丈夫なのか。大丈夫どころではありませんでした。
多用されるマジックアワーと美しい景観下でのアクションはまさに神話の様相。役者のバックボーンを活かした多様なキャラクター造形はノマドランドにも通じるクロエ・ジャオ流。マ・ドンソク演じるギルガメッシュはまさにマ・ドンソクでギルガメッシュ。そもそも『スラムダンク』『幽遊白書』のファンを公言する監督がアクションエンタメをやれないはずがなかった。むしろやれ過ぎている。大丈夫なのか。あらゆる要素が際立った、奇蹟を見る心地の映画でした。MCUで一番好き。
サイダーのように言葉が湧き上がる
(映画/監督:イシグロキョウヘイ/劇場鑑賞)
いやー、良かったですね。めちゃめちゃ好きです。率直に嬉しい夏アニメ映画。少年少女の恋愛という潔い主題もさることながら、「郊外のイオン」「デイサービス」「動画配信」「閉店するレコード屋」など現代性も描き、それでいて暗くも重くもならないのが本当に良かった。俳句、ダギングなど個々人の趣味を主要素としながら、その是非には引っかからない自然体の距離感も好ましい。ビビットな絵柄と劇中歌・エンディングも抜群。めちゃめちゃ好き。
ドライブ・マイ・カー
(映画/監督:濱口竜介/劇場鑑賞)
ドライブ・マイ・カーの話をするのは難しいです。私が言葉を知らないというのは余裕の前提として、本作が一貫して演技の映画であるというのが文章化を困難にしているのではないか。
演劇をライフワークとする家福(演:西島秀俊)の生活と精神は、奇妙な顛末により損傷した。それでも演劇から離れずにいた家福はある芸術祭に招かれる。乗り慣れた愛車で開催地・広島を訪れた家福は一人の運転手(演:三浦透子)を紹介され……。
展開と演技の合わさった説得力に圧倒されたのだと思います。しかし言ってしまえば何事もそうですが、見ないことには何も。179分と大長編ですが可能であれば是非劇場に座ってほしい。まだ上映しているところもありますし、来年何らかの賞を獲ったあたりで拡大上映される気もします。
子連れ狼
(漫画/1970-76/原作:小池一夫 作画:小島剛夕)
そうですその子連れ狼です。Twitterの観測範囲で局所的に流行し、熱に当てられて一気に読みました。マジで凄かった。エンターテインメントはすでに完成していたんだ。
漫画の存在は知っていましたが読んだことはなく、実写の時代劇すらろくに見たことはなく、ただ「子連れの浪人」「ガトリング乳母車」「介錯人」「柳生が敵」みたいな情報だけを認識した状態で『闇武者』を笑っていたわけですが……いやマジでイメージの百倍ヤバかった。まず子連れ狼こと拝一刀が強い。めちゃくちゃ強い。腕の立つ剣客でもまず相手にならず、ネームレスの下級武士では二、三十人でも蹴散らされる始末。銃火器はおろか毒やら忍術の搦め手にも一瞬で対応。そもそも基本は一話完結なので多種多様な刺客は大体が登場回で死にます。そして乳母車に乗った大五郎の"死生観"。魔性、覚悟、根源力。正直思っても見なかったほど強い。さらには二人の敵たる柳生もまた強大にして強硬。二者の死闘で人が死ぬ! 大道芸人回と河原の鬼灯回が好きです。
アラビアの夜の種族
(小説/2001/古川日出男)
小説、読んでないですね。元々多読ではないのですが今年は両手で足りる程度しか読んでいない。流石に良くないので来年は改善したい。
去年の『ベルカ、吠えないのか』に続いて古川日出男です。文庫で全三巻。少し前に一巻だけ読んでいたのをようやく読み切りました。異常に面白かった。なんなんだ古川日出男。
アラビアの風土とダンジョンにまつわる歴史を奇想の連続で語りつつ、剣士と魔法使いが魔物を駆逐するゲーム的な熱さとウィットも強烈。最後の最後まで展開を裏切り続けるエンタメサービス精神はもはや過剰なほど。『平家物語』が行けるならこれも映像化しましょう。
装甲娘戦機
(TVアニメ/監督:元永慶太郎)
アニメはさらに見ていないので言及に緊張しますが、書きたいので書きます。
本作は「命がけの修学旅行」という公式あらすじの一文に持ち味が凝縮されていると思います。戸惑うばかりで上手くいかない傭兵生活、少しずつ深まりつつ距離感を保った仲間との関係、まさに修学旅行のような景勝地を容赦なく破壊する侵略者。どこを取っても程良い手触りがあり、もちろんロボアニメらしい外連味もふんだんに。そして第12話「世界を救う絆」のハッピーでありながら凄まじい幕切れ! 蛇足一切なし。なんと思い切った脚本。しかし「命がけの修学旅行」としては絶対に正しい。二期、あると嬉しいですね。
降幡 愛 1st Live Tour APOLLO
(ライブツアー/降幡 愛)
なんでもありなのでライブです。モチーフどころでなくSFだったので異議はありません。
特色の明確な音楽を続けている降幡さんですが、1stアルバム『Moonrise』に始まる諸々の活動において、"APOLLO"と号したライブが一つの大成であることは、事情を知らない方でも連想しやすいのではないかと思います。おそらく当初から予定されていたライブタイトルで、その創作性から大変に好き。
公理を意味するテーマソング『AXIOM』。月面に到達 した観客が降幡さんという宇宙人と出会い、音楽で交流しフラッグ(ライブグッズ)を掲げ、最後は地球に戻るというライブの構成。二つのミラーボールを星に見立てる演出。とにかく手が込んでいました。もちろん演奏は万全で、歌い踊る降幡さんは可愛らしく格好良く、音楽の満足度も抜群。以後に開催されたライブも十分に良いものでしたが、やはりコンセプトの濃さでこちらを選出します。思い返しても本当に良かった。
第2回角川武蔵野文学賞
(小説コンテスト)
なんでもありなので小説コンテストです。限度とかはない。「第2回角川武蔵野文学賞投稿作の中で私が読んだいくつかの作品」としてのカウントなので、ストーリー括りで全然アリですね。
正確には「Twitterで見かける人たちが同じテーマでそれぞれに書いた短編小説群」のことで、それがこう、勝ち負けのあるコンテストとはいえ合同誌みたいでとても良かった……という感情での選出です。"武蔵野"という地名だけをテーマに色々な書き方が現れるというのは、考えてみればやはり不思議で、同時にそれぞれの背景に思いを馳せてしまいます。個人的には設定されたテーマから話を書くことは得意でなく、コンテスト開催を見かけても見に回ることが多いのですが(ごめん……)、武蔵野には『ヨコハマ買い出し紀行』からのイメージがあったため意外とすんなり参加できました。全体を見ると規定をクリアした投稿作は半数以下というのもウケます。治安が終わっている。
noteで小説コンテストと言えばもちろん逆噴射小説大賞が名高く、私も例年通り参加したわけですが、第2回角川武蔵野文学賞はそちらとは無関係のフォロワーさんが多く参加されたことも新鮮でした。言ってしまえばガルラジの二次創作で知った方がほとんどで、だからこそ一次創作でどんなものを書くんだろうという楽しさがあった。暢気に書けるのは結果発表がまだだからです。勝つのは私ですが、どうせなら知っている名前に勝って欲しい。
以下に読んだ作品を貼ります。実のところフォロー関係にない方もいますが、たぶん2クリック圏内なので許してください。
選外・言及したい作品
ガールズ ラジオ デイズ
2021年もガルラジでした。謎のオーディオブック プラットフォーム【ListenGo-リスンゴ-】で配信された特別編はやはり唯一無二の実在表現があり、どうしても祈らずにはいられない。半面、本放送時ほどしっかり迎え撃てなかったという忸怩たる思いもあります。気合いが足りなかった。このままでは自分を許せないのでどうにかしたい。
犬は歌わない
(映画/監督:エルザ・クレムザー、レビン・ペーター/劇場鑑賞/原題:Space Dogs)
宇宙犬ライカの魂の子、モスクワの野良犬たちを追ったドキュメンタリーのような何か。何だろう。素材は確かに事実ですが人間が仕立てれば物語になってしまう。子犬が死んだり(毒餌)、猫を噛み殺したり(食べない)するので全くおすすめしませんが、そもそも今のところ配信もありません。犬は歌わない。助けてくれ古川日出男。
アナザーラウンド
(映画/監督:トマス・ビンターベア/劇場鑑賞/原題:Druk)
ベスト・マッツ・ミケルセン・エヴァーにしてラストシーン・オブ・ザ・イヤー。過去が未来を祝福する。泣いちゃう。
ただ悪より救いたまえ
(映画/監督:ホン・ウォンチャン/劇場鑑賞/原題:다만 악에서 구하소서(Deliver Us from Evil))
韓国暴力映画の結晶。東京、仁川、バンコク……殺意の追突で人が死ぬ! 『レイジング・ファイア』(ベニー・チャン×ドニー・イェン×ニコラス・ツェーによるあまりに偉大な香港映画。もはや神話)と同日公開であったため影が薄れましたが、出血量はさすが暴力映画の本場。ややこしい状況を整理して描く手腕も素晴らしかった。
以上とします。お疲れさまでした。そろそろ年が明けます。引き続きやっていきましょう。
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