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ストーリー・オブ・ザ・イヤー 2020

2020年1月1日から12月29日までに触れた作品で、特に心に残った10選を記録する記事です。

過去二年はその年に見た映画を振り返っていたのですが、今年はまとめて遊べるほど映画を見に行かず(2019:84本→2020:41本)、といって総括無しというのも落ち着かないので、趣向を変えて広くストーリー=創作物でやることにしました。こちらの記事の真似です。

間口を広げつつ本数を絞ることで書きやすくなるという寸法だ。レギュレーションも丸パクリしつつ、何でもありな感じでやります。

ストーリー・オブ・ザ・イヤー
・年間でもっとも良かった作品を10本挙げ、記録として残しておく
・ランキング形式ではない
・その年の作品という縛りではなく過去の作品で今年見たものでもOK

説明は以上です。よろしくお願いします。

ストーリー・オブ・ザ・イヤー 2020

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

(映画/2019/監督 グレタ・ガーウィグ/劇場鑑賞)
映画見てねえとか言いつつ映画です。半減してなお本数でも時間単位でも一番触れた娯楽なので、これも仕方がないですね。
良い映画には良い背中が映る、という説があります。『マッドマックス 怒りのデスロード』の冒頭、荒野で立ちションをするマックス。『ダークナイト』で言えば街角に立つ一人の銀行強盗とマントをはためかせ疾走するヒーロー。『スパイダーマン:スパイダーバース』なら、並び立つ五人のスパイダーマン。思い付きで書き始めましたが結構通るかもしれない。ひょっとして本当にある説ですか?
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の開幕0秒、扉の前に立つ主人公ジョーの背中と呼吸音はその演出の極限です。充満する傑作の気配。そしてそこから始まる夢を追う作家の物語、その家族の物語、女たちと男たちそれぞれの愛とプライドと殺し合い。安っぽい邦題に引かないで見てください(原題:Little Women)(私はしょうもなくなりがちな邦題を侮蔑していますが、端的すぎる英語圏のネーミングにも問題があると思っています)。
映画に点数やランクを付けることは基本的にしないのですが、2020年ベストの映画を聞かれたらこれか次のタイトルです。見て。

メランコリック

(映画/2018/監督 田中征爾/劇場鑑賞作)
快作です。「成り行きで働き始めた銭湯が裏社会の掃除屋だった(血は流せるし遺体も焼けるので便利)」というあらすじから面白く、全く失速しない展開の楽しさと人物描写の味がさらに素晴らしい。緩慢な風呂掃除と穏やかな恋愛があり、小気味良い格闘と殺人がシームレスに起こる、表裏一体の死生。見て。

紙魚はまだ死なない

(小説/cydonianbanana・ソルト佐藤・皆月蒼葉・murashit・笹帽子・鴻上怜)
リフロー型電子書籍化不可能小説合同誌です。リフロー型電子書籍化不可能小説合同誌?

※リフロー型電子書籍:表示するデバイスの画面サイズや文字サイズ設定に合わせて、流動的なレイアウトで表示する電子書籍

Twitterで偶然見かけて本当に何も知らずに購入しました。マジでめちゃくちゃ面白かった。今年一番の衝撃。天才の仕掛けすぎて具体的な感想が書けない。電子書籍化できない小説という制約からこれほど飛躍した表現が生まれるのか。サンプルだけでどのくらい伝わるのか分かりませんが、在庫なしとのことなので買えません。誰かに貸したい。再販してください。

ベルカ、吠えないのか?

(小説/2005/古川日出男)
読みたいと思いつつ後回しになっていたんですがようやく手をつけられました。ちょっと参っちゃうぐらい面白かったです。引き込まれる語りといい連綿たる想像力といい、どうしてこんなにも……。"一九六三年から一九八九年"のノリノリなとんちきと情緒が特に好きです。

 一九七五年、ではもう一頭のイヌ、北緯二十度の雄犬だ。メキシコ・シティのカブロンだ。このイヌは一人の分身を持つ。それは人間であると同時に、イヌでもある。いや、素顔を覆ったときにだけ、その人物はイヌ=人間と化す。すなわち一人/一頭の分身に。年齢は三十歳、名前は怪犬仮面。それはリング・ネームだ。怪犬仮面はルチャドールだ。 「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男 "一九六三年から一九八九年" p283

セント・メリーのリボン

(小説/1996/ 稲見一良)
短編集。『麦畑のミッション』の簡潔さと深い感動の両立で完全にやられました。切り詰められた文章と丹念な心の動作、そして力強い物語。率直な感想としてこういうものが書きたい。読んだきっかけはこちら。

宙に参る

(漫画/肋骨凹介)
いま一番好きな漫画です。計り知れないほど知的な本格SFでありながら、こちらを置いてけぼりにはしない軽妙な生活描写が大好き。緻密さ・見やすさ・可愛さを兼ね備えたタッチも良い。既刊1巻。リンク先で読めますので是非に。

ユートピアをさがして

(楽曲・MV/学園祭学園)
ちょっと一息つきましょう。バンド 学園祭学園が一月に出した新曲です。作詞:青木佑磨らしい明るい寂寥感が愛おしく、歌唱を支える分厚いコーラスが熱い。

キャラバンは進む いびつなユートピアを素通りして 有象無象になり損ねた 名前を持たぬ者たちよ
三段式ロケットで 切り離された君をさがしてる 地球儀の端で出会えたら まず何を話そうか

旅行行きたいですね。一人でも友達とでも。

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

(TVアニメ/監督 河村智之、アニメーション制作 サンライズ)
最終話まで見ました。いやー、良かったですね。アニメは映画よりさらに数をこなしていないのでこの項は緊張感があるんですが、10選に入れないのは嘘だろうという事で書きます。そのくらい楽しかった。
ラブライブ!という超巨大コンテンツの最新アニメシリーズであり、時に外伝作とも言われる本作は、すでに広く言われていることでもありますが、既存の概念に対する鮮やかなカウンター/再解釈を見せてくれました。
スポ根ものとしても語られる過去二作の伝説、特に先代のサンシャイン!!が宗教的モチーフを取り入れつつ死と復活を描いた(独自研究)ことに対して、一人一人の人間が「スクールアイドル」と「ファン」にどう向き合い、どう手を取り合うかを描く本作は実に現代的です。このあたりは過去作に対する位置だけでなく、アニメ化予定のなかったプロジェクト発足や全然出なかったソシャゲを原作とする弊害で、散漫になっていたキャラクター設定を再構築したことにも言えると思います。
毎話のクライマックスをライブシーンに持ち込む展開も実に巧み。東京ビッグサイト学園やユニコーンガンダムというシリーズらしいイカレっぷりも手抜かりなく組み込み、しかもそれらを物語の要素として活用する手腕も併せて、素材がある程度見えているからこそプロの仕事を堪能できました。山場になるライブも(これは真っすぐにCG技術の向上もあって)素晴らしかった。

Ai Furihata "Trip to ORIGIN"

(ライブイベント/降幡 愛)
便宜的にライブタイトルを見出しにしましたが、声優 降幡愛さんによる一連のアーティスト活動の話をしたいだけです。しました。作品なのだから良いじゃない。

楽曲について語る記事が増えてきたのも嬉しく、勉強になります。

あとこっちは12月に発売された新曲です。

ガールズ ラジオ デイズ

本編の配信は2019年の2ndシーズンで一旦終了したガルラジですが、2020年もガルラジでした。1月には「富士川ナンバー1記念イベント」、2月にEXPASA富士川を中心としたリアルイベント「2020大感謝祭」とスタンプラリー、8月には一挙放送「超ガルラジ」と特別編の告知があり、12月には新作グッズ。この間、絶えることなく続いた公式Twitterの更新。経過はこちらにまとめられています。何度でも読みたい。

新作の公開こそ来年に延期されましたが、これはつまり2021年もガルラジということです。なにしろガルラジ世界ではこちらと同じ流行病が蔓延し、学生組が学校に行けなかったりしているので……。

リアルタイムで展開する物語である以上必然性はあるんですが、今のところここまで取り入れる作品は自分の知る限り見当たらないので、やっぱりすごいことをするな……と再認識する日々です。延期は仕方がないとして、早く公開して蓄積された問題を解消してほしいとも思います。
非公式な関わり方としては、初めて同人誌を出したり、合同誌に参加したり、ガルラジアドベントカレンダーに参加したり、エアオンリーに参加を表明しておきながら手も足も出せなかったりしました。反省しております。

選外

10選は10選として、言及したい選外です。

チェンソーマン(漫画/藤本タツキ)
尋常じゃなく面白いのですが、9巻までしか読んでいないので……オブ・ザ・イヤー 2021に入れます。

心霊マスターテープ(TVドラマ/監督 寺内康太郎/配信で視聴)
心霊ドキュメンタリー製作スタッフのアベンジャーズです。ジャンルについては全然詳しくなくて「心霊×カルト×アウトロー」の谷口監督しか存じ上げないのですが、そんなこと全然関係なくチョー面白いです。シーズン2も折を見て。

大納言、窃盗団、一途な愛(小説/ゆめくらげ)

今年一番刺さったnote小説。僕はゆめくらげさんのファンです。

 映画
再生産総集編「少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド」(監督 古川知宏/劇場鑑賞)
既存シリーズの劇場版や最新作だけを何も調べずに見るという悪癖があり、面白さを理解するまでのタイムアタックになるので本当に良くない(楽しい)のですが、本作にはクリーンヒットを食らいました。一本の映画として面白く、しかも全然分からないという奇跡のバランス。

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ(2019/監督 ジョー・タルボット/劇場鑑賞)
完璧なタイトル。低い倫理。確かな友情。大きなテーマを扱いながら説教臭くはならず、エンタメな展開は乏しいのに退屈させない。

ホワイト・ストーム(2019/監督 ハーマン・ヤウ/劇場鑑賞)
ルイス・クーが汚く笑う。アンディ・ラウが怒り狂う。人と車が宙に舞う。アカデミー憤怒賞。

闇武者(2004/監督 OZAWA)
今年一番笑った映画です。OZAWA(小沢仁志)監督は天才。映画枠でいいのかは不明。

ゆきゆきて、神軍(1987/監督 原一男/劇場鑑賞)
昭和天皇にパチンコ玉を撃ったアナーキスト・奥崎謙三が、ニューギニア撤退時に処刑された二人の兵士の親族と共に当時の上官を訪ねる……。こんなに面白い映画アリなんですか。本物は凄い。

落下の王国(2006/監督 ターセム・シン)
落下の王国だ!となる終盤が大好き。終始美しい画面も冴えている。衣装の鮮やかさが刺さりすぎて石岡瑛子展も行きました。

ハンター(2011/監督 ダニエル・ネットハイム)
発見されてしまった絶滅動物を狩り求め、雪山を進むウィレム・デフォー。これはもう好みとしか言いようがない。最小限の登場人物、乾いた展開と温かみ。

THE CROSSING ~香港と大陸をまたぐ少女~(2018/バイ・シュエ)
原題:過春天。大陸と香港の越境学生を主人公に置きながら、描くのは普通の若者のありふれた願望。手軽な犯罪、他愛もない過ち。生活の空気を切り取ったような良さがある。洒脱な音楽との振り幅も楽しい。唐突に入る検閲らしき注釈。

未来へ

改めて見返すまでもなく、Twitterやらnoteやらでフォローしている人をきっかけに触れる作品がとても多い年でした。もっと自分で掘りたい気持ちもありますが、タイムラインの形成に成功しているからこその結果なので、特に姿勢を変更する必要はないなというところです。引き続きやっていきましょう。お疲れさまでした。

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