最適解連発! 超効率的攻略プレイ映画『ハンターキラー 潜航せよ』
潜水艦映画。君はこの言葉にどんなイメージを抱くだろう。
閉塞感、人間関係の歪み、息詰まる心理戦、兵士たちの悲壮な覚悟、戦争の無情、隔壁の向こうに取り残される仲間、なんか暗い画面、根拠のよくわからない勝敗、ろくに見えないので良いとも悪いとも言い難いCG……『ハンターキラー 潜航せよ』にこれらの要素は存在しない。物語を進める上で邪魔だからだ。
(あらすじ)
ロシア近海で米軍原子力潜水艦が消息を絶った。米軍は空路から極秘偵察部隊を、海路からはジョー・グラス艦長(ジェラルド・バトラー)率いる原子力潜水艦"アーカンソー"を送り込み、事態の究明を図る。第三次大戦の勃発を回避するために――。
超効率的攻略プレイ映画
『ハンターキラー 潜航せよ』にじめじめした悲劇や郷愁的な別れ、苦悩を人に告白する悠長なシーンなどはない。そんな暇はない。事態はどんどん進行し、序盤からもりもり船が沈み、どしどし人が死んでいく。
一歩間違えば米露間の第三次大戦が勃発……などの憂慮を口にしておきながら両軍ともに引き金が軽く、撃つか撃たないかという葛藤もない。問題は、生きるか死ぬか、先制か反撃か。敵艦を撃沈した後になってから艦内と劇場内に「これもう戦争なのでは?」という微妙な空気が漂ったりするが、それでも物語は止まらない。というか主人公ジョー・グラス艦長が止まらない。何がトロッコ問題だバカバカしい。
原子力潜水艦"アーカンソー"には無謀な命令が下され、次々と難局が襲い――そして即断即決に生きる海の男、ジョー・グラス艦長が迷うことなく最適解で突破していく。『ハンターキラー 潜航せよ』の特異性はこの遊び尽くしたゲームをいかに効率よく攻略できるか、を試すような主人公のクソ度胸判断力にある。
敵艦と出会えば攻撃を回避し、こちらの攻撃は必中。航行困難な警戒網にも怯まず、常識に囚われない判断を即座に下し続ける。
機関士からの叩き上げであるジョー・グラス艦長が知り尽くした船と船員の能力、卓越した戦術判断により事態を解決していく序盤はまだ穏当だ。しかし中盤以降、ジョー・グラス艦長は直感としか思えない判断で軍法違反を犯し(マジで根拠が描写されない)、部下の提案を退け、最終盤に至っては次の瞬間に何が起こるかを理解しているかのような行動をとる。
中盤だけならまだ「人間への信頼」に理由を求められるが、終盤の方は「その場で一番度胸が必要な選択をした」としか言いようがない。本人も判断の根拠を語らない。人が効率よく問題を解決していく様を見るのは気持ちが良いものだが、いくらなんでも……。
「それってつまりご都合主義では?」とか「洋画にありがちな天啓とか神のご加護とかそういうあれな」などと思うかもしれない。しかし筆者の受けた印象は違う。本作においてジョー・グラス艦長がどれほど天才的な采配を実現しようと褒め称えられることは全くなく、かつ彼を原因としたトラブルは起こらないからだ。
なんか怒ってた上層部から見直される、反抗的だった部下が態度を改める、敵に実力を認められる、主人公が神に感謝する……とにかく本作にはそんなことに割く暇もない。主人公の動機も、家族関係も、今の立場にある理由すらろくに説明されない。ジョー・グラス艦長は最適解を出し続けるが、彼にとって都合のいい展開は何一つ起こらない。
実際のところ、ジョー・グラス艦長の判断が裏目に出る場面もある。しかし全く偶発的な展開であり、艦長の判断ミスという形では描かれず誰かに責められることもない。まるで攻略に必要なフラグをやむなく処理したという程度の扱いで、物語の都合に合わせて彼の能力が低下するということは一切ない。
動機も根拠も提示されないままひたすら最適解を出し続け、そのことに感慨を抱かない主人公。はっきり言って、演じるジェラルド・バトラーの存在感がなければプロフェッショナルを通り越して不気味な存在に見えていたはずだ。そのくらい人知を超えた判断が立て続けに繰り出される。
だがそもそも……考えてみれば一発の魚雷、一瞬の判断ミスで即全滅になる潜水艦において、手際よく最適解を出し続けることが生き残るための最善策であることは明確な事実なのだ。湿っぽさを削りに削ってすべての時間をエンターテインメントに振った潜水艦映画に、効率を極めた攻略プレイ動画を見るような爽快感と軽く引く感覚が残ったことは必然なのかもしれない。
一貫して娯楽作品であり飛び抜けて出来が良いということもないが(俺はミリタリーのことをよく知らない)、肩の力を抜いて観れば退屈はしないはずだ。「おー、なんかすげー」。『ハンターキラー 潜航せよ』なんて題名の映画にその感覚以上の何を求めようというのか。倫理など気にするな。お前はお前の直感だけを信じ、その責任を引き受けろ。以上です。
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