努力と成長に関する数学的考察 その5
努力と成長の関係を、無理やり数学的に説明するシリーズまさかの第5弾です。
このまま行くと本1冊書きそうな勢いなので、今回でこの考察は最終回にします。
前回の記事は、こちらからどうぞ。
成長と努力のロジスティック曲線は、次のように表すことができました。
y = K/{1+α exp(−rx)}
1. 平衡点の安定性について
グラフを見て分かるように、ロジスティック曲線は、Y→0 と Y→K のときが平衡状態になります。
ロジスティック方程式は、次のように表されました。
dY/dt = rY(1−Y/K)
これをもとに平衡点の安定性を考えてみると、Y→0 のときは不安定ですが、Y→K のときには安定になります。
点対称のグラフですが、平衡状態から微小量ずれたときの挙動は正反対です。
ということは、今自分がもし 0 の地点にいるのだとすれば、とにかくまずは一歩踏み出してみればいいということになります。
とりあえずやってみれば、少しずつでも成長できるということです。
逆に、限界値まで達してしまった場合、そのまま努力を続けても、必死にあがいても Y=K の位置まで引き戻されます。
限界を引き上げるため、環境を変えたり、やり方を抜本的に変えたりする工夫が求められると言えそうです。
2. イノベーター理論は間違ってる
マーケティング界隈でよく使われる、ロジャースのイノベーター理論というものがあります。
これは、新製品の購入者の分布を、購入時期によって並べたものです。
イノベーター理論を調べてみると、多くのサイトで次のように説明されています。
ざっくりまとめるとこんな感じ。
イノベーター理論では、購入者を5つに分類し、順に、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードと呼ぶ。
それぞれの割合は、およそ2.5%、13.5%、34%、34%、16%になる。
イノベーターとアーリーアダプターを足した、市場普及率16%のところに容易には超えられない壁があって、これをキャズムの谷と言う。
この溝を越えれば、多数派(マジョリティ)に一気に普及するため、新製品のマーケティングは、皆この16%を超えることを目標のひとつとするのが重要である。
この理論は非常に有名ですが、購入者の分類のパーセンテージに合理的な理由が見つかりません。
その数字を見る限り、おそらく正規分布(ガウス分布)の標準偏差に基づいています。
実際、多くのサイトでそういう説明をされています。
しかし、正規分布というのは、偶然誤差を考慮した確率分布です。
つまり、山の頂点を平均として、そこにランダムな誤差を考えたときに、平均からどの程度ずれるかを表した確率分布です。
ですから、統計学的な意味を考えると、製品の普及率を考えるのに適用できるモデルとは言いがたいのです。
確かにその累積密度関数は、誤差関数を含むシグモイド関数になりますが、その統計学的な意味を考えると、普及曲線として扱える合理的な理由は一切ありません。
やはり、ここでもロジスティック関数を適用する方が正しい気がします。
ロジスティック関数を累積分布関数とした場合、確率密度関数は次のようになります。
理論的に考えれば、イノベーター理論は青い方の曲線で考えないとおかしいです。
つまり、実際の新製品の普及は、いわゆるイノベーター理論よりも初期の普及率が低く、しかし、一度マジョリティの誰かに受け入れられれば、急激に普及が進むと考えられます。
マクロな変化として連続的な関数を考えているので、「キャズムの谷」的なものが何%のところに存在するのか、そもそも存在するのは分かりません。
以上、この1週間、ロジスティック関数だけでいろいろなことを考察してみました。
こんなに話が膨らむとは思っていませんでした。
やはり、シンプルで美しい数式は飽きないですね。
こういう汎用性が高い理論を面白いと思ってしまうところが、なんだかんだ理系学部出身なんだなと改めて思いました。
ここまでお付き合いありがとうございました。