青年座第242回公演「ズベズダ-荒野より宙へ-」映像配信感想


配信で観劇しました。
いや~~~ほんと…見たかったなあ劇場で!
コロナ落ち着きつつあるんですが、地元ではまだまだちらほら出ており、仕事的にもちょっと今都会に出るわけにはいかなくて…。
2022年の公演情報も続々と出てきている中、正直なところ焦燥感があります。

青年座HP
http://seinenza.com/performance/public/242_2.html

☆あらすじ
時はWW2終結後。アメリカとの冷戦に突入したソ連は、捕虜として手に入れたドイツ人科学者たちの頭脳と兵器を存分に使って軍事兵器の開発に力を入れていた。
スターリンによる恐怖政治の中で、粛清を生き延びたソ連の科学者たちはさらなる技術の発展を目指し、島に隔離されながらも生き延びたドイツ人科学者たちは祖国への思いを抱きながらも研究に没頭する。
スターリンの死によって、ソ連の風向きが恐怖政治からフルシチョフによるアメリカとの(表面上は)友好的な政治へと変わる。
そんな中でも、科学者たちの瞳に映るのはただ、自分たちの科学技術の結晶たちだけだった---。

☆脚本・野木萌黄さん
ちょくちょくツイートしたりラジオトークで話したりしてますが、私は野木さんの脚本が好きでして。
幼少期から親の影響で小中規模の演劇などを見る機会が並よりはあったのですが、
私は高校生時代に見た「12人の怒れる男たち」が今でも忘れられないんです。
キャストのみなさんは、たしかプロの方はいらっしゃらなくて、セミプロの方が数人とほかはみんなアマチュアの方たちだったと思うんですが、
若くても30代後半、ほとんどが50・60代の男性陣だったんです。
衝撃でしたねぇ。
年を重ねないとできない表現っていうのがあると思ってます。
「若造にはできない」と言いますか。
これから先「12人」を見る機会があると思うんですが、たぶん忘れられないしもしかしたら超えられないかもしれません。

私は2.5次元作品も見ますし、こないだなんて「DUNE砂の惑星」の主演ティモシー・シャラメの顔が好みすぎて前半15分くらい内容が頭に入ってこないくらいには美青年を見るのが好きですが、
ただやっぱりどうしても、どこか汗や脂や、血肉の臭いがただよう、タバコや安い酒の似合う男たちが、ああでもないこうでもないと、自分の欲求とプライドのためにのたうち回るのを見るのも好きなんです。
野木さんの脚本には「そういうのが見たい」という野木さん自身のまなざしが現れていると感じます。
そして私も見たいんです。そういうのが。

☆オンナのいない舞台
今回の「ズベズダ」もまさにそういうところで。
パラドックス定数としての作品よりはそういう泥臭さは薄めな気もしますが
(とは言っても野木さんの全部の作品の戯曲を読んでいるわけではないのでわかりませんが)
やはり、一人一人の野望というか、プライドというか、そういうものがあってよかったです。
野木さんの戯曲にはほとんど女の人が出てきません。
今回の「ズベズダ」には女性は出てくるんですが、
「オンナ」の役割はほとんどありませんでした。
(ラブロマンス担当、愛の象徴、差別の対象、など)
どちらかというと、若さや気の強さを担当していた役だなあと思います。
なので、「ズベズダ」も男らしさ全開の作品だったなと。

☆男らしさとはなんだろう
「男らしさ」と書きましたが、男らしさにもいろいろ種類がありますよね。
外面的・内面的でも分かれますが、そこからも、たとえばイケメンとハンサムとダンディは違いますし、
「紳士的」という言葉にもそれぞれ人によって意味が異なったりします。
今回の「ズベズダ」では、それぞれに違った「男らしさ」を持った人達が描かれたなあと思いました。
また、その「男らしさ」をしっかりと持って舞台上に立ってらっしゃる俳優さんたちはやっぱりすごいなあと。
セリフでいうと難しい科学のセリフが多いので、最初はそこが大変なのでしょうけども、
それぞれの役の「男らしさ」をはっきり各々魅せるのはきっと、俳優さんたちと演出の腕の見せ所なんでしょうね。
いやあ生で見たかったです。

☆ウィズ・コロナとデジタル配信
生で見たかった理由としてどうしても外せないのは、やっぱりデジタル配信の大変さかと。
カメラワークもそうですが、今回配信に先立って著作権関連で一部音声差し替えがあり、配信が遅れ、音声も若干質が落ちるなど、正直言うと他のエンタメ界隈に遅れを取っているなあと思いました。
今後、このコロナ禍がどうなっていくか、ウィズ・コロナとはどうあるべきなのか分かりませんし、
今回の配信がどのくらいの利益になっているのか、あるいは赤字なのか分かりませんので、
なんとも言えないところですが、
配信での観劇に慣れを感じている観客も多い今、もう少しクオリティの高い音響やカメラワークへの期待は高まっていると思います。
生観劇の良さを配信で伝えることは、私は不可能だと思っています。
ただ、あの心揺さぶられる空間に「限りなく近づけること」や、「生観劇とは異なる魅力」を提供できると思います。
プロだからこそ、歴史のある劇団だからこそ、期待してしまいます。
舞台芸術が生き残るために、映像配信のクオリティの向上や個性を利用した工夫が必要だと思っています。

☆ユーリィ・ガガーリン
私は世界史も科学も戦後史も苦手なので、正直なところ「スターリン」と「ユーリィ・ガガーリン」しかピンとくる人がいませんでした。不勉強でお恥ずかしい。
今回の「ズベズダ」で、興味がぐんと湧きましたのでちょっとずつ本を漁っているところです。
大人になってからのほうが自由研究に燃えるタイプ。
野木さんは史実を扱いつつフィクションを織り交ぜて書く脚本が多いのですが、
この「ズベズダ」も、小説家でいうなら司馬遼太郎並にカッコよくなっちゃってますね?もしや
ユーリィ・ガガーリンは、人類初の宇宙旅行、そして帰還から人生が一変してしまったそうです。
そりゃそうですよね。
悲しいことにパイロットとしての確かな腕や誇りは、地球に帰還した後には役立てることができなかったようですね。
アルコール中毒や不倫などなど・・・。
科学者たちがあれだけ「生還」を目指していたのに、「生還」したのちに待っているのは歓声と金銭だけ。
政治に翻弄され、飼い殺しにされてしまった。
私はそう感じました。
ただ、私は彼の人柄の良いエピソードの数々に嬉しくなってしまいました。
実は私、彼と同じ3月9日が誕生日なんです。
(血液型占いや手相占いは信じない質なのに、誕生日占いだけは信じてしまう人間です)
彼の人生がこれでよかったのかは分かりませんが、
きっと彼は宇宙飛行士としての自分を誇りに思っているでしょうし、後悔はきっとないと思います。
そう思いたいです。
なぜなら、彼が宇宙を旅した数時間は、科学者たちの血と汗と涙の上に成り立っているからです。

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