峰尾健一

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    ノンフィクション書評サイトHONZ(2011−2024)のアーカイブ

最近の記事

『あなたがあの曲を好きなわけ 「音楽の好み」がわかる七つの要素』「好みの違い」はこわくない

音楽は好きでも、音楽の話をするのはわりと苦手だったりする。 自分が微妙だと思うアーティストを好きと言われたら返答に困るし、一見好みが近いように見えても実は「良い」と感じているポイントが全然違って噛み合わないこともある。 同じ曲を聴いても、人によってなぜこれほど感じ方が異なるのか。自分が大好きな曲があの人の琴線には触れず、あの人が最高だと言う曲はなんだかピンとこない理由はどこにあるのか。そんな謎を解くヒントを授けてくれたのが本書である。 聴き方の違いとしてときどき目にする

    • その「絶好調」は、ただの勘違い?『科学は「ツキ」を証明できるか――「ホットハンド」をめぐる大論争』

      シュートが連続で何本も決まる。賭け事で勝ちが続く。名案が次々と浮かんでくる。そんな「ツイている」「波に乗っている」状況は、誰しも身に覚えがあるだろう。 ひとつの成功がさらなる成功を呼び込む。そんな神がかった状態は「ホットハンド」と呼ばれる。この絶好調な感覚が本物であることを、統計的に証明しようとする試みがあった。 ホットハンドは実在するのか。この謎にまつわる人々の物語、研究の動向を「ウォール・ストリート・ジャーナル」でバスケットボール担当記者としてNBA取材の経験も豊富な

      • 『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』身近なわりに知らない、その奥深さ

        本は買った時がいちばん楽しい。半分本気でそう思っている。「本末転倒」「著者に失礼」とお叱りを受けそうだが、そもそも買う楽しさと読む楽しさは別物だったりする。 装丁に目をひかれ、パラパラと目を通して「これは買いだ」と確信。それを何度か繰り返し、店を出て「こんどの休日に読もう」とニヤニヤするところまでがピークだ。慌ただしい日々の中で、「週末のたのしみ」は気づけば「積読」へと姿を変えている。 ネットで気になり速攻で注文した本も、いざ届いた日にさっそく読み始めることの方が少ない。

        • 『アメリカン・プリズン──潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』「更生より収益性」の原理が支配する民営刑務所の実態

          カリフォルニア州矯正局は先日、8月末までに約8,000人の服役囚を釈放すると発表した。理由は言うまでもない。世界の囚人数のうち約4分の1を収容するアメリカでは、刑務所内での感染拡大が深刻な問題になっている。考えてみれば「密」を避けるうえでこれほどハードルが高い場所もないかもしれない。同州では2月以降すでに約10,000人が解放されている。 いくら手に負えないとはいえ、そこまでするのかと思った人もいるだろう。だが本書を読んだ身からすると、起こるべくして起こった事態との印象が強

        • 『あなたがあの曲を好きなわけ 「音楽の好み」がわかる七つの要素』「好みの違い」はこわくない

        • その「絶好調」は、ただの勘違い?『科学は「ツキ」を証明できるか――「ホットハンド」をめぐる大論争』

        • 『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』身近なわりに知らない、その奥深さ

        • 『アメリカン・プリズン──潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』「更生より収益性」の原理が支配する民営刑務所の実態

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          『絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか』経済学が自分ごとに変わる本

          2019年ノーベル経済学賞受賞者が、移民、経済成長、気候変動、経済格差などの大きくて複雑な社会問題について切り込んでいく一冊だ。 経済学って小難しくてとっつきづらい。人の心理を単純化しすぎで、実感が湧かない。そもそも経済学って、どれほど世の中の役に立つのか? そんな疑問を持つ人も、一度手に取ってみてほしい。さわりを読むだけでも、よくある経済学の入門書とは様子が違うことがわかるはずだ。 第1章は「経済学が信頼を取り戻すために」。この導入だけでも、一風変わった経済学本であるこ

          『絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか』経済学が自分ごとに変わる本

          戦後初の「甲子園がない年」……だからこそいま考えたい『野球と暴力』

          夏の甲子園中止が決まり、今年は戦後初めて「甲子園のない年」になることが決定した。誰がどんな言葉をかけようと、選手たちの無念、悔しさが晴れるはずがないのは言うまでもない。野球に限らず、さまざまなスポーツで集大成の場が失われてしまった。 県単位で夏の大会の開催を模索する動きは出てきている。緊急事態宣言解除を受け、当面は無観客試合ながらプロ野球の開幕日も発表された。野球に限らず、少しずついろいろなことが戻っていくこれからの期間で、これまでなんとなく続いてきた体質まで元どおりになっ

          戦後初の「甲子園がない年」……だからこそいま考えたい『野球と暴力』

          『旅のつばくろ』道中だけが旅じゃない

          二週間前はまだ連休だったことが信じられない。どこにも出かけないGWはあまりにも一瞬すぎて、何をしていたのか早くも記憶がなくなっている。巣ごもり生活にもすっかり慣れ、むしろ快適に感じるくらいだ。これから自粛が解かれていったとしても、しばらくは遠出なしで平気だとけっこう本気で思っている。 本書を読んで、そんな気持ちが変わってきた。日頃の外出は減るとしても、やっぱりたまには遠くまで足を伸ばしたいと今は思う。「外出できない時は家で旅気分を」みたいな話はあまり響かなかった人も、この本

          『旅のつばくろ』道中だけが旅じゃない

          『野球消滅』「メジャー」が「マイナー」へと変わる時、何が起きているのか

          日曜日に決勝が行われた野球の世界大会「プレミア12」は、ライバル韓国を下した日本の優勝で幕を閉じた。いよいよ本格的にオフシーズンが始まる。夏の甲子園期間に刊行された本書にもうひとつ読みどきがあるとしたら、まさにこの総括の時期がふさわしいといえるだろう。 「プレミア12」での侍ジャパンの戦いぶりは、言うまでもなくすばらしかった。辞退者やケガによる離脱で必ずしも最強メンバーとはいえない布陣ながら、要所で打線が奮起。投げてもリリーフ陣を中心に、最後まで崩れることなくゲームを展開し

          『野球消滅』「メジャー」が「マイナー」へと変わる時、何が起きているのか

          『習慣の力〔新版〕』変えるためのコツは、意外とシンプル

           自分でコントロールしていくものか。やむをえず染みついてしまうものか。 習慣ときいてまずイメージするのは後者だ。飲酒に喫煙、浪費癖。ちょっとした空き時間とか退屈を感じた時にまずスマホ、みたいなのもそのひとつだろう。後からいかんと思いつつも、ときにはほぼ無意識のうちにやってしまう習慣の数々。自分自身、いちいち思い返したくないくらい心当たりがある。 かといってただ我慢すると反動がくることも。すぐ読むもの以外買わない生活を続けようとしたものの、気づけばAmazonプライムデーの

          『習慣の力〔新版〕』変えるためのコツは、意外とシンプル

          『食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ』躍動感あふれる創造の歴史

          白人によって作り上げられた「ファストフード帝国」。画一化されていて正直面白みに欠ける反面、汎用性の高さゆえに世界中至るところへ浸透している。恥ずかしながら、本書を読む前に「アメリカの食文化」としてまず思い浮かぶのはこの印象だった。 しかしその原点にまで遡っていくと、まったく異なる景色が見えてくる。元をたどればそこには画一化とはほど遠い多様さがあり、また必ずしも白人たちが主役だったわけでもない。 アメリカを代表するとされる食べ物の中には、実は非西洋にルーツを持っている例が少

          『食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ』躍動感あふれる創造の歴史

          『数学者が検証! アルゴリズムはどれほど人を支配しているのか? ~あなたを分析し、操作するブラックボックスの真実』正しく付き合うために、知っておくべきこと

          「Facebookがあなたについて知っていること」。そう検索してみると、似たような趣旨のタイトルがいくつもヒットする。「あなたのすべてを知っている」、「隠しているはずのことまで知っている」、「気づかないうちに追跡されている」。確かに気味の悪い話だが、では実際のところ、私たちは「どれほど」アルゴリズムに支配されているのか?  数学者である著者は、さまざまな研究に当たりつつ、時に自らの手でも検証しながら、センセーショナルな見出しからは見えてこない現状について調べていく。本書はそ

          『数学者が検証! アルゴリズムはどれほど人を支配しているのか? ~あなたを分析し、操作するブラックボックスの真実』正しく付き合うために、知っておくべきこと

          『生命科学クライシス─新薬開発の危ない現場』着実に進むために、急がば回れ

          「科学が正道を踏み外すさまざまなパターン」について迫る1冊だ。生命科学の歩みは決して止まってはいないが、無駄な努力のせいで進展は遅れている。単に時間や税金を無駄にしているだけでなく、人を欺く基礎研究の研究結果が、病気の治療法の探索を実際に遅らせているのだ。「人を欺く」と聞いてまず思い浮かぶのは研究不正の問題だが、ないものを「ある」ように見せるため故意に手を加えるような、明白なケース以外にも問題はあふれている。 科学ジャーナリストである著者が本書で焦点を当てるのは「再現性」の

          『生命科学クライシス─新薬開発の危ない現場』着実に進むために、急がば回れ

          『生き残る判断 生き残れない行動』知識も準備も経験も、危機を察知できてこそ活きる

          災害・テロ・事件・事故。もしもの時の、とっさの判断が本書のテーマである。有事に何をすべきかを並べたマニュアル的な内容ではない。なぜ、人は非常時に誤った判断をしてしまうのか。その背景には、人がそもそも持っている、どのような思考のクセが影響しているのか。そんな根本から考えていくスタンスが特徴だ。さまざまな惨事から生き延びた人々へのインタビューに加え、社会学者、心理学者、脳科学者、神経科医、テロ対策専門家、警察官、消防士など幅広く意見を求めて得た知見を、まったく他人事に思えないエピ

          『生き残る判断 生き残れない行動』知識も準備も経験も、危機を察知できてこそ活きる

          『万引き依存症』ダメだとわかっていても、やめられない

          物を買うお金がない、10代の子どもの非行の入り口、転売目的のプロによる犯行、認知症の影響……。そんなありふれたイメージとは違った角度から万引きについて書かれた一冊だ。 なぜやったのか、常に分かりやすい動機があるとは限らない。周囲から真面目な人だと言われている。経済的に困っているわけでもない。にもかかわらず、繰り返し万引きに手を染める人々が一部に存在する。そのことをどう理解すればいいのだろうか。 本書はそこに「依存症としての万引き」という視点を持ち込む。そもそも、「万引き行

          『万引き依存症』ダメだとわかっていても、やめられない

          『どもる体』読む人の「しゃべる」を引き出す、触媒のような本

          こんなエピソードがカバーの折り返しに書かれていて思わずそそられる。さらに謎めいた表紙のイラストや「しゃべれるほうが変。」というコピーも合わさって、不思議な雰囲気が醸し出されている。 本の体裁にもよく表れているように、吃音はどこか謎めいた現象である。今から100年以上前の日本でも、吃音をいかに直すかの試行錯誤がなされていた(その動きは現在よりも活発だった)そうだ。しかし今日に至るまで「治るのか治らないのか」について統一された意見はなく、原因が何なのかも完全には解明されていない

          『どもる体』読む人の「しゃべる」を引き出す、触媒のような本

          『コンビニ外国人』身近だけどよく知らない、ではすまされない

          もはや毎日のように顔を合わせている人たちについての話だ。地域によって差はあるものの、都市部のコンビニでは外国人スタッフの存在はすっかり当たり前になった。自宅の最寄りのコンビニともなると7割くらいが外国人店員という印象なのだが、その割に知っていることはあまりにも少ない。タイトルを見た瞬間、自然と手が伸びた。 中身はコンビニの話にとどまらない。コンビニ店員のほとんどを占める私費留学生を中心としながらも、技能実習生、その他の奨学生、さらには在留外国人全般にわたる幅広い視野で外国人

          『コンビニ外国人』身近だけどよく知らない、ではすまされない