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#小説

腐った酒の色。1

腐った酒の色。1

京都置屋生まれの26歳元バンドマンとわたしは
学部の友人に呼び出された飲み屋で出会った。

彼は 花屋と 商社と飲食店を 掛け持ちしながら
カフェの開業資金を貯めていた。

その飲食店で 同じ学部のわたしの友人と知り合い
今夜の運びとなったのだ。

初対面のその日、彼はわたしをこっぴどく馬鹿にした。その清々しいまでの こきおとされ方は衝撃だった。

あの時もう わたしは彼を好きになったのだと思

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腐った酒の色。2

腐った酒の色。2

いちのつづき

彼とわたしは、3つ目の季節を超えられなかった。

彼と1つ目の季節を超えるころ
部屋で夕食を取っていると
彼女と別れた、と聞かされた。

彼女いたの、と驚くよりもまず
そりゃそうだろうとおもった。

その一言にそんなに影響力はなかった。
わたしは変わらず まっすぐに幼い。

ただ、そんな不安定など どうでもよくなるほど
彼は最初の時よりも 強く たしかに
わたしを苛めるよう

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腐った酒の色。3

腐った酒の色。3

いち。に。のつづき

彼は1日に2つ以上の仕事をこなし
深夜になると、木屋町へ わたしを連れ歩いた。

安いテキーラと焼酎ロック。
太陽ラーメンと小沢健二エンドレスリピートのバー。

三条から五条に下るまでの ビル 上から下の
どこに美味しいものがあるか なぜ美味しいのか
仕入れだとか 前歴だとか お通しのコストとか
ヒソヒソ声で 肩を抱き寄せ 教えた。

ものすごく沢山の人に あの時 毎日会っ

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腐った酒の色。4

腐った酒の色。4

さん。のつづき

彼と話さなくなって何日も経っても、
彼とのことを終えることが出来ないでいた。

いや始まってもいない関係なのだから、
そんなものなかったと 言い張る彼の言葉の通りに
事実無い関係だったと 既成してしまえばよかった。

わたしが彼に そうしたように。

だけどあの日々と 彼のスポンジは 甘過ぎた。
もう なにを好きなのかも わからないくらい
じぶんのすべてに 彼がいてどうし

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恋と積み木。1

恋と積み木。1

初恋の最も罪深いところは
あの強烈な刷り込み力にあるとおもう。
11歳からの6年間はキャンバスの下地を塗った。

完成したその上に なんの色を重ねるも
下地の凸凹は埋めきれなかった。

恋のたびキャンバスの下地を触っては、
産まれ直せないものかと 塗りたくった。

11歳の子どもと言えば
少し小さく見えるランドセルを背負い
子ども用品では丈の合わない服を着ているが
話してみれば警戒心の薄い素直さが

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恋と積み木。3

恋と積み木。3

2/3のつづき

彼女の話に戻る。
あの2人は付き合い始めた。

わたしは心から彼女の喜びを味わい、
いよいよ自分が浮いていく。
もう目で見えるものがテレビと変わりない。

何だろうなコレ、何だわたし。

心理学系の本を手に取り始め
自分が離人症に当たるのでは と思いながら、
本を閉まった。
知ったから 何が変わるというのか。

文字は救わない。
文字が救えるものは文字の傷だけだ。
わたしは積み

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2.物語の力

2.物語の力

1・2・3・4・5・6

高2の春、花見をしないかとアサミを誘った。
地元には竜が眠るという池があって、そこでわたしの作った不細工な団子をツマミにビールを飲んだ。
小さな子どもがわたしに近づいて話しかけた。心地よく回った酔いも手伝って、わたしは優しいお姉さんのようにその子に接していた。

予想だにしないことが起きた。
突然アサミはわたしの腕を引っ張り、狂ったように叫んだのだ。

「わたしのるんばに

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4.物語の力

4.物語の力

1・2・3・4・5・6

その秋から冬のことは忘れられない。

きっと、世界を敵に抵抗した。
あの若さと情熱とエネルギーでもって、エベレストの
山頂で舞いたい一匹の蝶だった。

そして、たぶん、思い知るしかなかった。
じぶんが17歳だということを。

ここで出来る最大のことは、なんなのか。
どこまでもあのわたしは、最大出力の矛先だけを
かんがえていたんだ。



その秋からアサミから夜中にかかっ

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深夜の駅前にいた、帰宅困難者。

深夜の駅前にいた、帰宅困難者。

「あなた、この光をみて何を思うの?
わたしはね、ご飯のことばかり。」

そう話すのは30代の女性でした。小さな子どもがいるのかなとおもうような顔つきをしてして、染めていない髪を1つに縛っています。

黒いジャンパーコートのような大きな上着とジーンズ、その足元には、、、うーん、長いこと使い込んだとみられる、元の色がわからないスニーカー。

薬指の指輪に、すっぴんは童顔で、黒目がちの目だけを見れ

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