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インドのデジタル公共財India Stack:行政DXはデジタルの話じゃない

米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第21回)。

1.デジタル庁…の大前提

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーもしもし。

こんにちはー。

ーカリフォルニア、火事ひどいみたいだね。大丈夫?

連日、大ニュースになってます。
うちは現場から700kmくらい離れてるんですが、それでも毎朝空が黄色いですよ。

ーうわー。大変だね。気を付けて!

ありがとうございます。
日本はなんだか、デジタル庁?で盛り上がってますね。

ーそうね。
これまでも政府はデジタル化の推進とか、マイナンバーカード普及とか掲げてきたけどねえ…

個人的には、日本の公共のDX(デジタルトランスフォーメーション)って、サプライサイドの議論ばっかりに感じます。
インフラ作るとか、デジタル化するとか、こんなテクノロジー使うとか。

ーうん。どんな社会にするか、っていうWill(ウィル:意思)がない感じがするなあ。
デジタル云々の前に、そもそも何がやりたいのか、っていう。

デマンドサイドである国民にとって何が嬉しいか、何が変わるのか、曖昧だなー、と。

ーそうねえ。

「マイナンバーカード使えば、コロナや災害時に給付金がスマホで申請して1日でもらえる」とか、「今やらなきゃいけない手続きTODOリストはこちら!」とか。

ーキラーコンテンツ開発があってこその、デジタルインフラの議論だよね。
社会保障でも、子育てでも、コロナや災害対策でも、政権の目玉と組み合わせてやると良い気もする。

実際の政策分野がまず先に来るよね。企業で言うところの事業部。
これあってのデジタル戦略部だもの。

2.印デジタル公共財"India Stack"の大きな効果

図23

ーこういう観点だと、インドのデジタル公共財である”India Stack”って面白いよね。

インディア・スタック?

ーインドのデジタル公共インフラのことだよ。
デジタルIDや、オンラインでの本人確認(アドハー、eKC)、データシェア(デジタルロッカー)、小口決済(Unified Payment System:UPI)とか、複数の層から構成されてる。
こういうインフラの上に、補助金や、健康保険や、オンライン教育など、いろんなアプリが接続されてる。

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India Stack公式スライド”Building digital infrastructure for a billion”より

ほー。いろんなものがスタッキングされてるから、Stackか。

ー2014年頃から政府主導で作られて、2018年までに12億人がデジタルIDを取得、認証は月間10億件、決済は1日に3億件行われるまでになったんだよ。
 従来は、本人確認の書類を揃えるのも大変で、銀行口座すら開けない人がたくさんいたし、現金が手渡しされるまでの不正やムダで、補助金額は予算の半分にまで失われてた。

めっちゃ使われてますね。
しかし、日本もありそうな話だけど、10%しか普及してないマイナンバーカードとだいぶ違うね。なんでそんな成功したのかしら。

ー「国内に大量にいる貧困層への補助金」っていう、キラーコンテンツが成功した。

India Stackは、オンラインで政府と国民がダイレクトにつなげて、みんながラクにお金を手に出来るような仕組みとして出来たってことか。

ーそうそう。
みんなお金が早くちゃんともらえるんだったら、こっち使いたいよね。

国民からしても、India Stackにのっかるメリットがわかりやすいね。

ーそれに、普及のやり方もうまかったんだよ。
India Stackは生体認証で本人確認なんだけど、インド政府は各村に出張所を作って登録をサポートしたり、各自治体に「一人登録するごとに1ドル」ってインセンティブつけたりして。

インド政府、結構やるな。Webサイトもめちゃおしゃれだ。

ー結局、デジタルや技術だけじゃなくて、何が国民に訴求するかっていうマーケティングやビジネスデザインが大事。
それは日本のデジタルガバメントにも全く同じことが言える。

そういう意味では、今までの日本のデジタルガバメントって、ひと昔前のハコ物行政に近いところもあるような気もする。
インフラを作ることが目的化してる感じ。

ーそうかもしれないね。

3.デジタル公共財は、21世紀の社会インフラ

図24

しかしIndia Stackは面白いね。
政府だけじゃなくてメガバンクからスタートアップまで、民間企業にも使われてるんだね。

ーそうそう。
最初は補助金サービスのために始まったんだけど、いったん普及したら、官民いろんなサービスが接続するようになったみたい。

確かに「本人確認」とか「送金」「データシェア」って、色んなサービスで必要なビジネスの機能だもんね。

ーそうそう。

そういう共通機能を政府が代表して整備するっていうのは、本質的には伝統的な社会インフラと変わらない気がする。
橋とか道路とかダムとか。

ーそうそう。India Stackを使えば、そういうのを自前で持たなくてよくなって、ビジネスで発生する共通コストも下がる。

中小やベンチャーでも新しいビジネスを始めやすい、ってことか。

ーうん。India Stackの一番面白い点はここにあると思う。
貧困世帯をフォーマルな経済に取り込んだり、スタートアップ促進にもつながって、国全体のインクルージョン(社会包摂)を進めたってとこ。

4.日本の国際社会での存在意義:信頼と自由

図25

面白いね。
個別の企業や事業に政府が税金をつけるんじゃなくて、基盤に投資をしていろんな人に機会を与えるっていう構図は、今の時代にあってるね。

ーうん。
プレイヤーもニーズも多様化していて、その一方で政府のリソースが人もカネも減っている中の、一つの出口になりそう。

民間のプラットフォーマー企業がインフラを独占する、っていう現状に対する打開策にもなる気がするな。
政府という枠組みを通じて、”公平で公正で安心な”インフラを、みんなが作っていくというか。

ーそうだね。
そういう意味では、デジタル公共財にとって、キラーコンテンツ(政府サービス)とあわせて、政府へのトラスト(信頼)は大前提だね。

コロナ禍で信頼が失われた中で、政府が国民に訴求していくのはなかなか難しそうだけどねえ…

ーそうだね。笑

でも、日本の中でこういう「公正で安全で信頼できる」デジタルインフラが敷衍されるって、国際社会での日本の存在感を示すことにもなると思うな。

ーほう。

世界の一部では、全体主義とかファシズム的な動きが大きくなってるじゃないですか。中国の社会信用システムとか。
こういうのに対して日本の社会が大切するものって、自由であり、民主主義であり、公正や平和であり。

ーそうだね。

日本って最近少し国際社会でも存在感が薄くなりがちだけど、デジタル公共財を通じた社会システムで、世界にこういう価値の番人としてアピールするのは、必要なことだと思う。

ー去年のG20は日本が開催国だったけど、デジタル分野では「Data Free Flow with Trust(DFFT:信頼のもとのデータの自由な流通)」を打ち出してるね。

おー。

ーデータの利用に限らず、デジタルのID管理とか、本人確認とか、あらゆる仕組みも同じですね。

はい。
アメリカや中国とは異なる、日本としてのキャラを活かせる分野だと思います。

ーアツいスミさん。

へへ。
デジタル庁も、そういうことに繋がっていったらよいけど。

ーそうだねえ。笑

壮大な話をしてたら、だいぶ時間が過ぎてしまった。
それではまた今度。

ーはいはいー。またまた。

(…Facetime終了)

★参考文献★
『「デジタル庁」で番号カード普及 電子行政を一元化―菅官房長官』時事通信  https://www.jiji.com/jc/article?k=2020091200551&g=pol
『インドのデジタル公共財”India Stack”に見る、日本の未来の将来像」』一般社団法人 行政情報システム研究所 https://www.iais.or.jp/articles/articlesa/20191010/201910_05/
『お金の変化からみる未来の社会の設計図、そして個人の幸福を探求する』
https://wisdom.nec.com/ja/events/2019032901/index.html
『G20 Japan Digital』https://g20-digital.go.jp/jp/

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