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こっちおいでよリス丸くん その3

原案・イラスト  ゆなぞ
文        ねこやま





神さまの『おつとめ』に必要な道具を取りに
神社へ向かう途中の山の中でオオヤマネコの夫婦と出会った。


ぼくは自分の住んでいた森の仲間としか
話したことがなかったし、大きないきものに会うのも初めてだったので少し怖かった。
どうしようかともじもじしているぼくを横目に
神さまはオオヤマネコに猛ダッシュで近づいていた。



「神さま…!危ないですよ」

小声で、だけどしっかりと神さまに注意を促してみたけれど、神さまからの返事は


「大丈夫だよ〜!知ってるかい?
遠い遠い国ではネコは神の使いなんだよ!!
だからこの子たちも大丈夫に決まってる。
きっと仲良くなれる。リス丸もこっちおいでよ!」


(神さまはうっかり者だから、ぼくがしっかりしなきゃいけなかったのに…..!)


恐る恐るぼくも近づいてみた。

「こんにちは、旅の途中ですか?」

先に口を開いたのはオオヤマネコだった

「そうなんだ。この近くで美味しいごはんが
食べられるところを知らない?」

(神さま……!出会ったばかりなのにすごいな!)

「ちょうど今、晩ごはんの準備をしようと思っていたところなんです。おふたりが良ければうちで食べていかれませんか?」

「本当〜?ありがとう!是非いただくよ!
ね、リス丸!呼ばれていこう!」

「…….はい。神さまがいくのであれば。」

出会ったばかりで一緒に食事をするのは
初めての体験で、これもぼくにとっては大冒険だ。


「きみの名前は、リス丸くんでいいのかな?
取って食べたりしないよ。安心してちょうだい。
さっき神さまから聞いたけど、初めて旅に出たんですって?どう?楽しんでる?」


「そうですね……。楽しんでると思います。
いままで知らなかった感情がたくさんで…..
あの、はい。楽しいと思います。」



「きみはおしゃべりが苦手そうだね。
それとも誰かと深く関わるのを避けてきたのかな?
言いたくないことは言わなくていいけど
せっかくの旅だし、せっかくの初めての出会いだ。
旅の恥は掻き捨てだよ。
なにか聞きたいことがあったら聞くといい。
私たちで良ければだけどね。」


「ほらほら、リス丸〜もじもじしてないで〜!」


「えっと、あの、じゃあ…
自分以外の誰かと深く関わるのって怖くないですか?
裏切られたり、急にそっぽ向かれたり、
ぼくは、だったらぼくはひとりでいいって……
その方が誰のことも嫌いにならずに済むし
あの、そう思っていて……」


「うんうん。いいよ続けて」


「あの、だから、
どうしてあなた達は一緒に居ようと思ったのですか?
えっと、その、一緒に暮らして、ずっと一緒に居るって
どんな気持ちなんですか?と言うか……」


「そうだね。
さよならの時がいつか必ず来ることを知っているからかな。自分とだっていつかさよならする時が来るよね。
みんないつかは死ぬ。それがいつなのかは分からないけれど、いつかは絶対さよならの時が来るんだ。
だから精一杯愛していくんだよ。
自分のことも。誰かのことも。

確かに、裏切られたり、そっぽ向かれたりしたら
私も傷つくと思う。でもそれ以上に『愛おしい』と
思う気持ちは止められないし大きなパワーがある気がするんだ。

抽象的でごめんね。
でも愛に正解はないから、これは私の愛の形の話ね。

いつも笑顔でいて欲しい、お腹を満たして
あたたかい寝床で安心して眠りについて欲しい
怖いもの全てから護ってあげたいと思うこの気持ちを、愛以外になんて呼んだらいいのか分からない。
だから、これが私の愛なんだ。幸せそうな姿をずっと隣で見ていたい。だから一緒に居るんだよ。

きみの愛の形はどんなのだろう。
いつか見つかったら話を聞かせてね。」


ぼくは、分かったような分からないような
それともどっちでもないような気さえした。

けれど、見つかるといいなと思った。
ぼくの愛の形。ぼくたちの愛の形。

誰かと深く関わる事は、怖い事だと思っていたけれど、怖いを超えた先に『ぼくたちだけの愛』があるなら、ぼくは辿り着いてみたいと思ったんだ。
いつか、どこかに居るきみと、同じ景色を見たいんだ。一緒に。


もしかしたらぼくは、自分の心の中の繊細な部分を
誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
話したことで少しだけ胸のつかえが取れたし
これも冒険だなぁと思ったら、またひとつ心が跳ねた。


それから、みんなで食卓を囲んだ。
みんなで食べるご飯はとても美味しかったし
神さまもとても楽しそうだ。
ぼくはそれがとても嬉しかったんだ。




また会いにくるよと別れを告げぼくたちは先へ進んだ。



                       
                    (続)



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