歯車を使った減速と増速 その考察

モータで駆動する歯車の列(輪列)について考えてみます。歯車の基本的な役割から考えてみたいと思います。

モータとピニオンギア

まずはモータがあります。その軸にピニオンギアを取り付けます。ピニオンギアは歯数の小さな歯車のことです。時計用語ではカナ歯車と呼ばれます。上図では端数が10の歯車になっています。
このモータを1分間に100回転で回したとします。1分間の回転数のことをrpm(round / min)と表記します。この書き方を使えば100rpmということです。軸に取り付けたピニオンギアも同じ100rpmで回ります。

減速

次にここに歯数が50歯の歯車を噛み合わせてみます。


50歯の歯車を追加

この歯車を1番と名前をつけることにします。モータのピニオンギアと噛み合った1番の平歯車はモータ軸が1回転すると10歯/50歯 = 10/50 = 1/5だけ回転することになります。言い換えるとモータ軸が360°回転すると1/5 x 360 = 72°回転します。
回転速度はモータ軸の1/5の速度で回ることになります。モータが100rpmの場合、1番は100 x 1/5 = 20で20rpmで回ります。
これが歯車を使った減速の基本です。

トルク

モータ軸の回転を考えるときには回転速度の他に「トルク」を考える必要があります。トルクはその回転軸が持っている力です。どのくらいの重さの物を動かせるのかを表します。力を表すのでN(ニュートン)を使います。そしてもう1つ考える必要があるのが回転中心軸から力が作用する点までの距離です。距離なのでm(メートル)を使います。この2つを合わせてN・m(ニュートン・メートル)という単位でトルクを表します。この値が大きいほど力の強いモータということになります。
ただし、トルクを表す単位にはkgf・cmや他の表記の仕方もありメーカーにより表記がバラバラです。比較するときには換算しましょう。そういうサイトもあります。
1N・mのトルクは回転中心軸から1m離れた点で1Nの力を発生させられます。1Nの力は地球の重力で計算すると 1.0/9.8 = 0.102kgになります。9.8は地球の引力の重力加速度です。
1N・mのモータは半径1mのプーリーをつけて100gの錘を動かせます。半径10cmなら1kgとなります。

歯車を使い減速・加速を行うと回転速度とトルクは反比例します。回転速度が1/5になるとトルクは5倍になります。
ゆっくりにすると力が増えるということになります。

多段減速

もっと回転速度を遅くしたい場合には1番の平歯車を大きくします。しかしスペースの都合などで大きな歯車が入らないこともあります。その場合には歯車を2段にして減速させます。
そのために1番の平歯車にピニオンギアを追加します。このピニオン歯車は1番の平歯車と一体になって回転します。そのピニオン歯車に噛み合うように平歯車を配置します。

2段減速

追加した歯車を2番とします。上図では1番のピニオンギアは10歯、追加した2番の歯車は50歯になっています。つまり1番から2番への減速も1/5になります。
モータが100rpmの場合、1番は1/5の20rpm、2番はさらにその1/5で4rpmとなります。モータ軸から見ると1/25の回転速度になり、トルクはモータ軸と比較すると25倍になります。
1N・mのモータだと2番には25N・mのトルクが出てくることになります。

さらにもう一段追加するとこんな感じになります。

3段 減速機

上図の例では3段目も同様の歯数になっています。回転速度は
1段目 1/5
2段目 1/25
3段目 1/125
となります。モータが100rpmなら3段目の歯車では0.8rpmとなります。トルクは125倍で125N・mとなります。
一般的にモータの回転数は早過ぎてそのまま使うことはできません。そこで歯車を使って回転数を落として使います。そのときにトルクは増えて重いものを動かすときに有利です。

増速

逆に歯車を使って増速する場合を考えてみます。


増速機

モータの軸に平歯車を取り付けます。この平歯車は50歯になっています。それと噛み合う一番のピニオンギアは10歯になっています。モータの軸が1回転すると1番の歯車は50/10 = 5回転することになります。トルクは1/5の0.2N・mになります。

もう1段追加してみます。

2段増速機

5倍の増速を2段にするので5x5=25倍
トルクは1/25になります。
もう一段追加すると

3段増速機

5x5x5 = 125倍になりまる。モータが100rpmなら125,000rpm、トルクは1N・mのモータなら1.0/125 = 0.008N・mになります。回転数は早いが力は弱いという増速機が出来上がります。

増速+減速機

さて、1/125倍の減速機と125倍の増速機を考えてみました。これを繋げると1倍の出力を取り出す歯車になるのでしょうか?

増速+減速機

理論的には上図の輪列で最終の歯車にはモータと同じ100rpm、1N・mの出力が出てくるはずです。それぞれの軸での回転数とトルクを表にすると以下のようになります。

回転数とトルク(理想値)

歯車の伝達効率とトルクの減少

実際の機械では軸の摩擦、歯車の伝達効率を考える必要があります。平歯車の伝達効率は90〜95%程度と言われています。軸受でのロスを5%として1軸あたりの損失が85%ぐらいになりそうです。伝達効率を考慮すると上記の表は以下のようになります。

回転数とトルク(伝達効率を85%として計算)

増速して減速すると回転数は戻りますが、トルクは半分以下になってしまいます。弱くなったトルクを増幅しても元には戻らないので輪列の設計は慎重に。というお話でした。


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