2005.12.08: ソウル(ミョンドン)
2005年12月8日 ミョンドン
外の冷たい空気を吸うために昨夜窓を開けたのがいけなかったのか、一晩中冷たい空気が部屋を流れているようで寝ていても寒かった。朝、外の写真を撮ろうと窓を開けようとしたらきちんと閉まっていなかった。寒かったわけだ。ホテル1階のCafe Fontanaで朝食。ガイドブックでもここのビュッフェは色々な國の料理を楽しむことができると推薦しているが、ビュッフェには行かずにレストランで韓国粥を頼む。小鉢に入った5種類の箸休めが付いた韓国粥はゴロンと大きな骨付きカルビが3つ4つ入ってピリ辛味で美味しかった。
ソウルの繁華街は朝が遅いと聞いたので11時までホテルで過ごす。その間にサンドル社(Sandoll)のユーン(Yoon)さんに今夕の訪問予定の確認電話を入れる。今回が初めてのソウル訪問だが何処を見るという計画無しにやって来た。セオリー通りミョンドンに行ってみることにして11時過ぎにホテルを出る。今日は日中でも零度までしか気温が上がらないそうですよとはベルボーイ君のお天気情報。昨夜の道を地下鉄3号線「高速ターミナル駅」目指して歩く。ホテルを出ると直ぐ左前方にマリオットホテルと新世界百貨店が見える。その下が地下鉄の駅になっているはずだ。
カトリック大学がある交叉点の一角に馬の親子が走る公園があった。馬の説明が見つからなかったが何かいわれがありそうだ。
歩道の日陰は凍り付いているところもある。日当たりでも1週間前に降ったという雪が解けずに残っている。外を歩く人の姿もほとんど見当たらない。地下道の入口からソウル・パレスホテルを見ると周囲は高層住宅群のようだ。
地下道の壁には広告類が全くなく寒々とした印象だ。北京の天安門前地下道ですら企業の大きな広告があったのに。この地下道は広告を出せる程の人通りがないのか、あるいは何処かの役所の規制があるのか。
ここから先エスカレータを乗り継いで更に地中深く下りて行く。エスカレータには右側に立つこと。
閑散とした改札口とキップ売り場の前にたどり着く。キップ売り場は自動券売機が並ぶだけ。目的地のミョンドンまでのキップを買おうと券売機の上に掲示されている路線図を見るがローマ字表記が小さすぎて読み取れない、これは想定外の事態。近くにいた女子大生に助けてもらったのだが、彼女に分かったのは私達がミョンドンに行きたいということだけだった。彼女もソウルの地下鉄には詳しくないようすだった。それでも何度も路線図を指差して、乗換駅と下車駅を指差して教えてくれようとする。言葉は分らないし指先が何処を指しているのかも分らない。
彼女の指先を追って路線図を見ているうちに、そこに書かれている数字のほとんどが900だということが分かった。先を急いでいるようすの彼女に『カムサムニダ』、去って行く彼女から笑顔が帰って来た。コインが無かったので券売機に紙幣を入れるがすぐに吐き戻されてしまう。裏返しても向きを変えてもダメ。紙幣を替えて試しても結果は同じ。この様子を見兼ねてか近くにいた40歳くらいのビジネスマンが、私の財布の中を覗いて別の紙幣を出すように促した。彼が出すように言っているのは1,000ウオン紙幣だった。今度は乗車券と釣り銭がすっと出て来た。今まで券売機から拒否されていたのは10,000ウオン紙幣だったのだ。
高速ターミナル駅改札内には本格的な衣料品店や書店があったり、通路に一目でそれと分るイミテーションのブランドバッグを並べ大声で客寄せする人、こじんまりと靴下を売る人などがいた。さらに駅のホームでは行商風の女性が駅の職員(警備員だったかもしれない)から床に並べた肌着類を撤去するようにとかなり厳しく叱責されている様子も目にした。待つ間も無くホームに入って来た電車に乗り込む。
車輌の中は東京の地下鉄より広い。シートはプラスチック成型のむき出しでクッションがない。天井近くに付けられた表裏4面のテレビモニターはコマーシャルを流している。
電車に乗って乗換駅となるチュンムロ駅までの停車回数を数えながら停まる度に駅の名前を確認する。手元の地下鉄路線図で追う駅名のハングルの文字数と到着する駅の表示文字数が違うことに気づいたのは3つ目の駅を電車が発車した後だった。隣に座っている60代後半と思われる女性に路線図を見せて、今乗っている電車の進行方向を訪ねたらたどたどしい英語の返事が帰ってきた。日本語で訊ねたのに……。車輌は反対方向に走っていたのだ。電車が停まったので草々にお礼を言ってとにかく電車を降りる。
反対側のホームで電車に乗り直し、また駅の数の数え直しだ。乗車する時に反対方向の電車に乗らないようにと随分気をつけていたつもりなのになんてことだ。ソウルの交通ルールが日本とは逆なのが乗るべきホームを間違える理由の一つだと思うが、それ以外にも駅の表示が初めて地下鉄を利用する者にとってとにかく分かりにくい。ハングルを読めないのが一番の理由なんだが。ゲウムホ駅まで来て今度はサンドル社に買って来たお土産をホテルの部屋に置いて来てしまったことに気づいた。慌ててまたしても反対側の電車に乗り換えて今日の出発点、高速ターミナル駅まで戻り、独り改札を出てホテルにとって返した。
やっと地下鉄で先に進むことができる。チュンムロ駅で地下鉄4号線に乗り換える。今度はホームを間違えないように駅の表示を注意して見る。それでも初めに降りていったホームの表示をよくよく見るとどうやら反対方向に行くホームだ。現在駅の名前の右側に並べて書いてある駅名が次の駅ではなく一つ手前の駅名らしいことに気がついた。日本と反対じゃ間違えてもしかたがない。電車に乗る前に気づいてよかった。
4号線に乗り換えてミョンドンまでは一駅。走り始めた車内を歳とった盲人のカップルが杖を片手に小さな器をかかげて車輌間のドアを開けて入って来た。小声で何か言っている。男子高校生グループの一人が二人を追うようにして小さな器にお金を入れていた。今度は反対側からカートに乗せた大きなラジカセをガンガンいわせながら、背の高い若者の二人組が大きな声で何かふれながらやって来る。音楽CDの車内販売だ。盲人カップルと言いCD売りと言い東京の地下鉄にはない光景は衝撃的だった。
ミョンドン駅の改札は短いロータリーバー式。通勤ラッシュ時はこの短い改札口をどんな風に人が流れるのか見てみたい。このタイプの改札口は東京でも台北でも、上海や北京でも見たことがない。
駅の階段を上りきって6番出口からミョンドンのメイン通りに出る。出口の直ぐ左手がミリオレ・ミョンドン店。若者を対象にしたファッションビルで、入口には人待ち顔の若者が大勢立っていた。
ミリオレの入口を入ってすぐ左側に周囲の衣料品店よりずっと広い売り場のアクセサリーショップ。そこに並ぶショーケースで足を止めると日本語で声を掛けてきたのは店員の金知希(キム・ジヒ)さん。なかなかに化粧上手だ。流暢な日本語はソウルの日本語学校で学び日本からの観光客相手に磨いたものだそうだ。店の名前は銀製アクセサリーショップ “Rich” だった。いやがる金さんだったが客の相手をしている様子を撮らせてもらった。念のためこのページに掲載する了解はもらってきた。金さんの話では、ミリオネはディスプレ・イデザインを他で真似されるのを防止するため店内の様子を写真に撮ることを禁止しているそうだ。彼女は『日本のショップの真似はしてるのに……』と笑っていた。
ミリオレの1階をぐるっと廻ってみたが、どの店も間口も奥行きもない上野のアメ横にあるような店ばかりだ。2階以上の見学は退屈そうなのでパス。ホテルを出てから地下鉄の乗り間違えや忘れ物で歩きづめだったので一休みすることにする。ミリオレの右隣にある “CAFFE PASCUCCI” に入る。1階のカウンターで飲み物を購入して2階から5階の好みのフロアーで休むことができる大きな店だ。
各フロアの階段踊り場に下がっている鮮やかな赤色の案内板に無線でアクセスできるホットスポット(ワイヤレスゲート)の表示があった。ネットワーク先進国の現れなのか? 東京のスターバックスやタリーズコーヒーにこんなサービスがあったかな?
アイスココアで一息ついたのでミョンドンの奥に向かって冷たい空気の中を歩く。地下鉄から出てきたときよりも気温は下がっている。渋谷と新宿を混ぜて所々に青山を散らしたといったらいいだろうか、いずれにしてもミョンドンは若者の街だ。
ここまで来たのだからロッテ百貨店まで足を伸ばすことにして南大門路に出る。地下鉄では何度も方向を間違え方向感覚に自信をなくしていたので、地下道入り口脇の新聞スタンドでロッテ百貨店への道筋を教えてもらった。20代前半の女性だったがいきなり日本語で訪ねたのにたどたどしい日本語だったが丁寧に教えてくれた。
地下の食品売り場に直行する。肉の売り場は生肉から味付けされたもの、加工されたものなどが数知れず日本の魚売り場のように区分けされ並べられていた。美味そうなソーセージを見つけたが「要冷蔵」で日本に買って帰ることはできないと店員さんに断られてしまった、のだと思う。何しろこの大きな売り場で誰にも言葉が全く通じなかったのだ。そろそろ地下鉄の駅に戻る時間、慌ただしかったミョンドン、ロッテ百貨店探訪を5時過ぎに切り上げてもと来た道をミョンドン駅まで戻る。日が傾き始めたミョンドンの街のあちらこちらに屋台が出始めている。今回のソウル訪問の目的、サンドル社にユーンさんを訪問するために地下鉄4号線に乗る。