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2003.07.15: カルガリー(レイク・ルイーズ)

2003年7月15日
バンフ・センター、レイク・ルイーズ、ミラー・レイク、レイク・アグネス

朝、起きてリビングルームに出て行ったらマリーンが来ていた。朝食を一緒にする。話題は外国語。日本語の文字の多さ、平かな、カタカナ、漢字を使う複雑さなどが話題になった。同じ漢字を使う中国語との違いなども質問された。漢字の成り立ちを説明すると、英語圏の人はいつも漢字が合理的でシステマチックですばらしいと感心する。

スコットはマリーンの机と椅子を買うために別行動。マリーンは遠く離れたところからヘレナの家からそれほど遠くない所に超してきたばかりで、未だ家の中が片づいていないのだという。スコットの木工の力が買われたようでノックダウン式の事務机と椅子を買うらしい。

昼頃ヘレナの車でバンフ(Banff)に向けて出発。
ヘレナの家からトランス・カナダ・ハイウエイの入口まで5分ほど。ハイウエイをそのまま北上すればバンフ・ナショナル・パーク(Banff National Park)、ジャスパー・ナショナル・パーク(Jasper National Park)などカナディアン・ロッキー(Canadian Rocky)に直結している。自然好きのスコット、ヘレナはそんな立地のこの家が気に入っているという。

トランス・カナダ・ハイウエイは行き交う車もない。

バンフ・タウン(Banff Town)に近づいた頃ハイウエイの直ぐ脇で野生のエルクが餌を漁っている。数台の車が停まって写真をとっている。残念だが反対斜線なので車を停めるわけにも行かず通り過ぎた。

バンフに着いて直ぐにバンフ・センター(Banff Center)に入る。車をおりるとすぐ目の前、ボウ・リバー(Bow River)を挟んで対岸の森の中にバンフ・スプリングス・ホテル(Banff Springs Hotel)のお城のような姿がある。今までに何度か旅行案内のパンフレットやチラシ等で眼にした建物だ。観光案内や絵葉書では雪に囲まれているが今は緑の中に建つ。

バンフ・スプリングス・ホテル

バンフ・センター内にあるウオルター・ビショップ・ギャラリー(Walter Phillips Gallery)でジャネット・カーディフとジョージ・ビュレス・ミラー(Janet CardiffとGeorge Bures Miller)の作品「ザ・パラダイス・インスティチュート "The Paradise Institutete")を見る。バンフに来た理由の一つがこの作品を見ることだ。

ウオルター・ビショップ・ギャラリー入口。

広いギャラリーの真ん中に仮設の小屋が立て付けられている。中に入ると、小屋の正面に低いステージとその奥にスクリーンが設けられている。スクリーンを臨む一階席はミニチュアの椅子で埋められ、実際の観客席は二階にあたる場所に二列、十五から十六人分の椅子が用意されている。その椅子に座ってスクリーンを見ると一階席に並んでいるミニチュアの椅子が遠くにあるように見える。これも作品の一部なんだろう。着席して直ぐに椅子の下に用意されているヘッドフォンを耳にかける。この作品は音声をヘッドフォンで聞く映画だった。ヘッドフォンをつけると直ぐに右側に座った人がボリボリとポテトチップスを食べ始めたのかと思ったら、その音も作品の一部でヘッドフォンからの音だ。

映画の内容は回想と夢と現実の境目を無くしたもので殆ど物語がない。
ヘッドフォンからの音が見ている者の視線をいやが上にもスクリーンに集中させる。記憶を失って入院している男性が主人公のようだ。世話をする看護婦が彼を覚醒させて病院から逃亡させようとしている。大学の医者が入院中の男性の脳にさらに処置を施そうと迫ってくる(ように見える)。
ずっと白黒だった画面が燃えている家のシーンでカラーに変わり、作品もここで突然終わる。

映画のようで映画ではないような不思議な作品だった。この作品は2001年の第49回ヴェニス・ビエンナーレ(Venice Biennale)のカナディアン・パビリオン(Canadian Pavilion)で公開され、カナダ賞(Canada's Award)を受賞した作品だそうだ。

「ザ・パラダイス・インスティチュート」会場入口。

ジャネット・カーディフのもう一つの作品「フォレスト・ウォーク “Forest Walk”」は受付でCDプレーヤーとヘッドフォンを借りるところから始まる。
バンフ・センター内の林の中に設けられたスタート地点に立って予めセットされているCDを再生する。後はヘッドフォンから流れてくる音声ガイドに従って林の中を進みゴールを目指すという作品だった。スタート直後は設定されたコースを歩いていたようだが、気づくと林の上の方でヘレナが手を振る姿に出会った。どうやら途中からコースを外れてしまったようだが新鮮な体験だった。

バンフ・センター内の林の中に大きめのロッジが点在する一角がある。州の審査をパスした音楽、絵画、彫刻、文学など各ジャンルの作家達が2年間、創作活動をするためにここで暮らしているそうだ。ヘレナもここで過ごしたことがあるそうで、ここでの創作活動は作家にとって天国のようだと言っていた。ロッジ滞在中は一切の費用を州政府が負担するのだという。ロッジ界隈は立ち入り禁止になっていたのだがそっと通り抜けさせてもらった。

一棟一棟が異なったデザインのロッジ。

バンフ・タウンを後にしてレイク・ルイーズ(Lake Louise)に向かう。レイク・ルイーズはあまりにも有名な観光地だが着いてみると観光客も少なく、ひっそりとした雰囲気の中に薄緑色の湖面が光っている。
湖の畔に建つザ・フェアモント・シャトー・レイク・ルイース(The Fairmont Chateau Lake Louise)がその右隣の空き地に別館を増築中で、これに対してヘレナは強い不満と苦情を呈している。環境アセスメントが機能していればこんなことは起こらないのに、一度失ったら取り戻すことができない自然と景観が大いに損なわれていると残念がっている。

イク・ルイーズとヘレナ。

シャトー・レイク・ルイーズを少し過ぎた辺で湖を巡る路から分かれてレイク・アグネス・トレイル(Lake Agnes Trail)に入りレイク・アグネス(Lake Agnes)を目指す。

レイク・アグネス・トレイルからの眺め。

ときどき下ってくるハイカー達とすれ違う。このハイキングコースは観光客に人気がある。

さらにレイク・アグネス・トレイルを往く。

途中でこじんまりと寂し気な佇まいの湖というより池のようなミラー・レイク(Mirror Lake)に出会う。湖面は綺麗な緑色をしている。

ミラー・レイク。

小休止の後さらに上を目指す。馬に乗って下りてくる七、八人のグループとすれ違う。

すれ違った馬上のハイカー。
木々の間にのぞく滝。

レイク・アグネスの畔に建つレイク・アグネス・ティー・ハウス(Lake Agnes Tea House)に着いたので暫し休憩。

レイク・アグネス。

ティー・ハウスのベランダで暖かいココアを楽しむ。休んでいる間もリスがテーブルまで上がって来る。カップの側で後足で立ち上がり前足をそろえて差し出すようすは食べ物をねだっているように見えるが、別に物乞いをしているのでもないそうだ。ヘレナは、人と自然は一定の距離を保つ必要があるといって近寄りすぎると優しく追い返していた。
ティー・ハウスは私達が到着して30分も経たない内に閉店になってしまった。5時が閉店時間だという。

レイク・アグネス・ティー・ハウス。
レイク・アグネスの滝の落ち口からの遠望。

ティー・ハウスで働いているボーイさんはここで寝泊まりしていると言う。朝はどんな感じなんだろう? 一度この場所の早朝の空気に触れてみたいものだ。このボーイさんに、ここから分岐しているビッグ・ビーハイブ・トレイル(Big Beehive Trail)の様子を確認したところ、この時間からこのコースに入るのは止めた方が良いとアドバイスされた。代わりにここから上に辿るリトル・ビーハイブ・トレイル(Little Beehive Trail)を勧められ、さらに上を目指す。
しばらく登るとミラー・レイク(Mirror Lake)とレイク・ルイーズ(Lake Louise)、その向うに開ける山を臨む場所に出る。さらに上るとウィスキージャック(Whiskyjack)という鳩に似た鳥に出くわした。

左がレイク・ルイーズ、右下がミラー・レイク。

折り返し地点の少し開けた所、少し先の大きめの岩の上でリスより一回り大きな動物が後足で立ち上がって何かに見入っている。マーモットだ。カメラの小さなシャッター音に気づいてこちらに顔を向けるのだが逃げ出す様子もなく、すぐに顔を戻して先ほどから見入っている物に視線を戻す。距離をおいたまましばらく様子を見ていると、納得したのかその姿を岩の向こうに隠した。
帰路は途中から別の路をとる。30分程おりるとミラー・レイクの横に出た。ミラー・レイクからは登った時と同じ路をシャトー・レイク・ルイーズ横まで戻る。往復おおよそ2時間30分のハイキングだった。
全ての予定はヘレナ任せなのでこれから何処に向かうのか分らないまま、車の助手席から、すれ違う車も無い大きく左右にうねる道路の先と、その向うの山々を眺めている。しばらく両側を杉に被われた山道を走るとモレーン・レイク(Moraine Lake)に着く。湖は鋭く冷たい印象だ。既に観光客も去った時間なのか駐車場には私達の他に車が二台停まっているだけだ。

モレーン・レイク。

バンフ・タウンに戻りぶらぶらと土産物店や登山用品店などを見て歩く。空腹もいいかげんに募って来たし既に午後9時を回っている。ヘレナの選択でメキシカン・レストラン「コヨーテ “COYOTE”」 に入る。

コヨーテの店内。

店に入った時刻が遅かったばかりか話しこんでしまったために最後に出て行く客になってしまった。店の人たちは気持ちの良い人たちばかりで、他の客が全て出てしまった後も、店の後片づけや掃除があるからゆっくりしていて構わないと放っておいてくれた。

店を出て 車を走らせ始めた時は既に11時を過ぎていた。
カルガリーに向かうトランス・カナダ・ハイウエイで、行きに見かけたエルクが未だ同じ場所で草を草を食でいる。角ぶりのいい大きな雄だが、行きに見かけたエルクかどうかは定かではない。

同じ場所で餌を漁るエルク(午後11時を過ぎているのにこの明るさ)。

カルガリーに向けて進む車のフロントガラス越し、ズット先の方まで伸びるトランス・カナダ・ハイウエイのその先の遅い日没、浮かんだ濃いオレンジ色の大きな月を追いながら、帰宅した時は0時を回っていた。
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