4.3 North America

この記事では世界の騒音規制などの事例,特に法的根拠などのうち北アメリカの国々についてまとめています。
総じて北米諸国にはそれぞれ騒音に関する連邦政府のガイドラインがあり,州/県/市町村はこれらを用いて適切な騒音規制/条例を策定することができています。このセクションではそのような法律の一部を紹介します。

4.3.1 Canada

北米の3カ国のうちカナダは屋内外の騒音規制値を定めており,騒音の突発性,時間帯,(場合によっては)騒音に含まれる特定の周波数内容や情報に基づいて調整するという点で,最も先進的であるように見えます。

騒音規制は通常,州によって定められ,さらに自治体によって定義されます。カナダ全土の騒音規制の一部を表4.2に示しています。

表4.2 カナダにおける騒音規制

カルガリーを除いてカナダ全土で調査されたすべての騒音規制は,定められた時間(5分から騒音継続時間まで)のA特性重み付け測定に基づく制限を課しています。
2章で議論したように,A特性重み付けは騒音公害を引き起こす主要帯域を捉えることは困難です(通常中心周波数63Hzまたは125Hzのオクターブ帯域)。

騒音規制に関しては,県や市によって大きなばらつきがあります。屋外の昼間の規制値は45~75 dBAであり,屋外の夜間の規制値は40~85dBAです(85 dBAの規制値は特に許可された屋外イベントに対するものであり,日常的に発生する騒音の規制値ではないことに注意してください[137])。

カナダ全土で確認されている最も包括的な騒音規制の1つは,ビクトリア市の規制です[147]。
(5章で議論されるように)問題を引き起こす可能性のあるA重み付けをまだ使用していますが,音色や断続性に基づいて測定値を調整できるようにするための情報を提供しています。
この種のアプローチは,基本的な測定値を知覚を反映するものに変換するという点で正しい方向に進んでいます。
モントリオールでは,騒音に情報(音声や音楽など)が含まれている場合,法的な騒音制限を調整することができます[138]。

全体としてカナダは騒音規制の分野で一定の好事例があるように見えますが,誤った情報に基づく規制の例もいくつかあります。
最も一般的なものはA特性重み付けの誤用によるもので,ある特定の事例では加重曲線が何を表しているのかについて誤解があったようです[136]。

4.3.2 Mexico

メキシコには職業騒音規制に関する多くの情報が存在しますが,騒音公害に焦点を当てた規制はほとんどありません。
唯一確認された例はメキシコの公式規格NOM-081-SEMARNAT-1994であり,固定音源の騒音放射の最大許容限界と測定方法を定めています[148]。
この法律は一般の人々に「音響テロリズム」(acoustic terrorism)から身を守る機会を与えています。

すべての測定値はA特性重み付けで指定され,屋外の制限値のみが示されています(住宅地では昼間は55dBA,夜間は50dBA)。
この規格では,特別なイベントの場合4時間にわたって現場での制限値を100dBAとすることが規定されており,これは1999年のWHO地域騒音ガイドライン[2]と直接一致しています。
表4.3は規格に記載された制限値を示しています(スペイン語からの翻訳)。

表4.3 メキシコ公式規格NOM-081-SEMARNAT-1994における騒音規定レベル

メキシコがWHOのライブイベントに関する現場ガイドラインを取り入れたことは大変心強いことですが,カナダと同様,ライブイベントによって問題となる主要な騒音を見逃している可能性のあるA特性重み付けの使用に固執しています。
また前述したように,4時間の平均時間はライブイベントのエンジニアにとって不合理であり,イベントの早い段階での違反を補うことが非常に難しくなります。

4.3.3 United States

米国内には,連邦,州,地方の3段階の騒音規制があります。
連邦政府の規制は,州や地域社会が独自の法律を作成するための枠組みとして主に使用されています。
そのほとんどの根拠は,1975年の環境保護庁(EPA)のモデル騒音条例に由来するものです[149]。
この条例は(特に騒音とは呼ばれない)不要音の評価は完全に客観的であるべきであり,追加の主観的評価を必要としないことを明確にしています。
すべての規制値は敷地境界で測定された値に基づいて定義されています。

EPAの1975年の条例では,どの程度のレベルが健康リスクをもたらすかについて,一般的な指針を示しています(図4.3)。

図4.3 健康被害のおこりうる連続音(左)・衝撃音(右)のレベル

米国住宅都市開発省(Department of Housing and Urban Development)の以前の文書(Noise Guidebook, 1971)には,地域社会の様々な環境に対する許容騒音レベルが設定されています(図4.4)[150]。
Ldnは式4.1で説明されている通りであり,NEF(Noise Exposure Level)は騒音暴露を表すために使われる係数で1970年代から80年代にかけて主に用いられていましたが,それ以後はほとんどLdn(または類似の指標)に置き換えられています。

図4.4 コミュニティ内の様々な場所での許容騒音レベル

連邦騒音規制をより明確にすることは可能だったかもしれません。
しかし騒音の規制と施行を担当する事業所: 米国環境保護庁(EPA)の騒音防止管理局(ONAC)は,1981年にレーガン政権によって資金削減されました。
資金が削減された(そしてその後ONACは閉鎖された)にもかかわらず,1971年騒音規制法は廃止されることなく今日まで存続しています。
この空白を埋める代わりの法律はこれまで存在してきませんでした。
これが米国が騒音規制や騒音管理において欧米諸国に比べて著しく遅れをとっている主な理由です。
これは一般に公共政策の失敗と見なされています[151]。

既存の連邦政府のガイドラインは,現在では州や地域のガイドライン策定に情報を提供する役割しか果たしていません。
これに従って米国の国土の広さを考慮すると,一つの州 (カリフォルニア州など)でも数百の騒音条例/規制が存在することは全く驚くことではありません(表4.4)。
表4.4のデータは1997年の調査[152]からのもので,かなり古いと考えるべきですが,それでも米国の騒音法の複雑さをよく表しています。
このように全米の騒音規制の全体的な印象を形成することは困難です。
その代わりに現状の一般的な考え方を提供するために,騒音規制の一部をここで紹介します。

表4.4 1997時点でのアメリカ全域にわたる騒音規制調査

ワイオミング州(米国で最も人口の少ない州)を除けば,すべての州で少なくとも1つは騒音法が制定されています。
かなりの少数派の州では,地域の規制と連動した規制を設けています。
さらに少数の州では,地方自治体が独自の規制を採用するためのモデル条例を定めています。
インパルス音の制限に関する情報を与えている規制はほとんどありません。
屋外エンターテイメントイベントの騒音について言及しているものはさらに少なくなっています。

連邦、州、地方レベルの現行騒音法の抜粋を表4.5に示しています。

表4.5 米国内での騒音規制抜粋

ニューヨーク市[163]を除いて屋内騒音規制値についての言及はありません(屋外の値のみが示されています)。
カナダと比較すると,屋外の規制値のばらつきは少ない傾向にあり,日中は50~65 dBA,夜間は40~55 dBAです。
繰り返しになりますが,すべての測定値はA特性重み付けがされており,屋外イベントによる公害を定量化する上で問題となる可能性があります。
ロサンゼルスのガイドラインは特に詳細で,音のほとんどの側面(定常/衝撃的,周波数成分,時間帯,周囲の騒音レベルなど)に対して補正値を与えています[166]。

多くの州では,許可された屋外イベントについては,これらのガイドラインの適用除外を認めています。しかし騒音公害の観点からイベントの要件に規定を設けている州はほとんどありません。
特筆すべき例外はシカゴで,シカゴでは夏にダウンタウンで大規模なイベントが定期的に開催されます。
イベントの主催者は許可申請書の中で,どのような音響システムで構成されるのか,周辺地域への騒音公害をどのようにコントロールするのか(イベントが進行するにつれて騒音が問題となった場合,どのように騒音をさらに制限することができるのかについてのさらなる情報が要求される)についての詳細を提供しなければならないよう定められています[165]。
これは,地方自治体が騒音の責任をイベント主催者に負わせ,主催者は騒音管理計画を文書で提出しなければならない(そして主催者はその責任を負う)という良い実践とみなすべきでしょう。

多くの州条例では,明確な地方条例がない場合,国際金融公社(IFC)の騒音ガイドライン[168],またはASHRAEの騒音・振動制御ガイドライン[169]のいずれかを参照するよう示しています。
IFCガイドラインは非常に簡潔なもので,屋外の騒音レベルは日中は55dB以下,夜間は45dB以下としか述べていません。
また騒音が住宅地の背景騒音より3dB以上増加することがないように規定しています。
この相対騒音規制は西ヨーロッパで実施されつつあるものと同様です。
すべての測定はA特性重み付けで1時間にわたって行われます。

ASHRAE(American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers: 米国暖房冷凍空調学会)のガイドラインは,一見,屋外のライブイベント騒音とは無関係に見えますが,騒音測定値を迷惑の度数にマッピングするという点では実際は非常に有用です。
このガイドラインはA特性重み付けの使用を避けるよう勧告している数少ない例の一つであり,問題となる騒音のほとんどが低周波数帯域にあるため,A特性重み付けでは正確に表現できないことを明らかにしています。
さらに音は周波数に依存して伝搬するため,単一の指標による騒音モニタリングは有用ではないと述べています。
騒音問題をより正確に測定するために,音源の1オクターブまたは1/3オクターブ帯域の測定値(または好ましくは音響パワーレベル)と,離れた場所の騒音レベルを使用することを推奨しています。
これは、スウェーデンで行われた長期研究[170]の研究結果と一致しています。

ASHRAEガイドラインは騒音測定の絶対的な手法の特定までには至っていませんが,NC,RC(Mk 2),NCB,RNCなどの潜在的な測定基準をいくつか取り上げています。
しかしこれらの方法の多くは室内騒音の評価に焦点を当てたものです。(ASHRAEはレジャー騒音ではなくHVACシステムの騒音に関心を持っています)。
これらの測定基準が屋外のライブイベントから発生する騒音に適しているかどうかは明らかではありません(特にこれらのイベントの頻度が低いため)。

北米全土で検討された騒音ガイドライン/基準/法律の中で,ASHRAEのガイドラインは騒音の定量化と対処に関して最も常識的で情報に基づいたアプローチをとってお,ライブイベントに特化した新しい騒音ガイドラインや改訂版ガイドラインを作成する際に考慮されるべきものと思われます。

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