5.2 騒音規制へのアプローチ、5.3 測定法についての規制
この記事はAESによって2020年に公表されたイベント騒音と音響暴露についての文献(Technical Document),"Understanding and Managing Sound Exposure and Noise Pollution at Outdoor Events"についての和訳やこの文献を輪読する勉強会で得た知見などをまとめたものです。
Overviewなど各章の構成と概説については初回の記事をご覧ください。
前回の記事はこちら。
5.2 Approach to noise regulations
前の章で議論したように、騒音規制は交通や産業からの持続的な環境騒音には比較的適していますが、一般的に野外エンターテイメントイベントの騒音規制やモニタリングには適していません。
(少なくとも2つの研究では見解が分かれています[293, 298])
とはいえ、音楽ベースの騒音に関する規制が変更されるまでは、実務者は実施されている地域や国の規制を遵守するためにあらゆる手段を講じるべきです。
そうでなければ、イベントの将来が危ぶまれたり、罰金を課されたりする可能性があります。
野外イベントの全体的な目標は、イベントの主催者、クルー、参加者に高品質のリスニング体験で喜んでもらうと同時に、地域住民にも納得してもらうこと[308]であることを考えると、現実的なアプローチを取らなければなりません。
もちろん、騒音対策が唯一の目標であれば、最も簡単な解決策は人口密集地でイベントを開催しないことでしょう。
観客が楽しめることが唯一の目標であれば、サウンドシステムは指向性を考慮することなく、観客が望むものを提供するためだけの設計になるでしょう。
現実的には、両方の目的を考慮しなければなりません。
実際のところ、既存の騒音規制の多くは特に細かく定められているため(そして学術的な側面が強いため)、イベントの主催者、管理者、エンジニアが、状況に適切に対処するための要件を完全に理解することは困難です[309]。
さらに、イベントが進行中であれば、技術スタッフのほとんどはミュージシャンや観客への対応に忙殺され、騒音公害にはほとんど関心が払われません。
大規模なイベントでは(少なくともヨーロッパでは)、現場内外の騒音公害を監視・管理する別の技術スタッフを導入するのが一般的な解決策になってきています。
これは、自治体またはイベント主催者、あるいはその両方によって行われます。
複数ステージがあるフェスティバルでは、ステージ間の騒音が問題になることがあります。
このような場合、エンジニアは他のステージや観客エリアへの音の漏れを避けるだけでなく、地域コミュニティでの騒音公害を避ける必要があるため、問題はさらに複雑になります。
5.5節では、情報に基づいてこの問題に対処する方法を紹介しています。
例えば、ブリュッセルの常設会場では、すべてのエンターテイメントイベントのスタッフに「Decibel Officer(デシベル・オフィサー)」を置くべきであると規定されており、その役割は騒音を監視・管理することです[309]。
この担当者は、規制をどのように解釈し、適切な測定と管理を行うかを十分に理解できるように研修を受けます。
さらに、偽造防止のデータロギングも行わなければなりません [309]。
10EaZyのようなソフトウェアには、そのような目的のためのログファイル検証機能が含まれています [310]。
いかなる方法で騒音管理、監視、制御を行うにしても、規制を守ったからといって地域住民に騒音による迷惑がかからないという保証はないということを理解しておくことが重要です。
規制を守ることで、(ほとんどの場合)深刻な影響がないことを保証することができるかどうかです。
どの場合においても、事前に騒音管理計画書(NMP)を作成しておく必要があります。
5.3 Measurement regulations
第2章(聴衆の音圧暴露)と第4章(地域社会の騒音)で調査した騒音規制には、幅広い測定方法が詳述されています。
これら全てを包括的に論じることは、このレポートの目的には役立たないでしょう。
その代わりに、このセクションでは、野外エンターテイメントイベントに由来する騒音の測定や モニタリングにおける成功事例を紹介する上で参考となる規制や基準の中から、重要なものだけを抜粋し、簡潔にまとめます。
英国ではBS7445-1:2003 [311]が環境騒音の詳細な定義と測定法を規定しています。
この規格はISO 1996-2:1987と全く同じような内容です。
この規格の冒頭には、現在の騒音規制の複雑さを示唆する総論があります [311]:
鉄道や道路の交通車両、航空機、工場など、ある種の騒音源から発生する騒音によって人間がどのような影響を受けるかに関する広範な研究によって、様々な種類の騒音を評価するための様々な尺度が生み出され、使用されています。
ある尺度から別の尺度への変換は、しばしば深刻な不確実性を伴います。
もしある音響環境が常に単一の種類の騒音によって支配されているのであれば、様々な測定法が存在することによる混乱はそれほど深刻なものにはならないでしょう。
しかし、多くの場合、環境騒音は多くの音源からの音の組み合わせであり、様々な種類の騒音の分布は時々刻々と変化しています。
この規格は、様々な対策が提案され、実施されていることから生じる複雑さと混乱のため、騒音測定はA特性等価音圧レベル(等価騒音レベル)を統一して採用すべきであると提案しています。
この章で前述した議論を考慮すると、このような騒音に関連する最も一般的な問題は不快感であるため、この提案は音楽ベースの騒音には適していません。
興味深いことに、この規格に参加した機関の研究者の一人は、有意な低周波数成分を含む騒音に対しては、A特性重みづけは不適切であるという見解を示しています[36]。
これらの文書は同じ年に発表されたものであり、同一部署で働く研究者から、心配になるほど複雑なメッセージが出されていることを示しています。
ただし、BS7445-1:2003は2003年に採択されたばかりですが、ISO1996-2: 1987と同一の内容であることに注意する必要があります。
とはいえ、専門家の間でも意見が一致していないことは、世界的に騒音状況が複雑化していることを考えれば、懸念すべきことです。
規格[311]のA特性の問題を気にしないとしても、(たとえこの規格がエンターテイメントイベント由来の騒音に特に焦点を当てていないとしても)いくつかの有益な情報があります。
騒音測定における中心的な課題の1つは、環境中に存在する騒音源が1つであることはほとんどないということです。
複数の騒音が同時に発生すると、1回の測定ではかえって混乱を招きます。
そこで課題となるのは、暗騒音を取り除きながら、問題となる音源からの特定の騒音を検出することです。
規格3ページによれば、これは音響学的手段によって実施されるべきものです(これはおそらく計測器を使うことを意味するという、やや誤った前提に基づいています)。
一方規格の8ページ目には、測定を行う担当者は問題となる騒音の発生源を特定するよう努めるべきであると記されています。
この文章はよく言えば曖昧、悪く言えば矛盾しています。
住宅地の近くでイベントを開催する場合、騒音をモニタリングしている担当者は、その測定結果において、問題のある騒音がコンサートから来たものなのか、それとも関係のない別の音源から来たものなのか、どのようにして確かめるのでしょうか?
この共通の課題は、実務者や研究者によって指摘されてきました [308, 43]。
BS7445-1:2003[311]は、測定を行う担当者が最も可能性の高いと思われる騒音源を記録するよう注意しなければならないと示しているだけです。
LAeq測定では、この点に関する情報は得られません。
この矛盾を明確にすることは正しい方向への一歩ですが、騒音源の特定という責任を個人に負わせることは、人為的ミスの可能性を広げることになります。
複数のステージでフェスティバルが行われる場合、責任者はどのようにして問題のある騒音源がどこか特定するのでしょうか?
正確な評価がなされる可能性は低いでしょう。
この問題に対する技術的な解決策については、詳しくは5.5節で議論します。
測定位置に関しては、BS7445-1:2003 [311]が世界中の騒音規制の一般的な見解です。
屋外での測定は、建物の正面から1~2 m、地面から1.2~1.5 mの位置で行ってください。屋内では、壁から1 m、床から1.2~1.5 m、窓から1.5 mの位置で測定する必要があります[311]。
ただし、ルームモードによる影響にどのように対処するかについての指示はありません。
この規格では低周波数騒音はほとんど無視されているので、これは意外なことではありません。
さらに、屋外での測定は、精度と再現性を確保するために、安定した気象条件で行う必要があります。
変動騒音は、測定中に5dB以上異なる騒音として分類されます。
データの変動を抑えるための平均化方法については、規格にガイドラインが示されているものの、騒音の変動性については測定者が記録する必要があります。
繰り返しになりますが、これは(少なくとも定量的には)騒音の時間変動特性を無視したものであり、騒音による不快感や潜在的な生理的影響の強い要因であることは明らかです。
このような騒音の変動に対応して、設定された騒音規制値に5dBのペナルティを課すことは可能ですが、さらなる調査を通じてこれで十分かどうか検討するべきです。
最後に、測定値の積分時間は、特に不快感に関して考慮さ れる必要があります。
第2章で扱った聴衆の騒音暴露規制値は、積分時間(1分から4時間まで)の点で、ヨーロッパ全土でも非常に多様な慣行があります。
15分という比較的適度な積分時間を「標準」と考えても、騒音公害による不快感に適切に関連付けるには長すぎるかもしれません。
このレポートの筆者は、音楽による騒音公害は短い積分時間(3分程度)で測定するのが最適であると述べています。
現場の音圧レベルモニタリングが15分以上稼働していれば、ミックスエンジニアは制限に引っかかることなく複数の大きなピーク(L10 - L90)を持つことができます。
しかし敷地外では、このようなピークはしばしば迷惑になりえます。
Leqの積算時間を現場と場外で同期化することが提案されており、短い方を常に優先します[21]。
現在のところ、この問題はどの既存の規格、規制、法律でも扱っていません。
解決策を開発し検証するためには、さらなる研究が必要です。