7.4 The Healthy Ears, Limited Annoyance (HELA) Initiative


はじめに

2024年7月にHELA(Healthy Ears, Limited Annoyance)というイニシアチブが本格的に始動しました。サイトはこちら
このイニシアチブの主催はイギリスDerby大学のElectro-Acoustics Research Lab (EARLab)とのことです。

AESによって2020年に公表されたイベント騒音と音響暴露についての文献(Technical Document),"Understanding and Managing Sound Exposure and Noise Pollution at Outdoor Events"内でもHELAについては触れられていましたが,この文献が公開された段階ではまだ本格始動していませんでした。

今回HELAが本格始動し始めたということで,文献内でHELAについて触れられている第7章の一部を和訳してこちらへ載せておきます。(私がnote投稿をサボっている合間にイニシアチブが始動していました。申し訳ないです。。。)

文献は2020年にまとめられたもので,ライブサウンドについての騒音と音圧暴露の問題を工学的観点,心理的観点,生理学的観点,スピーカシステム構成,法令,発展的技術的内容など様々な観点からまとめられたものです。
文献自体はこちらで公開されているほか,文献の主要著者のResearch Gate にて公開されています。

7.4 Healthy Ears, Limited Annoyance (HELA) Initiative

このレポートは,屋外イベントによる音響暴露と騒音公害をめぐる複雑な国際的規制情勢を明らかにしています。
その大きなモチベーションとして,この分野における明確で実用的かつ効果的な規制を策定するために必要な科学的根拠に基づく偏りのない研究が行われていないことがあります。
そしてその多くはWHOの2018年コミュニティ騒音ガイドライン[1]に示されています。
現在,いくつかの規制はおおよそ賢明で実用的であるように見えますが,このレポートで挙げた矛盾するようなデータに起因する情報錯綜によって,多くの大規模ライブイベントにおける不十分な音響/騒音制御の実践を招いています。

このワーキンググループでは,国際的な規模で更新されより良い情報に基づいた規制の追求を支持します。
実質的な変化が起こるまでには,このような意欲と努力が何年にもわたって継続されなければならないことを私たちは認識しています。
現場での音響暴露と現場外での騒音公害は,関係者全員の健康と幸福にとって極めて重要であると考えるべきです。
研究や規制が追いつくのを待つだけでなく何かをする必要があります。

そこで私たちは,現場での音への暴露と現場外での騒音公害という問題の二重性に焦点を当てた,ライブイベントの音響/騒音マネジメントイニシアチブの創設を提案します。
このイニシアチブは,これらの分野における現在の有用な実用例を詳述し,会場,イベント,メーカー,そして場合によってはパフォーマーが自主的に遵守を誓うことを可能にするでしょう。
ウェブサイトやその他の資料にロゴを掲載することでアピールができます。
このロゴを使用することで,会場にいるすべての人(ミュージシャン,技術スタッフ,ボランティア,ベンダー,警備員,報道関係者,そして最も重要なことだが観客)だけでなく,会場を離れた周辺地域の住民の健康にも配慮することを表明することになります。

このような取り組みに参加することで,一般の人々は,あるイベントや会場が,すべてのステークホルダーの健康を促進するために何をしたかを理解することができます。
このイニシアチブは,このレポートで取り上げたすべての分野における現在の成功事例を包含するものであり,新しい情報が入手可能になれば定期的に更新されます。
イニシアチブのメンバーは,標準的な慣行として認められている情報に基づき行動することになります。

このイニシアチブでは,大規模な野外ライブイベントでの慣習を標準化するという第一の目標に加え,ここで提起された多くの疑問(そして必然的に出てくるであろう他の疑問)に答えるために必要な研究を支援し,リードしていきます。
このような研究は,最終的には新たな規制や基準の策定につながるでしょう。
このような目標を達成するために尽力する専門家を集めることで,野外イベントの現場と現場以外での体験を可能な限り安全で充実したものにするための専門知識を集め,研究を推進することができるでしょう。

このイニシアチブのワーキングネームは「The Healthy Ears, Limited Annoyance (HELA)」です。
Healthy Earsは,イベント会場にいるすべての人(働いている人,ボランティアとして参加している人,観客として参加している人を問わない)の聴覚を健康に保つための取り組みを示しています。
Limited Annoyanceは,会場外のコミュニティに焦点を当て,イベントによる騒音公害による過度の騒音を避けるよう努めます。
騒音を完全に防ぐことは不可能であると考えられるため,Limited(限定的)という言葉が使われています。騒音による被害をできるだけ抑えることが目標です。
HELAという頭字語は,カリフォルニアでよく使われる俗語の "hella "をもじったもので,veryを意味します。
この場合,このイニシアチブのメンバーであれば、誰でもHELA-comliant(very compliant)とみなされることになります。

このようなイニシアチブは,オーディオ技術協会以外の組織からの意見や持続的な参加なしには成功し ないでしょう。
Make Listening Safe initiative [359] を通じて安全なリスニングの実践を提唱している世界保健機関(WHO),音響学会(IOA),米国音響学会(ASA)などの団体も参加すべきです。

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