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惹かれる二人【短編小説】
すごく綺麗な眼をしていた。
魅力的という感じではなかったが、何故か惹かれた。
仕事の取引先で、商談のついでに来ていた部下の・・・
名前も覚えてない。
でも眼だけはハッキリと脳裏に焼き付いている。
また彼女と会うことはあるだろうか。商談が上手くいけばまた会えるかもしれない。
「お~い、前村~」
「あっ、はい部長!」
「こないだの△△△の商談、お前決めてこい。何の問題もないだろう」
「はい。私一人でですか?」
「ただ決めてくるだけだ。明日行くように連絡しとくから、頼んだぞ」
「はい。分かりました」
また取引先に行くことになったが、彼女に会えるだろうか。
あの眼が忘れられない
小動物のような可愛らしい眼とか、パッチリとした大きい眼でもない。切れ長で、奥二重の、少し影があるような眼。
商談中ずっと気になって、惹かれるがあまり直視出来なかった。
彼女が書類を見ている隙をみて、じっと見ていた。
もしかしたら初対面ではないのではとも考えた。幼いときの同級生や、実は通勤中によくすれ違っているのではと想像した。
今夜は名前も忘れてしまった彼女の眼を思い浮かべながら眠りについた。
*******
「僕たちはもうここでは生きていけない」
「・・・ええ」
「来世でまた会おう。そして、今度こそ結ばれよう」
「でもどうやって来世で会えるかしら。来世に記憶は残らないのでしょう?」
「私は信じている。君のその眼は、死んだって忘れない」
「ええ、私も、あなたの声は忘れません」
「私の喉を、この小刀で刺してくれ。私は君の眼を刺す。互いに忘れないように・・・それから、この崖に身を投げよう・・・」
「ええ・・・」
*******
先日の商談を決めるためにファミレスに来ている。取引先の彼女は来てくれるだろうか。
「お待たせしました。前村様・・・でしたよね?」
「あ!は・・はい。お一人ですか?」
「ええ、うちの上司が決めるだけだからと・・・」
「そうですか。私も似たようなこと言われまして、とりあえず書類の確認だけお願いしてもよろしいですか?」
「ええ、承知致しました」
それにしても昨日は変な夢を見た。今目の前にいる彼女とそっくりな眼をした人と心中する夢だった。
しかも彼女の眼を刺して、自分は喉を彼女に刺されて、崖に落ちていった。
彼女が書類に目を通している。
やはり、夢で見た眼と同じだ。
透き通ったというよりは、奥の深い、吸い込まれるような眼。
あの眼に刀を・・・
「すみません」
「キャッ!?・・・すみませんビックリしちゃって・・・」
「すみません、書類に集中してる時に急に声かけて。先日伺ってるとは思うのですが、お名前聞いてもよろしいですか?」
「ええ、私、芳野と言います。かんばしいの芳に、野原の野です。研修中なのでまだ名刺がなくて・・・」
「そうなんですね、名刺がね・・・」
彼女の、芳野さんの眼が気になってしょうがない。話も上の空になってしまっている。
よしっ。どこかで会ったことがあるかくらい聞いてみよう。下手なナンパみたいだけど、このまま帰っては今夜寝れなくなりそうだ。
「あの・・・」
「あの・・・」
言葉が重なって質問をさえぎられてしまった。
「いや、すみません。たいしたことじゃないんで、なんでしょう?」
「あの・・・私、あなたの喉を・・・」
「え?」
ドッ・・・クン
心臓が大きく脈打った。
「喉を・・・刺した夢を見ました」
「・・・喉を・・・僕もあなたの眼を・・・」
「私の眼を?」
「はい・・・・・」
「・・・・・」
しばらく沈黙が続いた。気まずいというよりは、何が起きているのかを把握するのに時間がかかっての沈黙だった。
「・・・あの」
「はっ・・・はい!」
「今度ゆっくりお話ししませんか?その夢の話聞きたいです」
「ええ、喜んで」
結局ナンパみたいになってしまったが、同じような夢を見るという偶然があるのだろうか。
部長。商談どころか、最後まで決めちゃいそうです。