やりたいことがない方が、自由になれる。“スーパーハッカー”的な生き方【#8:「 #思い出の映像作品 」】
「で、君のやりたいことはなに?」
その質問には、最後まで自信を持って答えられなかった。
気まずい空気が生まれないように、抽象的な言葉でお茶を濁す。
「そんな綺麗に言語化できるようなものじゃないでしょ」「それなりに仕事に熱意は持っているし、上昇志向も平均以上にはある。なんでそれだけじゃ駄目なの?」ーー心の中ではそんな文句を垂れ流しながら。
今から2年ほど前、“就職活動”の面接での思い出だ。とにかく「やりたいこと」を求められ、そこからトップダウン的にキャリアプランを設計させる風潮にいつも違和感を覚えていた。
それから1年後、なんだかんだいって会社員になり、就職活動の頃に抱いた違和感を消化しきれないまま、日々を過ごしていた。
そんなとき、ずっと抱いていた違和感に揺さぶりをかけてくる、ある一つの映像作品に出会った。
「モメンタム・ホース」メンバーが、異なるテーマでマガジンを更新する「言葉を共有していく感覚」。至極パーソナルな話をしながら、メンバーを相互に理解しあうことが主な運用目的です。そして、今回のテーマは「 #思い出の映像作品 」。各人が思い入れのある映像について紹介しあいます。
✳︎✳︎✳︎
自分の思い出の映像作品は、連続テレビ小説『ひよっこ』だ。
『ひよっこ』は、2017年4月3日から9月30日までの毎朝放送されていた、NHKの連続テレビ小説(通称、“朝ドラ”)。有村架純演じる茨城の少女・谷田部みね子が、集団就職を経て上京し、日々奮闘する様が描かれる。脚本は、『ビーチボーイズ』『ちゅらさん』など数々の名ドラマを手がけた岡田惠和氏の書き下ろし。
視聴者のボリュームゾーンだと想定される、団塊世代に向けて描かれた当時の社会風俗(歌から日用品まで)が、レトロ趣味のきらいがある自分には刺さった。
また4,5年ぶりに朝ドラを観て、「毎朝15分」のワクワク感や、嫌なキャラクターが一切出てこないがゆえの安心感など、朝ドラならではの視聴体験を久しぶりに味わった。それがきっかけで、最近は朝ドラを生活の一部になっている。
しかし、自分が『ひよっこ』で一番印象に残っているポイントは、別にある。
朝ドラといえば、女性主人公が夢を叶えていく立身出世物語が定番だが、『ひよっこ』は違った。
主人公の谷田部みね子に、特に「やりたいこと」がないのだ。
お父さんの失踪をきっかけに、流されるままに上京を決める。上京後も、最初の就職先の工場の倒産後、流されるままに行きつけの洋食屋さんに雇われる。とにかく一貫して、「やりたいこと」がない。ただただ真面目に、目の前のものごとに取り組んでいく。
作中に印象的な台詞がある。
「高校でもさ、『これからの若い者は、自由に人生を選択できるんだ」って言うんだけど、自由ってなに?」
「私は、やることが目の前にあって、それを一生懸命やるのが好きだよ。それを不自由なんて思わないよ、全然。」
ドラマの序盤でみね子が口にした台詞だ。このスタンスは、上京し、様々な経験を積んでいく中でも変わることはない。
やりたいことなんてない。けれど、目の前にあることを一生懸命やっていけば不自由は感じず、それはある意味「自由」なのだと。
『ひよっこ』は、就職活動のときから抱いていた違和感に対して、考えを深めるきっかけを与えてくれた。
やりたいことが見つからない人が、やりたいことを必死に探していく道のりは、きっととても苦しい。少なくとも、自分は苦しかった。
明確な「やりたいこと」なんて、パッと思いつかない時点で、存在しないということなのだと思う。存在しない「やりたいこと」を求めて彷徨う旅は、みね子の言葉を借りると、実は「不自由」なのかもしれない。
ではどうすればいいのか?
とにかく目の前にある仕事に全力で取り組むのが、「自由」への近道となり得るのだ。個人的に、それは「無思考に言われたことだけやる」とイコールではないと思う。自分なりに工夫をするのでも、快楽を感じるポイントを見つけ出すのでもいいから、とにかく既存のものを“ハック”する。日常のあらゆるものごとに精一杯取り組み、それ自体を楽しむみね子のような、“スーパーハッカー”的な生き方。
みね子のように生きれば、「やりたいこと」がなくても「自由」になれるのではないだろうか。自分は、「本当にやりたいことは何なんだろう?」と悩むことが多いタイプだと思うし、だからこそ「人文系の学部→AI系スタートアップのマーケター→編集者・ライター」という一貫性のないキャリアを歩んできているのだろう。
目の前のことに批判的かつ主体的に取り組んでいくことで、自ずと道は拓ける。「やりたいこと」に縛られて、それに紐づいた生き方をするくらいなら、「やりたいことなんて、なくてもいい」というスタンスの方が、自由になれるのかもしれない。
最後に、今回の内容とかなり似た思想に貫かれた一本のインタビュー記事を紹介し、来週のいげたあずささんにバトンを渡したい。
(決して忖度ではないです。決して。)