黒い額縁の中で微笑むあなたへ
がたんがたん、がたんがたん、がたんがたん。
同じ間隔で揺れる身体、向かい側の窓から見える夕陽、それを反射する海。
「お嬢さん、ひとりなの?」
私の斜め向かい側に座るシルエットから優しく声をかけられる、顔は見えない、逆光によって遮られてるからだ。
家に帰りたくないの、と私の唇が震える。どうして、と返ってきて、遂に私の視界が歪んでくる。
「褒めてくれたから、頑張ってこれたのに。褒めてくれる人がもう居ない、から、」
ぎゅうっと膝に置いた手に力が入る、握ったスカートがしわくちゃになった。それを叱る言葉も、泣いていたら慰めてくれる手も、もうない。
すると彼女は溜息をついて、立ち上がる。びゅうっ、入り込んだ風が強くて咄嗟に目を閉じて手の甲で遮った。
「早く帰りなさい」
その優しい、声は。
***
「ーーおい、頼む、起きてくれ…っ」
必死に揺さぶられて、重い頭が意識を拾い出す。思考が動き出す頃には目の前に黒い服を来た父親の顔、…泣いていた。
どうやら葬式の最中に家を飛び出して、歩いていたら写真を落としそうになって、それを取ろうとして、土手から川へと転がり落ちたらしい。寒い、寒くて服も重たい。
「…お母さん」
夢の中まで、泣いてごめんね。
握り締めていた写真を抱き締めて、小さく呟いた。
https://prologue-nola.com/novels/fxyOo1JO5gYCIKcqCMDU
↑に載せたものをこちらに再掲してみました。
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