【短編小説】クレッシェンド
「上手だね」。
あなたにそう言ってもらいたくて、今まで頑張ってきた。
競いたくもないスコアを競い、こなしたくもないノルマをこなし、したくもないことだって全て手を出した。
なのに。
新しい若い芽を見つけたら、あなたはすぐそっちに乗り換えた。
ボクは、あなたに見て欲しかった。褒めて欲しかった。認めて欲しかった。
ねえ…なんでまだそんな奴のこと、気にしているんです?
そんな奴のどこがいいんです?
ボクの方があなたに従順なのに…ボクの方があなたのことを考えているのに…。
そう、ボクの方が…。
ボクの方がボクの方がボクの方がボクの方がボクの方が…!
ほら、よく聴いてください。
この曲のこの部分、あなたの言っていた通り弾けるようになったんですよ。
だから、また「上手だね」って褒めてください。ボクを見てください。
最期くらい、アイツじゃなくてボクだけを…。
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